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決戦前夜~オペレーション・ゼロ~(後編)

「じゃー、ワタル、前に出てきてくれ」

 ステゾーがワタルに登壇するように呼びかけると、これまでざわついていた教室は急に水を打ったように静まり返った。

「お前の考えを説明してくれ。いいな?ワタル?」

 少し試すような口ぶりでステゾーが尋ねた。


  ワタルはその問いに頷きもせずにおもむろに立ち上がると、ツカツカと静まり返った教室に足音を響かせ、一段高い教壇に上がった。

 黒板の前に置かれた教卓の前に立ったワタルの顔は、少し青ざめたように見えたが、意外に緊張した様子もなく、淡々としている。とても数ヶ月前まで引きこもっていた奴には見えない。


  僕はごくりと唾を飲み込んだ。

 ワタルのメガネの奥の瞳がわずかにキラリと光った!


「じゃあ、説明するね」


 ワタルはスッ、と右腕を伸ばし、デカデカと黒板に描かれたステラブリーズ号の断面図を指さした。


「ステラブリーズ号は全長およそ二百八十メートル。

 東京タワーを横に倒して、まだ少し余るくらいの長さだ。

 総トン数は九万トン級、見た目は優雅でも、れっきとした“海に浮かぶ都市”なのさ。

 乗客は最大で二千人、乗務員は約八百人。

 この船に現在、生命体の反応は、ない。言うまでもなく、全滅、だ」


 分かっていることだが、改めて聞くと、絶望してしまう。

 逃げ惑う乗客たちの悲惨な光景が頭に浮かぶ。僕は妄想を振り払うように頭を軽く振った。


「構造は上から下まで十二層。

 まず、地上に突き出ている操舵・艦橋がDeck12。

 そして甲板にはプール、屋外ステージのDeck11。

 Deck10からDeck8まではスイート・ルームやスーペリアルーム、スタンダードルームなどの客室が配置されてる。

 Deck7からDeck5は、免税店や映画館、ボーリング場、ダンスホールなどのエンタテイメントエリアとメインダイニングがある、いわば光の世界だ。

 そして、Deck4からDeck1は、この巨大客船を動かすための機関室、メディカル・センター、貨物ヤード、クルー専用区画などの“裏の動脈”が張り巡らされている」


 ここまで話してワタルが一息つくと、ステゾーはさらに先を促すように声をかけた。

「で、構造は分かった。そのあと、さっきのお前の推理を皆んなに聞かせてやれ」


 ステゾーの声を聞いているのかいないのか、またもや頷きもせずにワタルは続けた。


「今回の闘いは」

 ワタルは息を継いだ。


「アンドロイドたちを全員倒すことが一番の目的じゃない。なぜなら、彼らを倒したって、新型結核の細菌があるかぎり、僕らは自由に動けないからだ。そして、導善博士のドローンによるサンプル収集によれば、結核菌は、船に近づけば近づくほど濃度が高いことが分かっている。つまり、この船が菌の製造工場になっていることは間違いない。そして」


 ワタルはここで、船の艦橋から突き出した巨大な四本の煙突を指さした。


「おそらく、結核菌は、この、医療エリアから直結している煙突の一つから排出されてる。色々考えたけど、誰にも気づかれずに大型の機械を設置できる場所といったら、船のクルーも普段は近づかない医療センターのバックヤードぐらいしかあり得ないんだ」

 ワタルは船の下から上まで、白線で描かれたパイプをなぞった。

「医療エリアの排気系統は独立してて、一気通貫。艦橋までつながってるのさ」


 ワタルが言い終えると、マツオが素っ頓狂な声を挙げた。

「しっしっ、質問っ…!」

 挙手しているマツオの手が、小刻みに震えてる…。


 ワタルはマツオの声に反応し、わずかに顔をかしげた。

「そこに行って爆弾で機械を壊すわけでしょう? けど、アンドロイドは千体いるわけで…。いったい、どうやったら医療エリアにたどり着けるっていうの?」


 待ってました、とばかりに、得意げにワタルは続けた。

「そう。じゃあ、どうやったらここに近付けるか、だけど…

 ここを見てくれ」


 ワタルは、甲板の下から伸びる巨大な吹き抜け空間を指さした。


「この吹き抜けアトリウムは客船の主要区画に隣接しているうえに、Deck5のメインダイニングの階上まで貫かれている。つまり…」


 もう一度、ワタルはアトリウム沿いを上から下になぞった。

「吹き抜けアトリウム沿いのメンテナンス階段を降りていけば、アンドロイドたちと鉢合わせすることなく、医療区画に到達することができるのさ」


 マツオは、腑に落ちたのか、感心して目を見開き、ただ頷いている。

 すると、ワタルとマツオのやり取りを継いだ形で、セイジが横から割り込んできた。


「俺たちも、ワタルのこの案をもとに、突入作戦を考えたってわけだ」

 皆が腕を組んだセイジを振り返った。


 こんな時は、冷静沈着なタイプのセイジがすごく頼りがいがあるように見える。血気盛んなステゾーとちょっと違うところだ。ニヒルな感じの表情がいい。


「簡単に言うと、突入隊は二手に分かれる。侵入口は、乗船用の階段、つまり、ガングウェイが接続されているDeck4だ。船の進行方向に従って、前方ガングウェイから我々モノノベ衆三十人が突入。そして、5分後に君ら決死隊の二十名が後部ガングウェイから進入する」


 セイジが手を伸ばして黒板の図面を指さした。

「そして、君らは、Deck4から外周エクステリア階段を伝って、船側に張り付いた非常用ボートを横目に見ながら駆け上がり、Deck8の一般客室の検査用ハッチからメンテナンス通路に進入するってわけさ」


 僕とカラは顔を見合わせた。

「すると…、アンドロイドに会わずに、新型結核装置を爆破、できる?!」


「ご明答」

  セイジが笑みを浮かべた。


  が、すぐに真剣な表情に戻った。

「と言いたいところだが、それは俺たち次第だ」


しばらく投稿を怠っておりました(^_^;)  何度も「言い訳」してまいりましたが、今回はようやく年末年始の忙しない時間の中でも考える時間を確保!  これからも、1週間に1回、とはいかないかもしれませんが、定期的な投稿を続けてまいりたいと思います。どうかよろしくお願い申し上げます(*^^*)

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