表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

13。その頃、ジャスパーは

 

「はいコレ」


 デュラン王子に渡された書類の山を黙って受け取る。

 いつもより多く感じる書類を淡々とこなしていく。




 この世界に来た彼女を、セトカ嬢が聖女かどうかの見極めを任されてから、毎日数時間は彼女と過ごす日々が続いていた。

 まるでそれが当たり前のように。


 最初は女性のそばにいなくてはいけない仕事に抵抗があった。


 今まで見てきた女性と同じように、こちらの気持ちなど考えず、甘ったるい声で擦り寄ってくるものだと思っていたから。


 しかし彼女は私に興味を示さなかった。距離を縮める事もなく、必要以上にこちらに踏み込む事はしない。

 それが彼女にとって当たり前と気づいた時…彼女に向けていた自分の浅はかな考えが凄く恥ずかしかった。


 彼女が刺繍したハンカチ。

 彼女がプレゼントしてくれると言ったのに、呪われたマンドラゴラと思って断ってしまった。

 そのせいで自分は「地獄の番人」と思われているようだ。


 そして…




「ゔあああ……!!!」


 思い出したら死ぬほど恥ずかしい!


「ねぇあなた…」


 自分の顔から火が出るのがわかる!何故あんな事を!何故あんな風にっっ!!


「あ"あ"あ"あ"ーーー!」

 思わず両手で顔を覆ってしまう。あれは私が悪かった!

 あの時の彼女の驚いた顔を思い出すたび自分が情けなくなる…


 何故無防備な女性の頬を包み、おでこをつけたのか!?


「あ"あ"あ"…」


「………ジャスパー。お前さっきから心に秘めておくべき叫びがダダ漏れしてるぞ…」

 王子に言われ、そうだったかと気づく。

「あ、すみません」

「おい。それで済まそうと思うなよ」


「はぁ…ジャスパー。邪神と聖女が眠りについた後、セトカ嬢には城から出て行ってもらう予定だ」


「なっ!彼女を城から出すなんて!」


「当たり前だろ?王族でもない彼女を、いつまでも城においておくわけにいかないだろう。それに…彼女にも自由があっていいはずだ」


「…」彼女の自由…。


「この件、彼女にも伝えてあるよ。たぶん彼女はこちらの提示した条件を受け入れて、街で暮らす事を選ぶだろうね」


 王子の言う事は当然だ。しかし彼女が城から出て行けば、私が彼女のそばにいる理由はなくなってしまう。

 

 異世界から来た彼女の常識はこの国とは違う。

 彼女の年齢は私の2つ年下の26才。この国であれば結婚し、子供を育てているような年齢であるが、彼女の国の平均結婚年齢は男女共に30才前後だという。

 女性も男性も仕事を持ち、結婚してから、出産してからも働き続ける女性は多いそうだ。

 彼女は今までもこれからも、結婚は選択肢に入れていないと言っていた。


 私もそうだった…誰とも結婚しないつもりでいた。今までは…。


 彼女が聖女と対峙した日。

 彼女の弱さを知ってしまってから…そばにいて守りたいという気持ちが日に日に強くなっている。


 彼女が愛おしい。

 自分の気持ちはわかっていても、それに対してどう動けばいいかわからない。



「ジャスパーは彼女に仕事と、街に家を見つけてあげて」


 この件はこれで終わりとばかりに、王子は書類に目を戻した。




 




 。。。




 嬢の家での楽しい一日を終え、お城に帰るとエントランスにはジャスパーさんの姿が。


「ただいま帰りました〜」

「おかえりなさい」

 ジャスパーさんが何か言いたそうなので、それよりも先にご機嫌をよくしてしまおうと思ってクッキーを渡す。


「すご〜く楽しかったですよ!はいコレ」

「え?」

「ローザさんと一緒に焼いたクッキーです。いつもたくさんお世話になっていますので、ほんの気持ちです」


「……ありがとうございます」


 喜んでくれているのはわかったけれど。



 ジャスパーさんは、どこか上の空だった。






セトカ26才

ジャスパー28才

王子29才

リオカ22才

でしょうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