第10話 さらに向こうへ
再び、いつもの喫茶店。
アカツキはソウマに、一週間の特訓で得た**「1/3ベットの魔法」の成果と、すぐにぶつかった新たな壁**について、興奮気味に報告した。
「1/3ベットは革命的でした!打つかチェックするかで迷う時間がなくなり、相手を小さなベットで降ろしてチップが増えました。でも、すぐに次の壁にぶつかったんです」
アカツキは、ナプキンにあのA♥︎ 4♥︎でのターンチェックと、Q♦︎ J♦︎での巨大レイズへのフォールドの2つの展開を書き出した。
ソウマはメモを見ながら、満足そうに頷いた。
「よくできた。レベル1の戦略は、君をポーカープレイヤーとして成長させるための**『足場』だ。足場が固まれば、次は上を目指す番**だ」
***
「フロップでの全レンジ1/3ベットは、BBの弱すぎるハンドを降ろすためだった」
ソウマは、A♥︎ 4♥︎のハンドでターンをチェックしたアカツキに尋ねた。
「君はなぜ、A♥︎ 4♥︎のハンドでターンをチェックしたんだ?」
「……フロップでコールされたということは、相手は何か役を持っている可能性が高い。フラッシュが完成しなかったので、これ以上チップを賭けてブラフを続けるのが怖かったからです」
「なるほど。『相手が強い役かもしれないから、ブラフが失敗すると思い怖くなった』。その考え方は悪くない。ターン以降は、お互いのレンジの強さが近づくこともあり、フロップのように全てのハンドでベットするわけにはいかない」
「じゃあ、ターンのチェックは正解ということですか?」
「いや、一概にそうとも言えない。強いハンドでは、バリューベット(おそらく自分が勝っているので、チップを奪うためのベット)をしたいだろう?それなら、ブラフベット(おそらく自分が負けているので、相手に降りてもらうためのベット)もしなければならない」
「君がターンで強いハンドの時だけベットした場合、**『100%バリューベット』**だとバレたら、相手は弱いハンドを簡単にフォールドできるようになってしまうからね」
「ああ、確かに……」
***
ソウマはまず、バリューベットから話し始めた。
「バリューベットは単純に強いハンドですればいいから、比較的簡単だ。ただし中途半端な強さのハンドでベットしてしまうと、マージナルベットという悪手になってしまう」
「だから、トップペアでキッカー(ペアになっていない方のカード)の数字が高いハンド以上を目安にすると良い」
「例えばボードが9♥︎ 7♥︎ 3♣︎ J♦︎なら、J9のツーペアやAJのトップペアはベットするけど、J8のトップペアや87のサードペア(ボードに出ている中で3番目に高い数字とのペア)はしない、みたいな感じだよ」
「なるほど。基準があるとわかりやすいですね。……あれ?でも、フロップでは全てのハンドでベットするんですよね。ということは、中途半端なハンドでもベットしてしまうのでは?」
「いい着眼点だが、それを理解するのは少々難易度が高い。まずは、**『フロップはバリューとブラフを分けないけど、ターン以降は分けるから、真ん中くらいの強さのハンドはチェックする』**と考えてほしい」
「それから一応、強いハンドなのにわざとチェックして相手を罠にはめる戦略というのもある」
「おお!なんか『ポーカー』って感じがします!」
「ただし、これはあまり多用しない方が良い。技に溺れることになりかねない」
「気をつけます」
***
「そして次はブラフベットするハンドの選び方だが、これは難しい。今回は簡単なものを1つ紹介しよう。それは、ドローがあるハンドだ」
「**ドロー!**あと1枚欲しいカードがボードに出れば、フラッシュとかストレートみたいな強い役を作れるハンドのことですね」
「そうだ。ターンのブラフハンドで一番オススメなのは、その**『ドロー』**を持っているハンドだ」
「なぜドローハンドがブラフに適していると思う?」
アカツキは考え込んだ。
「うーん……降りてくれればチップをもらえるし、降りてくれなくても、リバーで役が完成すれば逆転できるから、ですか?」
「その通り!」ソウマは満足そうに微笑んだ。
