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冬の塔の伝承  作者: 蒼矢
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出会い

カクヨムに投稿したものをこちらでも投稿してみました。

カクヨムの方はこちらから読めます。

https://kakuyomu.jp/works/16818622177672130251

――ある一人の少年から始まった物語。

少年は川で食料である魚を捕まえていると、川辺でなにか光るものを見つけました。

それはまるで水晶のように透明で繊細な枝でした。少年はその枝を自分の家へ持って帰り、燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びる所に植えました。植えた枝は次の瞬間にはもう透明ではなくなり、他の木とあまり変わらなくなっていました。

それから少年は毎日毎日枝に水をやり、成長を見守っていました。


そして幾年も経ち、小さな枝は樹になり、少年は青年となり、仕事を見つけ、働いていました。

そんなある日、いつものように働いて帰ってくると、樹がいつもと様子が違うことに気が付きました。

どうしたことでしょう、光の粒子が樹を包みこんでいるのです。

青年が樹に近づいて行き、樹に触れようとしたその時、光は周囲を包み込みました。

青年はあまりの眩しさに瞑った目を、開けました。

そこには見知らぬ大地が広がっており、その中心には透明で、僅かに光を纏った大樹が待ち構えていたのです。

そしてどこからか感謝の声が聞こえてきたのです。


〝ありがとう。君が吾を大切に植え育ててくれたおかげでこうして大樹に成るまで成長することができた。〟


辺りをぐるりと見回しても眼前にある幻想的な大樹しか存在しません。どうやら声の主はこの大樹で間違いないのでしょう。

その内容に心当たりがあった青年はこう答えました。


『僕はただ拾って水を毎日やっていただけだよ。』


〝いいや、毎日水をくれたではないか。君のお陰で吾はこうして意思を持つことができ、言葉を解することも出来るようになった。〟


『そうなのかい?樹が意思を持つ……不思議なこともあるんだね。……うん、ありがたく感謝の言葉を受け取っておくよ。』


〝うむ、そう言ってくれると嬉しい限りだ。意識がはっきりし始めた頃から感じていたが、やはり君の性格は興味深くて好ましい。この気持ちは言葉だけでは足りんな。…そうだ、君に何か贈り物をやろう。〟

そう言って、大樹は纏っていた光を一部切り離し、青年に渡した。


〝…⋯。そろそろ刻限か……また相見える機会があるやもしれん。この度は突然呼んでしまってすまなかった。直ぐに返そう。〟


『……待ってくれ!…最後に礼を。なぜだか僕の方が沢山貰ってしまったようだが……ありがとう。また会える日が来るといいね。』


〝ああ、また。〟


そうして大樹との会合は幕を閉じた。






――季之塔中央大図書館、地下書庫所蔵『精霊王と愛子』一節より抜粋




◇■◇




そう、今から遥か昔。

ある少女は両親に連れられ、山一つ越え、馬車に揺られて大きな街へ買い物に来たときのこと。ちょうどこの日は十年に一回の大精霊祭の日だった。

生まれてからわずか五年の少女はこれが初めての遠出である。


少女が住んでる家は、山に囲まれた小さな集落で、冬になれば周りは雪に閉ざされ、到底外には出られない所にあった。なので、外に出るには体力が必要で、冬を避けなければならなかったのだ。そのため、少女が大きくなるまでは父親が街へ買い出しに行っていた。

そして今年。積もっていた雪が溶け出し、大地が色彩を取り戻した春先、漸く家族三人揃って街へやって来たのだった。


少女は見渡す限りある屋台の人混みの中、両親に手を引かれながら歩いていた。あちらこちらに見たことがないもので溢れかえっており、少女は目を輝かせてあたりをキョロキョロと見回している。


人混みを抜け、屋台もまばらになってくると、一家の目的地に近づいて来る。目的地とは、母親の知り合いの店で、今日は数日後に六歳の誕生日を迎える少女へのプレゼントを買いに来たのだ。少女はこのことをまだ知らされていないようで、父と母に行き先を訊いては誤魔化されている。

そして、その問答が十数回繰り返されたところで店の前までやってきた。

両親はもう少女を誤魔化す必要がなくなって、ほっと胸を撫で下ろしている。


母親が「ここよ。入りましょう。」と言ってドアに手を掛け力を入れる。チリンと機嫌よくベルが鳴りドアが開くと、中にいた店主が読んでいた新聞を慌てて仕舞っているのが見えた。


「やあ、久しぶりだね。エルヴェ、サイネリア。二人とも元気にしてたかい?

