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6。ここは天国か地獄か

 手紙を眺めながら考える。


 行かなくてもいいけど、行かないとずっと手紙が届くのだろう。

 どうしようか…

 意見を聞こうとジャスパーさんを見ると、何故か悲痛な顔してる。

「え?どうしたの?」


「その…この国の聖女について知っておいた方が良いと思いまして…」


 あ、そうだ。ここに来た時に聞こうとしたけど、嬢が邪魔して聞きそびれてたんだった。

「教えてください」


「はい…。この国では数十年に一度、邪神が眠りから目醒めるのです。空腹で目醒めた邪神は糧を求めます。邪神の空腹を満たせば、邪神はまた眠りにつくのです。邪神の腹を満たすのは、妬みや怨みなど腐った思い。この国では、邪神の腹を満たすことのできる女性が聖女と呼ばれているのです」

「つまり聖女とは?」

「邪神への供物になります」

「供物…?」

「聖女は邪神への貢ぎ物です。妬み嫉みが強いものが「強い聖女」と呼ばれます。聖女の力が多いほど…神は喜びます」


 山下が評判高い聖女というのを納得出来てしまう自分がいる。

「でもどうしてわざわざ…」

「異世界から召喚するか…ですか?」


 自分で聞いておきながら、すぐに答えがわかってしまった。

「…私たちは死んでいるから…ですね」

「はい」

「この国の人を生け贄としてささげなくても、死んだはずの人、しかも異世界の人を捧げるのであれば……悲しむ人はいないものね」


「……」


 本人の許可もなく… 搾取されるためにこちらの世界に召喚されただなんて…納得いかない。


 けれど…人は亡くなると天国か地獄のどちらかに行くのなら。


「日頃の行いのせいで、地獄に落ちたということなのかな…」


 私も山下と同じ地獄に落ちたのかな。本人の意思なんて関係ないはずだから。

 でも、いまのところ地獄で暮らしてる気はしていない。


「あの…私もこちらに召喚されていますよね?その…妬みや嫉みを搾取されているのでしょうか?」

「妬み嫉みをお持ちですか?」

「いいえ…」

「セトカ嬢はリオカ聖女の召喚に巻き込まれただけなのです。どうして巻き込まれたかは不明ですが…」


 そう言われて落ちた時の様子を思い出してみる。

「……あっ!あの時!!」

「心当たりがおありですか?!」

「突き飛ばされた時、咄嗟に山下の腕を掴んだんです。もしかしたらそれが原因かも?」

「断言はできませんが、可能性は高いかもしれません」


 あのせいで…お母さんのところに行く事ができなかった。きっとお母さんは天国へ行ったと思うから。

 ふうっと大きく息を吐き、ふるふると頭を振る。


 そんな私の事を心配そうに見つめるジャスパーさん。聖女の事を告げるのは彼も辛かっただろうと思う。だから。


「地獄の番人がジャスパーさんなら我慢します」と笑ってみせた。

「地獄?」

「人は死んだら地獄か天国に行くそうです。私が落ちたのが地獄なら番人はジャスパーさんですよね」

「その…地獄というのはどんなところですか?」


「うーん。仕事したいと言ってもダメと言われて、ハンカチをあげると言ってもいらないという人がいるところかな」そう返す。

 ハッとしたジャスパーさんが急にソワソワしだし、大ちゃんハンカチをちらちらと見ている。


 私はその姿に満足し「大ちゃんはあげないですよ」と言って、刺繍を再開する。


 すると彼は眉間にシワを寄せてしばらく大ちゃんハンカチを眺めていた。



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