「ドローハンドは、ブラフで相手を降ろすチャンスと、役が完成する勝ち筋の両方を持っている。このような保険付きのブラフを**『セミブラフ』**と呼ぶんだ」
「君のA♥︎ 4♥︎のハンドは、ナッツ(最強の)フラッシュドローという強い勝ち筋が残っていた。だから、ターンでも恐れずに**『ダブルバレル(二連続ベット)』を打って、相手の弱いペアなどを降ろしにいくという選択肢が有力**だった」
「なるほど!ターンで再びベットする場合、サイズはフロップと同じ1/3でいいんですか?」
「ベットサイズは奥が深い割に、初心者の段階では重要度が低いから、簡単にいこう。バリューベットとブラフベットのサイズは揃えた方が良い。相手に君のハンドを読ませないためだ」
「そしてベットサイズだが、当面はこう覚えておいてくれ。フロップは1/3。ターンとリバーはポットの**75%**ぐらいだ。これはざっくりでいい。君がもっと強くなったら、状況に応じた使い分けを教えよう」
「はい!頑張ります!」
***
「さて、次はQ♦︎ J♦︎のトップペアを、相手の4倍レイズにフォールドした件だ」
アカツキはうなだれた。「あれは、どう考えてもブラフだと思えなくて……」
ソウマはアカツキの目を見て、静かに言った。
「ポーカーは、相手に**『自分の弱点に付け込まれる』**と、ものすごく損をするゲームだ」
「君はフロップで、何もないハイカードからJJのスリーカードまで、全てのハンドで1/3ベットを打つ戦略を採用しているはずだね」
「はい」
「それに対して、相手がベットの4倍レイズという、一見すごく大きいサイズのレイズを仕掛けてきた」
「一見、ですか?」
「そうだ。レイズサイズというのは、計算が特殊なんだ。『ベットの〇倍』という考え方では、サイズを大きく見誤る可能性がある」
「例えば100のポットに1のベットをしたとしよう。その場合、相手が10倍の10のレイズをしてきても、ポットに対しては非常に小さい。逆に100のポットに200のベットをした場合は、相手がレイズできる最小額である2倍のサイズ・400のレイズをしてきても、ポットに対してはそこそこのサイズになる」
「うーん、確かに」
ソウマは、レイズサイズはポットとの比率で考えるべきということを説明した。
「今回のケースでは、君の1/3ベットに4倍のレイズをされたね。ポットが3で1のベットをして4のレイズを返された場合、実はレイズサイズはそこまで大きくない」
「ベットサイズが大きいほど、フォールド頻度は高くするのが正しい。つまり今回のように、この程度のレイズサイズで(自分のハンドレンジの中でかなり強い)トップペアを降りてしまうと……どうなると思う?」
「ええっと……相手が、弱いハンドでもブラフし放題になる、ですか?」
「その通り!相手は君の弱点に付け込み、ブラフだけでチップを盗み続ける。これは絶対に避けなければならない」
「だから、Q♦︎ J♦︎のような強いハンドは、基本的にはコールしておいた方が良い。『相手に付け込まれないようにする』というのは、**GTO(ゲーム理論最適戦略)**の基本だね」
「わかりました……**『基本的には』**というのは?」
「まあ、ここからは少し難しい話になるけど、もしアカツキが**『この相手は本当に強い役(ツーペア以上)でしかレイズしてこない』**と読んだとして、それが合っていたとしよう。その場合は、トップペアはもちろんフォールドが正解だ。必要勝率が全然足らないからね」
「おお!じゃあ」アカツキは自分の選択が合っていたのかと目を輝かせる。
「いやでも、レイズを絶対に強い役でしかしない人なんて、あんまりいないと思うよ。それに、そもそもこういう**『相手の戦略を読んで、その弱点を突く戦略』のことを『エクスプロイト戦略』**って言うんだけど、これは自分より上手い人相手には通用しないことが多い」
「そうですか……」
「まずはポーカーのセオリーである**GTO(最適戦略)**の傾向を掴むことだね。エクスプロイトは、君がもっと上達して、周りの人達より明確に上手くなったと思うようになってからでいいと思うよ」
「はい!」