 そして……はじめまして、お嬢さん。私はジュート、君の父上と母上の友人さ。名前を訊いてもいいかい?」

柔和そうな面持ちの男性が外していた眼鏡を掛け、少女に尋ねた。


「は、はじめまして、ジュートさん。えっと、アリシエーヌといいます。アリスと呼んでください。よろしくお願いします……!」

少女は緊張していた様だったが、段々と元の調子を取り戻し、小さかった声もいつもの大きさに戻っていった。


「はい、こちらこそよろしくね、アリスちゃん。」

店主ジュートが「アリスちゃん」と呼んだ瞬間、父親エルヴェが刺すような目で「娘はやらんぞ」と訴えた。

「はいはい気が早いね、名前を呼んだだけじゃないか。それに君達の娘を取ったりしないさ。」とジュートは目線を返す。

カッと目を見開き、「やらんったらやらん!!」と今にも口に出さんばかりの剣幕でジュートに念を送る。

そんな目線での会話は、「何くだらない話をしているの……」と呆れた目の母親サイネリアが肘で攻撃をして、エルヴェが始めた一方的な戦いは終わりを告げた。


そしてジュートは、何事もなかったかのように話を再開する。

「さ、この店にあるものの中から好きなものを選んでね。何か気に入るものがあればいいのだけれど。」

そう言って、店内を見るように促した。


「……選ぶ?」

目的を誤魔化され続けていたアリスは首を傾げ、両親の顔を見上げた。

「ああ。明後日はアリスの六歳の誕生日だからね。今日はプレゼントを買いに来たんだよ。好きなものを一つ選んでおくれ。」

「ええ、エルヴェが秘密にしておこうって聞かなくて。だからさっきは答えられなくてごめんね、アリス。どれだけ時間を掛けてもいいからね。じっくり、慎重に選ぶのよ。」

と、アリスは二人の答えに、元気よく「うん!」と返事をした。

店内を見回すと、多種多様な物々があり、中には豪華絢爛な絨毯から怪しげな壺まで数多く揃っていた。

実は、この店こそが、知る人ぞ知る品揃えが豊富で何でも揃っていると云われている珍奇屋とのことだが、幼い少女アリスにとっては知る由もないことだろう。


アリスはその中でも一つ、異様に目が惹かれるものがあった。


「……なんだろう、この箒………すごく気になる……」

そう言って近づいたその先には、一本の箒が佇んでいる。

アリスが思わず手を伸ばし、箒に触れた。するとどうしたことだろう、瞬く間に箒の姿が変化していく。

初めて見たときからすっかり変わってしまった箒は、白銀を纏い、心做しか先程よりも随分と生き生きとしているように見える。そして、あるべき場所に戻ったと言わんばかりに、気づいたらアリスの手に収まっていた。


「この箒は……?」

「世にも珍しい魔法の箒だよ。効果はいまいち判っていないんだけどね。まあ、唯一判っている事といえば、その箒は所有者を選ぶらしいということのみ。アリスちゃん、どうする? それにするかい?」

「……ま、ほうの………」

アリスが呆然と手の中の箒を眺めていると、ジュートが声をかけてきた。

アリスは顔を上げ、まっすぐと目を合わせた。返事はもう決まっているようだ。


「うん、それで決まりみたいだね。ではお会計にしようか。せっかくの誕生日プレゼントなんだ、それも親友の娘の。タダで譲ってあげたいところだけれど、そういうわけにもいかないからね。できるだけ安くしておくよ。」

ジュートは申し訳なさそうに眉を下げながらで両親に告げた。

その箒はどうやら結構なお値段だったらしく、その場の勢いで譲ると言ってしまうわけにもいかないのだ。これでも商売人をやっているのだ。

だが、いくら商売と言っても親友の娘の誕生日なので、祝いたい気持ちも勿論ある。なので、ジュートは、ささやかな贈り物と少しばかりの気持ちと称して価格を引き下げておいた。


「……ありがとう、ジュート。」

先程喧嘩の押し売りをしたエルヴェはなんとも言えない複雑な表情を見せたが、しばらくの沈黙の後、お礼をの言葉を口にした。照れてしまったようで、直ぐにふいと顔を背けてしまった。

それを見たサイネリアは、ふふふと笑みを溢しながらお礼を言う。

よくわかっていないアリスは、父と母に倣って、「ありごとうございます、ジュートさん!」と感謝を伝えた。


「どういたしまして。少しい早いけど、お誕生日おめでとう、アリスちゃん。」

箒をアリスに渡しながら祝いの言葉を送った。



さて、その帰り道。

「いい?アリス。その箒は失くしちゃだめだよ?大事に、大切に使うと精霊様が来てくれるかもしれないわよ。」

アリスはサイネリアの言葉に目を輝かせ元気よく答えた。


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