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ビミョーな友情

 !

 ワタルからだ。

 あれほど僕らを拒んでいたあいつが、今さら何の用だ?


「君らがドローン倉庫に入るのを手助けすることにした」


 僕は呆れてしまった。

「…あのなぁ…どんだけ気まぐれなんだ? とても付き合ってらんねーよ!」

 導善博士もいきなり間に入ってきた。

「ワタル? 本気なのか?」


「本気さ。実は、タケシ?っていうの? 君らのトランシーバー越しの会話を僕もずっと聞いていたんだ」

 僕はイラついた。

「だから?」


「人類が勝手に滅ぶのはいい。けど、誰かに滅ぼされたくはないんでね」


 なんて自己中なヤツだ! いい加減、頭に来る!

「さっきまでは大勢の人が死んでも平気で、今は許せない…

 そんな話、すぐに信用できるか?それに、建物の中に侵入するだけならまだしも、ドローンに食糧を積んで、瀬神高校まで操縦しなければいけないんだぞ! そんな芸当、お前に出来るのか?」


 ワタルは鼻で笑っている。

「No problem. みくびってもらっちゃ困る」


 博士は僕らのそりが合わないのを見かねたのか、またもや割り込んできた。

「タケシ、ここは、ワタルの力を借りるしか方法がないんだ。まして、今は細菌だけでなく、新たなアンドロイドという脅威もある。今は二体とも封じ込められたからまだいい。しかし、二体いるということは、まだ大勢いると考えるのが自然だ。だから、短時間で決着をつけるべきなんだ」

 

 いろいろと言いたいことはある。

 が…?

 僕は言葉を飲み込んだ。

…ま、一応、見といてやるか…


「現地の君らとワタルの共同作業になる。いいな?」

 導善博士が尋ねた。

 

 僕はしぶしぶ受け入れた。

「分かりましたっ! けど、カップラーメン食べるまで待ってくれませんか?」

「承知した」


 ようやく腹ごしらえを終えたところで、僕はワタルに問いかけた。

「ワタル。どうぞ。こちらは準備オーケーだ。まず、どうしたらいい?」


 間髪入れずワタルが応えた。

「君らのいる富永倉庫はこの倉庫街では一番大きな会社だ。だから、実はAmsonのドローン格納庫も隣接していて、互いがベルトコンベアでつながってる。けど、コンベアーに載せるまでは人力に頼らざるを得ない。数百人分の食糧だけど、出来るのかい?君たちに」


 上から目線! 普段なら爆発してるところだが、ここはグッと我慢、我慢…。


 カラが不安げにこちらを見た。

「搬出ったって…ベルトコンベア、とまってるじゃんよ?」

 マツオもうなずいている。

 停電してるっていうのに?

 何考えてんだ?

「電源が落ちてるって言ってんだろ?」


 ワタルは相変わらず冷静だ。

「いや、たしかに瀬神地区はすべての商業用電力が停止してる。けど、都心のクラウドはまだ活きてるんだ。これから倉庫会社のクラウド管理サーバーに衛星インターネット回線を通じてアクセスしてみる」


 ん? この手の話し、僕がまるっきしダメなヤツじゃ?…


「Tominaga Co. G-stock system. アクセス。

 …うん。やはり! まだ旧バージョンのままだ。 セキュリティ更新してない!

 …まずはサーバーに偽の信号を送って…認証済みだと思い込ませる…」


 難しい言葉ばかりだ!正直、イライラする!

「で? いったい何がしたいんだ?」


「平たく言えば、システムの脆弱性を利用して、従業員からのアクセスだと思わせるんだよ」


 やや間があったが、すぐにワタルが声を挙げた。

「I got it! 非常用電源の制御画面だ!」


 僕らは驚いた! そんな簡単にプログラムの抜け道に侵入できるものなのか?


「EmergencyCore-500… 

 …よし。これだ! この電源のメインスイッチを…オンにする!」


 ワタルがそう言い放つと、突然、倉庫の奥深くから、巨大なバッテリーの駆動音がたちまち広い空間に響き渡った!

「うわっつ!」

カラもマツオも目を丸くしてる!


