10。デュラン王子視点と、おともだちからの御礼
デュラン王子視点
セトカ嬢との茶会の日、聖女は今までで一番多く恨み嫉みを邪神に与えたようだった。
聖女はよほどセトカ嬢が憎いのだろう。ほんの数分で何年分もの眠りを与える事ができたと魔術師たちが驚いていた。
そのおかげで邪神は短い期間で眠りに入りそうだと言う。
そして聖女も。今はベッドに横たわりか細く呼吸をしているだけ。
しかし時折、目を見開き笑いだす。
幻覚剤は彼女に何を見せているのだろう。
邪神が眠りにつくと同時に、聖女も永遠の眠りにつく。
それからの後、セトカ嬢をどうするか。
仕事を求めるような彼女の事だ。街に家を借りて準備期間の保証をしてやれば、すぐに一人で暮らしていけるようになるだろう。
しかし…
「ジャスパーがそれを許すかな…」
聖女が二人召喚された時、ジャスパーに見極めを任せた。
もしセトカ嬢も聖女のようであれば、二人を邪神に差し出すつもりだった。
しかし彼女は聖女のような行いをしない。大人しく自分の立場を受け入れていた。
変化があったのはそれを見守るジャスパーの方だった。
公爵の次男であり、宰相の息子である彼。見た目の良さと王子の補佐というブランド力によって、幼い頃から女性に付き纏われてばかりいた。
学園に入学する頃になると、彼と婚約したい女性から色々仕掛けられる事にウンザリするようになり、誰とも婚約を結ばずこのまま独身を通すものと思っていたのに。
セトカ嬢が来てからというもの…
もちろん最初は仕事で彼女を監視していたのだが、それが今や。
彼女がちょっと不機嫌になれば落ち込み、彼女が笑えば釣られて笑う。
彼女から目が離せなくなっている、そんな自分にまだ気付いていないジャスパー。
「彼女を城から出すと言ったら…どうするかな」
ジャスパーの変化を楽しむ自分は本当に人が悪いと思う。
。。。
「カードラン侯爵家から「ハンカチのお礼」という名目で、大量のプレゼントが届いております」
朝一番。
昨日は楽しかったなー。昨日買ってきた物を袋に入れたらアドベントカレンダー完成だなー。今日も頑張って刺繍しよー。
なんて考えながらテラスで朝食を食べていると、微妙な面持ちのジャスパーさんに告げられる。
「へ?誰?」
「ローザリンデ カードラン侯爵令嬢。昨日お友達になられた方です」
「あー」
そそくさと朝食を食べ終えて、案内されるままジャスパーさんの後をついていく。
なぜか…彼の背中が怒気を帯びているのは気のせい?…ではないと思う。
「これが大ちゃんハンカチの御礼…」
目の前にはプレゼントの山が出来ている。
ドレスや靴、日常着のワンピースや髪飾り、アクセサリー。バッグにパジャマまで。生活道具一式丸ごとプレゼントしてくれた様子。
「わー!凄い!こんなにいただいちゃっていいのかな」
添えられたカードには《昨日は新たな気付きをありがとうございました。おかげで自分を見直すきっかけになりました。ささやかですが、御礼の気持ちとしてどうかお受け取りください》と書いてある。
彼女が大ちゃんを胸に乗せて喜ぶ姿を思い出す。
「ふふ…」案外可愛い人なのかもしれない。
「御礼の手紙を書かなくちゃ」とジャスパーさんに言うと、ぷいと顔を逸らされた。
やっぱり怒ってる。
なんだろう?
「ねぇ。なんで怒ってるんですか?」
「怒っていません」
「え〜…」絶対怒ってるじゃん。
なんで怒っているのか全くわからない。
「言ってくれないとわからないです。…あ、もしかして大ちゃんハンカチ欲しかったとか?」
「…」
「ジャスパーはヤキモチを焼いているんだよ」
返事をしない彼の代わりに背後から声がして、振り向くと王子様が笑っていた。
ヤキモチ?
「自分もセトカ嬢にプレゼントしたいのに、先を越されてしまったからね」
そうなの?と思って彼を見ると、かーっと顔を赤くしていた。
慌てて「何かご用でしたら部屋に伺います」と言う彼に「君じゃなく、彼女に話があってね」と王子様。
私?
「ジャスパーはここで待ってて」
王子様にそう言われた時のジャスパーさんの顔よ。
スーパーに入れず、入り口で不安そうに飼い主を待つ犬を思い出してしまった。




