第4話 なぜUTGは強いハンドでしか参加できないのか
翌日。
アカツキは喫茶店の隅で、ソウマに言われたハンドレンジ表と格闘していた。
「6人制のUTGの時は……ペアは22と33が際どくて44以上は全て参加。エースはスーテッド(マークが同じハンド)なら全てで、オフスート(マークが違うハンド)ならAとTの組み合わせ以上。キングだとスーテッドなら6が際どくてオフスートならTが際どい……」
アカツキは、まるで受験生のようにブツブツと呪文を唱えている。
その時、ソウマが喫茶店にやって来た。
「おいおい、そんな暗記の仕方じゃ続かないぞ」
ソウマはアカツキの手元のメモを覗き込んだ。
「え、でもソウマさん、昨日、オープンレンジを完璧に覚えろって……」
「最初は完璧を目指す必要はないよ。むしろ、細かい数字にこだわりすぎると、実戦で思考が止まる」
ソウマはアカツキのメモを裏返し、ペンで簡単な覚え方を書き込んだ。
「ポーカーには時間制限があるから、答えを出す速度も重要だ。最初は、**『ざっくりとした基準』**を覚えるだけでいい」
「例えば、『ポケットペア(最初からペアができているハンド、例:22)とスーテッドのA(例:スペードのAとスペードの2)は全て参加する』と決める。そして、後ろに5人いる時は、『その他のスーテッドは両方8以上』、『オフスートはスーテッドより3ランク厳しくして両方J以上』とする」
「そこから後ろの人数が減るごとにスーテッドとオフスートは1ランクずつ広くする。つまり後ろにSBとBBの2人しかいない**BTN**は『スーテッドは両方5以上、オフスートは両方8以上』だね」
「さらにCO(カットオフ、BTNの1つ前のポジション)だとスーテッドのKは全て、BTNはオフスートのA全てとスーテッドのJ全て。このぐらい覚えれば、オープンレンジはかなり正確になる」
「それだけでいいのか……。ところで、なぜそんなに差があるんだ?」
アカツキは核心に触れる質問をした。
「それが**『ポジションの価値』**だ。これを理解せずに暗記しても仕方ない」
ソウマは、目の前のコーヒーカップ、砂糖の袋、ナプキン立てなどを一列に並べた。
「このコーヒーカップが君だ。そして、君の左隣にある砂糖の袋が次のアクションをするプレイヤー。一番奥のナプキン立てをBTNだとしよう」
「なぜ、一番手のUTGは上位20%の強い手札しか使えないと思う?」
アカツキは考えた。
「なんで……?」
「じゃあ、少しヒントを出そう。自分がUTGにいる時と、BTNにいて前の人が全てフォールドした時、自分以外の誰かが『AA』のような最強ハンドを持っている可能性が高いのはどちらだと思う?」
「……ああ、なるほど。UTGは後ろにまだアクションしていない人が5人もいるから、誰かが強い手を持っている可能性が高いのか」
「うん。その通り。自分がUTGの時は、後ろにいる全員が自分より強いハンドを持っている可能性がある」
「もしUTGで9と7のオフスートのような弱い手でレイズしたら、後ろの強いプレイヤーに高確率でスリーベット(再レイズ)されて、君は即座に降りるしかない。レイズに使ったチップは無駄になる」
「つまり、UTGのレンジは強いハンドという防具で固めなければ、後ろから簡単に打ち破られるということか」
「そうだ。一方、BTNはどうだ?」
「BTNは後ろに2人しかいないから、後ろの人が強いハンドを持っている可能性が低くて……全員を降ろせる可能性が高い!」
「そう。そして、もし誰かがコールしてフロップに進んでも、BTNは相手よりも後にアクションできる。これが決定的に有利だ」
「ポーカーでは、『アクションが後手』なだけで、相手の行動を見てから判断できるという大きな情報アドバンテージを得られる。だから、BTNは弱い手札でも、インポジション(IP、後手)という武器を使って、広く勝負できるんだ」
アカツキは、レンジ表の数字の裏に隠された意味を初めて理解した。
「今日から、そのざっくりとした基準を意識して、頭の中でシミュレーションしよう。『このハンドはこのポジションまでならオープンできる』みたいに、逆から思い出すのも有効だよ」
「分かった、ソウマさん。ざっくりとした基準で、ポジションの価値を意識して覚えます!」
「よし。じゃあ、次のステップだ。座学は一旦オープンレンジまでにして、明日はアミューズに行こう。実戦でしか身につかない感覚もある」