「倉庫内分電盤マップは?…これか。

 …よしっ!そこにあるベルトコンベアにライン番号が書かれてないか確認してくれ」


 コンベアのベルト近くにいたマツオが慌てて走り寄り、側面を見ると…?

「あ、あるよ! 十二番!」

「よし。Line No.12…これだっ。個別給電開始っ!」

 ワタルが叫んだその数秒後――


 ギギギギギ…

 音を立ててベルトコンベアのベルトが滑らかに動き始めてるじゃないか!


「動いた! 動いたよ!」

 うっひょ~、とマツオは声を挙げて手を叩いている。


 クソッ…正直まったく気に食わないが、認めざるを得ない。

 カラも目を見張っている。


「got it! さあっ、急いで運び込め!」


 まただ。

 チっ、いちいち気に障るヤツだ。


 それからの時間は僕らにとって過酷だった。五百人分の食糧を搬出するのだから、当たり前といえば当たり前だ。気の遠くなるような段ボールの量。ただ、倉庫では荷物がすべて個別のパレット台車に積まれており、人力のみに頼る場面は少ない。それが救いといえば救いだ。一度コンベアーに載せてしまえば、あとは勝手に運んでくれる。

 途中、互いの建物のジョイント部のシャッターが閉ざされていて、荷物がジャムるトラブルもあったが、僕がシャッター脇の非常開放装置のレバーを引くことで何とか解決した。


「みんな喜べっ!! Amzonのドローン格納庫は、去年建て替えたばかりの最新式だったよ。ドローン棟内の全てがオートメーション化されてる。つまり、だ。こちら側から荷物を送るだけでAmzon側のシステムが反応し、自動パレットに載せられた荷物がドローン貨物用のネットの中に運ばれるってわけだ」


 かなりの手間がかかったが、積み荷の全ての搬出が終了した。

 最後の荷物を送り出すと、僕らは自分たち自身もベルトに乗って、身を屈め、建物をつなぐコンベアーブリッジを髪をなびかせながら移動した。

 こういう機械に目がないマツオは、有頂天だ。

「まるでディズニーランドのアトラクションみたいじゃん?」


 そして、ドローンの格納庫側に一歩足を踏み入れた途端!

 僕らは驚きのあまり声をあげた!


「す、すんげぇ…」

 天井まで二十メートル近くはあるだろうか。

 ドーム状のかまぼこ型の鉄骨の屋根は半透明のパネルで覆われ、どうやらスライド式で開閉するようだった。

 その下の少なくとも校庭の2倍はありそうな光る樹脂に覆われた灰色の床面に、昆虫の顔に似た白いドローンの機体が、影のないLED照明に照らされ、倉庫のはるか奥へと等間隔にどこまでも並んでいる。

 コンクリートの地面にはいまにも発進を促すかのように、誘導灯が青白く点滅している。

 まるで巨大ロボの秘密基地を思わせるような風景だ!


 ドローンの機体の間にはコンベアーが走り、その前に段ボールが止まると、ロボットアームが次々とドローン下のカーゴネットに滑らかな動きでそれを積み込んでいく。


「かっけ~」

 カラは口を開けたまま呆然としている。


 トランシーバーからワタルの声が響いた。

「ドローン一基あたり四十九キロまで搭載可能、だとさ。体重の軽い女子くらいは乗れるかもね」


 僕らは感心したままその場に立ち尽くしていた。


 すると、しばらく応答がないのにしびれをきらせたのか、またワタルから声がかかった。

「何をしてる? すでに防犯センサーは解除済みだ。格納庫の右側の二階に管制室があるだろ? そこにまず入って」


 鉄製のステップを駆け上がってガラス張りの管制室に入ると、正面には大型ディスプレイが上下三枚ずつ並べられ、その前のデスクには、アーク状のモニターがあるデスクトップ卓が置かれていた。

 マツオは目をぐるぐる回して感激している。

「まんま、飛行機のコクピットじゃん…」

 モニター画面のほとんどはスリープしていたが、活きているスクリーンには、機体別の発着スケジュールやバッテリーの残量、現在の風速などが表示されている。


「部屋に入ったかい? 入ったなら、まず管制システムのメインPCを再起動してくれ。その方が、ハッキングが安定し、成功率があがる」

 ワタルが言った。

「メインPC? 真ん中にあるやつか? スイッチはどこにある?」

 僕は混乱した。

「デスクの右下のラックの中に黒い箱があるだろ? 青いランプがついてるヤツ。その正面に丸いボタンがあるはずだ。それが電源スイッチ。たぶんね」

 デスクの下にしゃがみこむと、金属の箱からファンの音がかすかに聞こえてくる。

「これか?押していいんだな?」

「ああ、一回でいい」

 深呼吸しながら僕がボタンを押すと…?


