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7。聖女との再会

 翌日。



 山下に会うためガゼボに向かう。


 ガゼボまでの小道は薔薇やダリアが咲きみだれ甘い香りが充満して凄く綺麗で、今度山下と関係ない時に来ようとこっそり思っていた。


「あちらで聖女様がお待ちです」

 案内役の人が示す先には、趣味の悪い真っ赤なドレスを着た…


「あれが山下?」


 カパッと真っ赤な口を開けて、男性にお菓子を食べさせてもらっている山下は、げっそりと頬がコケ、髪はパサパサで目は窪み肌も土気色をしていた。

 彼女を取り囲むように、数人の男性も見える。

 こちらに気づいた山下は、ニンマリ笑うと骨と皮だけになった手をこちらにヒュルリと伸ばし、おいでおいでと手招きをした。


「え…行きたくない…」ジャスパーさんに目で訴えると、首を横に振られた。


「浜崎先輩〜こっちこっち〜!…どんな暮らししてるかと思ったら、そんな地味なワンピース着てダッサ!」と言ってキャハハと笑った。

 だらしなくドレスの肩が落ち、骸骨のような胸元が露わになっている。別れてから一ヶ月も経っていないのに。

「山下…あんた…どこか具合悪かったりしてない?」

 心配になってそう聞くが「誰に向かってそんな馴れ馴れしい口聞いてんのよ!私は「聖女様」なのよ!口の利き方に気をつけなさいよね!」

 乾き、ひび割れた唇から唾を飛ばして彼女は怒る。


「いやいや、山下。あんた自分がどんな状況かわかってんの?」

「なあに?羨ましいの?」

「え?全然…」

「はあっ!?あんたのそういうところ、本当に大っ嫌い。やっぱりあの時殺しておいて良かったわ!」


「自分も死んだくせに?」


 カーッと顔を赤くした山下がドンとテーブルを叩いた。

「この世界に来れたのは誰のおかげだと思ってんの!?偉そうな口聞くんじゃないわよ!」

 金切り声をあげ、手元にあったティーカップを投げつけてきた。

 あっと思ったが、山下が手をあげるのと同時に、山下の隣にいた男性が山下に抱きつき、カップの軌道がズレて私に当たらずにすんだ。


 今のワザと抱きついたんだ。

 その人と目が合ったので小さく頷くような会釈をしておく。


 興奮してハアハアと肩で息をする山下。会うのはこれが最後かもしれない。


「ねぇ、山下教えて。死んだあんたにとってここは天国?それとも地獄?」


 その質問に一瞬呆けた顔をした山下はすぐにニンマリ笑い、両手をいっぱい空に伸ばし「天国に決まってるじゃない!」そう言って嬉しそうにあはは!!と笑った。


「……そう……なら良かった…。じゃあもういいわよね」

 さよならと言って私はその場を離れた。






 山下の手前、虚勢を張っていたけれどガゼボが見えなくなると膝から崩れるようにへたりこんでしまった。


「怖かった…」


 異様な見た目も、思い込みであそこまで言えてしまう山下も。

 驚くジャスパーさんに震える手を見せながら、えへへと笑うしか出来ない。


「はああぁ…」大きく息を吐いて気持ちを整えるも、震えは収まらず。

 どうしようかと思っていると「…失礼します」ジャスパーさんがしゃがみ込む私の横に片膝をついた。そして私の手を取ると自分の首に巻きつけ「しっかり捕まってくださいね」そう言ってふわりと私を抱き上げた。

「えっ…あの…」

 そう言ったものの、何故か降ろしてとは言えない。

 何も言えずに黙っていると「大丈夫です。このまま部屋に戻りましょう」と穏やかな声が聞こえた。


「…はい。……ありがとうございます」

 そっと腕に力を入れて体を寄せる。彼の温もりが心地良くて目を閉じた。

 誰かを抱きしめる、誰かに抱きしめてもらえる事がこんなに安心をもたらすのだと思い出せたことが嬉しかった。



 部屋に戻るとそのままベッドに降ろされて「少し休んだ方がいいですよ」と言うジャスパーさんに従ってそのまま眠りにつく。





 午後。

 寝た事で落ち着いたので、様子を見に来てくれたジャスパーさんにお礼を言う。

「あの…先程はありがとうございました。お手間をお掛けしてすみません」

「いえ…」


「え…っと、大ちゃんのお誕生日パーティーについてなのですが…」

「はい」

「お菓子を焼きたいのと、アドベントカレンダーに入れる物について相談したくて…」

「アドベントカレンダーとは…?」

「プレゼントを入れた袋を25個用意して、大ちゃんのお誕生日を迎える日まで、毎日一つづつ開けていくのです。中に入れるプレゼントはなんでも良いのですが…この世界に私の持ち物はないので、どんぐりでも拾って入れようかと思っていまして…」

「どんぐりでないとダメというわけではないのですよね?」

「はい。お菓子とか…好きな物を入れていいのです」


 彼はふむ…と少し考えて「では、一緒に街へ買い物に行きますか?」と提案してくれた。

「えっ!街に行ける…というか街があるんですか?」街とか考えもしなかった。


「そうですよね…ずっと城に篭っているだけですから…何もわからないですよね…では、明日は街へ行きましょう」


 嬉しいっ!でも…

「あの、私お金持っていないので何か欲しい時はどうすれば良いでしょうか…」

「それはこちらできちんと準備します」


「…良いのですか?」


「はい」



 明日、ジャスパーさんと街に行く事が決まったのは嬉しいが、買い物へ行くのにお金がない事が凄く不安だった。





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