決戦前夜~オペレーション・ゼロ~(後編3)
「作戦名は…、オペレーション…。オペレーション・ゼロ、だ!」
ワタル、お前…
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
これまで何度も感じてきたことだが、ワタルの成長ぶりには、ただただ驚くしかない。
普通の人間の進歩は、徐々に、だ。
けど、こいつは、いきなり、ガツン、と次元が変わる…。
ゼロから町の未来を切り開く…、だって?…。
聞いただけで、なんだか、心がゾクゾクしてきた。
人の気持ちをこうも一瞬で掴むなんて。ワタルってヤツは。
それに引き換え、今の僕は何だ? はたして、皆の役に立っているのか?
「ふ~む。オペレーション・ゼロ、か。 なかなか、いい響きだ。 気に入った!
では、モノノベ衆も、それで、異存はないな?」
ステゾーが彼らをゆっくりと見渡した。
恐る恐る僕が覗くと、浅黒い顔をした彼らの誰一人として口を開くものはなく、ただ全員がむっ、と口をつぐんだまま、確かめるように頷いているだけだった。
「よしっ! じゃー、これで作戦名も決まったことだし、さっきも言ったように、モノノベ衆とお前ら高校生たち、二手に分かれて、役割分担のおさらいをしてくれ!セイジ、後のことは、頼んだぞ!」
ステゾーはそう言い放つと、くるりと背を向け、モノノベ衆たちを引き連れて隣の教室へと意気揚々、ぞろぞろと消えていった。
教室から出ていく彼らを呆然と見送っていると…。
僕は、突然はっ、と気付いて振り向いた。
が?!
カラやマツオたち、他のメンバーたちも、なぜか、キョトンとして座ったまま、動かない。
…そんなとき、腕組みをして椅子に座って天井を見ていたシューマが、突然、体を起こして澄まし顔で僕の方をじっと見てきた。
「タケシ、ちょっと、来てくれ」
ん?
不思議に思いながらも、手招きするシューマの近くまで近寄ると、彼は背中を丸め、僕に耳打ちしてくる。
「タケシ、いいか? お前がリーダーになれ」
え?
いったい、全体?
僕は一瞬で頭の中が真っ白に…。
「なんだ? そんなに不思議か? …じゃあ、理由を教えてやろう。 まず、な、この中でアンドロイドたちと直接闘ったヤツは、お前とカラとマツオしかいない。いないんだ! そして、お前のように、ここにいる全員を知り、バランス良く付き合ってきたヤツも、また、いない。それに、俺たちはニッキたちも含めて最前線の実働部隊だ。もし闘いの集団の中に入れば、指示出来るような心の余裕なんて、ありっこない」
シューマの言う通りだ…。
僕は戸惑いながらも、歯を食いしばるしかなかった。
「ステゾーさん」
教壇の前の方で静かに見守っていたステゾーに、シューマが今度は声をかけた。
「なんだ?」
「俺は、実戦で、木刀、ましてや真剣を使って闘ったことなんて、一度もない。けど、仮にも津田一伝流、一子相伝の後継者。いわば、頭と体で常に剣のシミュレーションを行ってきた人間だ。その立場から、兵法として仲間たちがどう動いたらいいか、少し考えてみた。
ちょっと、試しに聞いてくれないか?」
ステゾーは腕組みをしながらニヤリと笑みを浮かべた。
「いいだろう。披露してくれ」
安心したようにシューマが表情をわずかに緩めた。
「では、まず…」
まっすぐにシューマは僕の方を見た。
「タケシをリーダーにしたい。アンドロイドとの実戦経験や全員の特徴を知っているのはタケシしかいない」
シューマは続ける。
「そして、タケシは、最後尾で、このチームの頭脳と言えるワタルを、マツオとミコと共に守る。特に、マツオはワタルの盾として体を張ってもらうことになる。ミコも、常世観でマツオをサポートする立場だ」
マツオは、俺?という顔をしている。
ミコも緊張した面持ちだ。
「さらに、中段の備えとして、カラとネーサンには、突進してくるアンドロイドたちの顔を弾き飛ばし、俺達先遣隊の援護をしてもらう」
カラとネーサンは、互いに、相手を確かめるように目に力を込めて頷き合っている。
「最後に、先遣隊として、一番槍は剣道部、二番槍は柔道部。鶴が翼を広げるように相手を取り囲みながらアンドロイドたちの弱点である喉の部分を突く。一番槍が失敗すれば引き、次に二番槍。これを繰り返す。もちろん、理想通りにはいかないだろう。柔道部は、相手と組み合う場面も出てくるかもしれない。その際は、互いに協力して相手の弱点を突くことになる。
…どうだろう? この作戦は?」
シューマはセイジの気持ちを探るように見つめた。
セイジは、腕組みしたまま顔を挙げた。
「なるほど、捨てたもんじゃないなぁ、若いの。まぁ…、ほぼ、俺が言いたかったことを言い当てられちまった」
苦笑いしつつセイジは付け加えた。
「反論は、ない。あとは、実戦のためにフォーメーションの訓練を早速行うことだ。ま、たった一日ではやることも限られているが、なぁ。…あとはお前らの基礎体力と瞬発力を信じるしかない」
ここまでセイジが話したときだった。
いきなり、後ろから大きな声が挙がった。
「おいおい、ちょっと、待ってくれ」
驚いて振り向くと、声の主は、なんと、ニッキだった!
「今の、『信じるしかない』は、余計だろ? 自慢じゃないがな…。俺は中学の頃、怒り狂って試合の相手を半殺しの眼に合わせたことがある…。それ以来、どんな時だろうと、俺はなぜか遠慮して七割の力しか出せなくなっちまった。けど、今度は相手がアンドロイドだ、機械なら遠慮はいらねぇだろ?
なんか、ワクワクしてんだよ、こっちは? セイジさん?」
突然いちゃもんを付けられた感じになったセイジは、一瞬目を丸くしたが、すぐにニヤニヤ笑ってニッキを見つめた。
馬鹿にするな、という目をしているニッキは、今度は、僕らの方を振り向いた。
「おぉぉぃ、みんな? ここにいる二十人は、いわば、ともに闘う戦友だ! だけど、チームとして闘うのは、これが始めてだ! まず、訓練する前に、瀬神高校恒例の、『エンジン』組まねぇか?」
何言い出すんだ、ニッキは?
あの恥ずかしい儀式だけは勘弁してほしい?!




