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第15話 トーナメント戦略の分かれ道

「君の話を聞いていると、継続的にミスをしている。しかも、私が教えたセオリーが原因の一つだ」


「……え?」


アカツキは動揺した。セオリー、つまり「正しいとされる理論」に従ってプレイしたのに、それがミスだとはどういうことなのか。


ソウマはナプキンを広げ、ゆっくりと図を描き始めた。


「君がBBで J7o や K5o をコールしたこと。これは、ある面においては正しい。しかし、ある面においては間違っている」


「今まで私が教えてきたのは、あくまで**『チップを増やすこと』**のみを目的とする、**チップEV(期待値)**の戦略だ」


「チップEV……?」


「チップEVは、トーナメントの順位や賞金に関係なく、純粋に**『自分のチップがどれだけ増えるか』**だけを考える。この理論に基づけば、AKのようなハンドでチップを高確率で倍にできるチャンスがあれば、たとえバブル(入賞直前)だろうと、躊躇なくオールインすべきだという答えを導き出す」


ソウマは、アカツキの目をまっすぐに見つめた。


「この戦略の最大の利点は、トーナメントで**1位(優勝)**になる確率が最も高くなることだ。リスクを恐れずにチップを増やしにいくわけだからね。つまり、優勝のみを目指すなら、極めて合理的な考え方と言える」


「しかし……」ソウマは少し声を落とした。「君がバブルで AK をフォールドした気持ちは理解できる。君には、**『確実に入賞したい』**という、もう一つの切実な目的があった」


アカツキは小さく頷いた。


「はい……」


「つまり君は、優勝以外に、**インマネ(入賞)やプライズアップ(順位が上がって賞金などが増えること)にも価値があると考えている。そう考えるならば、バブル付近ではICM(独立チップモデル)**という、チップEVとは異なる考え方を導入しなければならない」


「ICM……?」


「……まあ、数式を使った複雑な話は止めよう。簡単に言えば、**『今持っているチップの価値を、賞金額に換算して考えるモデル』だ。ICMの考え方では、入賞が目前のショートスタックの人は、チップを増やすリスクを負うよりも、『フォールドして生き残り、入賞を確定させる』**ことの方が良い選択となる」


「要は、チップEVよりも極端に慎重なプレイを要求されるんだ」


ソウマは少し間を置いて、問いかけた。


「さて、アカツキ。君はトーナメントで、優勝とインマネ、どちらをメインの目標とする?」


アカツキは迷った。優勝したい。だが、入賞も魅力的だ。


「やはり、優勝を目指したいです。でも、インマネの価値がゼロだとも思っていません。……できれば、両方取りたいです」


「その貪欲さは現実的で良い。では、こうしよう」ソウマは満足そうに頷いた。


「ポーカーの基本戦略は、これまで通りチップEV(優勝を目指す戦略)を貫く。ただし、**バブル付近(残り数人で入賞の時)**に限り、ICMを少しだけ意識することで、入賞の確率を上げる方向に調整しよう」


***


ソウマは、難しい計算を一切省き、ICMの実践的でシンプルな適用法を伝授した。


「君がBBで J7o や K5o をコールして、ジリ貧になった件だ。あの状況こそ、ICM的な思考が有効に働く」


1. BBコールレンジの調整


「バブル付近では、BBでのコールレンジを、チップEVの時よりも少し狭くする。特に、ポストフロップで戦いづらいオフスート(J7o など)は、チップEV上はプラスでも、ICM上はマイナスになることが多い。だから、これらはフォールドに寄せるんだ」


2. オールインコールレンジの調整


「そして、ショートスタックでのオールインコールの判断だ。バブル付近では、相手のオールインに対してコールするハンドを、普段よりも厳しくする。『チップを得るリターン』より『チップを失って敗退するリスク』を、一時的に高く評価するんだ」


「この簡単な調整だけで、無駄なチップの流出を防ぎ、ジリ貧になる頻度は減る。結果として、入賞する確率は上がるだろう。その分、チップを増やす機会は減るから、優勝できる確率は少し下がる。そこはトレードオフだね」


「はい!ありがとうございます!これならできそうです」


「ちなみに……」ソウマはニヤリと笑った。「ICMを考慮したとしても、AK はオールインだと思うよ。さすがに強すぎるからね」


アカツキは苦笑いした。「次は、降りません」


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