9。買い物とお財布事情
「馬車って初めて〜」
「そちらの世界ではどんな乗り物がありましたか?」
「ん〜。色々ありますよ。地下を走るものから、空を飛ぶもの、その先の星まで行けるもの…陸海空、どこへでも行けますね」
考えてみると乗り物ってたくさんあったな。
「地下や空も…空飛ぶ馬がいるのでしょうか?それか鳥…ですか?」
「いいえ。え〜っと、それぞれの乗り物に合わせた動力を使って移動するんです」
色々知りたがる彼に話しているうちに街の中心部に到着した。
「わぁあ!可愛い!!」
中世のような街並みにテンションが上がり、ついあちこち目がいってしまう。
お店に置かれたものを見ては「これは何?」とか「どうやって使うの?」など、聞きながら回るのでなかなか進まない。
まだ何も買わないうちにお昼になり、カフェでスープとパンを食べながら午後の予定を話し合う。
「袋を閉じるリボンが欲しかったんです」
「ではこの後手芸屋に行きましょう」
「はい!」
案内された手芸屋で「どれでもお好きな物をどうぞ」と言われたので一応の予算を聞くと「もしもこの店の物全て欲しいと言われても大丈夫です」と、おどけた顔で言われてしまう。
もちろん本当に全て買うわけでもないので、まずリボンを選ぶことにした。
赤い2センチ幅のベルベットのリボン。
これ買ってもいい?と眼差しを向けると、頷く彼。
それからカレンダーに入れるための綺麗なボタンや、指抜き、ピンクッション、刺繍糸のセットなどを選んだ。
次はお菓子屋に寄り、宝石のような見た目の果物の砂糖漬け、フリュイ・コンフィもたくさん買ってもらう。
カレンダー用のリボンと、25個の小さなプレゼントが揃った。
「ありがとうございます!もう大丈夫です」
「もういいのですか?」
「はい。充分です」
ホクホクした気持ちで馬車に乗る。
カタカタと揺れる馬車に揺られながら、瓶に入った色とりどりのフリュイを眺める。
「宝石みたいで綺麗よね」馬車の窓から入る夕陽に照らされた砂糖がキラキラと煌めく。
「今度本物の宝石屋にも行きますか?」
「あー…、宝石はいらないわ。持っても使う時ないし、それに…」
「それに?」
「今日色々買っていただいたけれど、自分のお金ではないから…やっぱり何かを買うのであれば自分のお金の方が気兼ねがないですし」
買い物は楽しいけれど、誰かの財布で買うのは気が引けるのよね。
「気にしなくても大丈夫ですよ?」
「ん〜…そういう事じゃないのよ…例えば誰かにプレゼントしようと思った時、父親の財布からお金を出すのってなんか違うと思うのよねー」と言うと何故か彼が暗い顔をしていた。
え?なんか変な事言ったかしら?
まさか今日の買い物が父親の財布とかじゃないわよね。
「……あの…確認ですが…まさか今日のお財布は…お父様のではないですよね?」
「いえ。ちゃんと私の財布から出しています」
ジャスパーさんの財布かぁっ!!それはそれでまた微妙。
「あの…何かすみません。私の欲しいものを買ってくださりありがとうございます」
「いえ…」
「でも。本当に楽しかったです。ありがとうございました」
そう言った後、自然に笑みがこぼれた。
…本当に楽しかった。
今日の事を思い出しながら、窓の外に流れる景色を眺めていたら、いつのまにかうとうとと寝てしまった。




