第2章 第1話 戦艦
第2章の始まり始まり!
ってほど大したことはないですが・・・。
タイムスリップ。
それがどんな感じなのか。
それは実体験したこの二人にしかわからないだろう。
といっても、感覚ってものは人によって違う。
というのは、この二人もそれぞれ異なる印象を持ったからだ。
岡田は、短くて快適だと思い、自分の発明に満足した。
だが松村は、異様に長くて、気色悪い時間だったと感じた。
タイムスリップした二人を襲った感触は、まるで誰かに張り倒されたかのような感覚だった。
二人の乗った機械付きの座敷は、どこかのコンクリの陸地に着いた。
コンクリって事は、少なくとも人間がいない程の大昔ではない。
二人は座敷の上で仰向けになって寝転がっていた。
コンクリには所々に水溜まりがあり、西陽に照らされて熱くなっていた。空は快晴で真っ青だ。
だが、コンクリはコンクリでも、どこかの道路という訳でも無かった。
そこはただっ広い土地で、向こうには、まるでどこかの城の、これまたコンクリで出来た天守閣の様な建物がそびえ立っていた。
二人の意識は、タイムスリップ時のフラッシュによって朦朧となっていて、あらゆる感覚が寝起き並になっていた。
最初に戻ってきたのは、視覚だ。
フラッシュのおかげで、周りの世界はまるで夜がいきなり昼になったかの様に見えた
それとほぼ同時に戻ってきたのは触覚だ。
風を受けて、丁度いい涼しさだった。
次に戻ってきた嗅覚で、その風は潮風だとわかった。
つまり海の近くという訳だ。
そして、次に戻ってきたのは聴覚だ。
松村はイヤホンの大音量で、岡田は発明時の諸々の騒音で難聴になりかけている耳だ。
だがそんな耳にもハッキリと聞こえる音が二つ。
一つは、何かが大量の水を切り裂くような音。
そしてもう一つは、どこか遠くで聴こえる太鼓のような音だ。
「ここはどこだ?」
松村が起き上がって、頭を摩った。
自分の言った言葉の意味も理解できてない様な様子だった。
「さあな、現代かもな。」
岡田は寝転がったまま返事した。
冗談のつもりで言った台詞だったが。
この言葉が誤りだとわかったのは、それから数十秒後のことだった。
ゴオ~! ドカン!
突然の轟音と共に、鉄らしきものの塊が燃えながら地面の方へと落ちていった。
だが、硬そうな地面に当たった訳ではなく、地平線に落ちる太陽のように、その機体は落ちていき、そのすぐ後に、聞いたこともないような爆発音がおきて、機体が落ちた方に巨大な水柱が立った。
二人は思わず耳を両手で塞いでしまった。
この出来事ですっかり目覚めた二人は、立ち上がって辺りを見回した。
未来か過去か、或いは現代かも知れない。
見回してとりあえずわかったことは、ここは船の上だって事。
それも戦場の真っ只中を航海している軍艦だということだ。
陸地は見えず、船は水平線に囲まれている。遥か彼方の煙のように灰色な雲が時折赤く照らされ、その何十秒か後にあの太鼓のような音が聴こえた。
ここが未来か過去か知る手がかりは、偶然にも身近にいた。
「おい、松ちゃん!こういうのは詳しいだろ!?今がいつだかわかるか!?」
岡田は松村に問いかけた。
その通り、彼は無類のミリタリー好きで歴史好きだ。
松村はもう一度辺りを見回した。
松村曰く、これは空母だそうだ。
確かに後方には、小型の戦闘機らしき機体が数十機停まっていた。
だが、艦上には誰ひとりとしておらず、海の音と例の太鼓のような音が聴こえる以外は静まり返っていた。
「こんな艦は見たことも無い。少なくとも大戦中の艦でもないし、現代の日本及びアメリカの艦でもない。」
「現代か未来ってこと?」
松村は三度辺りを見回した。そして見つけた物。彼には時代が確実にわかった。
「未来だ。見ろよ。」
日本国の日の丸国旗が、船首の先端で風に揺られていて、その横には何とアメリカ合衆国の国旗が並んではためいていた。
存在しない筈の艦に日本とアメリカが仲良く並んで戦争。
あるはずない戦争だ。
未来ならわからないが。
「どこだ?こんな国々を敵に回してるのは?」
「さあな。北朝鮮辺りじゃないか?」
二人が論じあっていると…。
ウ゛~~。
どこからか、突然サイレンが鳴り出した。
まるで甲子園球場みたいな長いサイレンだ。
すると、戦闘機の停まっている方から、突然マンホールが開くような音がして、中から沢山の人々が出てきた。
格好と彼らの行動からして、どうやら戦闘機の乗組員達の様だ。
皆、松村達と同じぐらいの年頃だ。
彼らは中から飛び出すや否や、一目散に戦闘機のコックピットに飛び乗り、「クリアー!」と叫んでキャノピーを手動で閉めた。
二人は彼らに近寄った。
本来なら絶対に避けるべき行為だが、今は恐怖よりもある種の好奇心の方が先行していた。
皆がいそいそと機に乗り込む中、その中の一人だけ、二人の方を見て立ち止まった。
すかさず松村が叫んだ。
「すみませーん!お尋ねしたいんですがー!」
筆者の知る限り、これ以上に滑稽な光景は無いだろうと思う。
戦場の真っ只中、空気の読めない青年がパイロットに向かって「お尋ねしたいんですがー!」。
パイロットの青年は数秒立ち止まった後、いきなり松村達に向かって速足で突進してきて、尋ねる松村を押し倒した。
「痛っー!何すん…!」
松村がパイロットの顔を見ると、途端に愕然となって、勢いは無くなった。
それまで、この時代について気になっていた事とか、そういうのは全部消し飛んで、ある一つの質問が頭の中に残った。
「お前…、斉藤?斉藤か!?」
とまあ、謎の多い第2章です。
とりあえず未来だというのは確かで、この戦争の設定についても細かく決めてあります。
時事ネタを絡めた話になりそうです。
どうぞよろしく。