 青いボタンが消え、ファンの音が停止した。

「消えたかい? 消えたなら、五秒数えて、今度はもう一度ボタンを押してくれ」

 一、二、三、四、五.

「よし、押すぞ」

 僕が丸いボタンを押し込むと、一瞬ののちに再び青いランプが光り、ファンが回り始めた!

「電源、入ったぞ!」

 ワタルが応答した。

「I got it! 把握した。これで余計なセッションやログイン履歴が消えた。これからが本番だよ」


 少しはねぎらえよ、と僕はつっこみたかったが何とか我慢した。

「で、次はどうすんだよ」

「ドローンの管制システムで航路変更しなきゃいけない。侵入するために管理者パスワードがいる。

 その解析に、僕の改良AI 『Athena Mod』を使うのさ。すでにAmson のオープン情報、流出データ、役員名簿、過去のパスワード傾向をAthena に読み込ませてる。

 通常の大型汎用AIが三日かけてたどり着く解に、僕のAthenaは論理ワープを繰り返すことで、わずか数分で候補を絞り込む。それに、パスワード入力は三回失敗すれば異常として検知され、三十分後にリセットされるんだけど、君らは何の時間の制約もないだろ?万一失敗しても、その作業を延々と繰り返せばよい話さ」


 いたわりってもんがないのか、こいつは!

 またもや僕の心はざわめいた。

「三十分リセットを繰り返す、だと?のんきなことで。ま、三回のトライで成功させられるよう祈ってるぜ」

 カラも気持ちは同じようだ。

 顔を見合わせて互いにため息をついた。


 ワタルが補足した。

「パスワードは、企業の情報や体質から考えると、必ず安易なものを利用しているはずだ。特に、Amson SkyLogisticsは創業家の支配が強い会社だ。だから、社長も頻繁に外部からアクセスしてると考えると、すぐに忘れてしまうようなワードにはならないはずさ」


 導善の声が聞こえた。

「ワタル、すでに候補はリストアップできてるのか?」

「ああ。最初の三つは、ね」

「分かった。まずは試してみてくれ」


「了解。Easy stuff.

じゃ、一回目。

社名と年度。

 SkyLogi2025」


ピッ、という音がスピーカーから聞こえた。


「だめだ。エラー。

二回目。

 共通管理アカウント型。

 Admin#001」


 ピッ


「エラー。これもダメだ。

 次。

 航空会社でよくあるスローガン系。

 FlightSecure!」


ピッ


「ダメだっ!

ロックされた!

どうやら、この方面のロジックではなさそうだな…。

もう一度解析をかけてみる」 


 僕は思わず天を仰いだ。

「おいおい、何もない場所で三十分もボケっと待つってか?」


 ワタルはどこまでも事務的だ。

「やることは、あるさ。君らでその管制室の中から、解析に役立つような情報を提供してくれれば、Athena の精度も上がる。ロッカーとか、掲示板とか、書類棚とか…時間は腐るほどあるじゃん?」


 導善も念押ししてきた。

「ワタルの言う通りだ。三人で協力してやってくれ」


 書庫に目をやると、二十周年記念誌、業務マニュアル、はたまた業界誌や休憩時間に読んだのか、漫画週刊誌や文庫本なども並べられている。


 僕ら三人は手分けしてそれぞれの書物の中からヒントを探った。


「会社創立記念日、八月八日!」

 僕が声を挙げた。

「了解。インプットする」

 次はカラだ。

「新型ドローン導入年月日! 十二月十七日」

「了解」

 長らくラックに差し込まれていた社内報に目を通していたマツオが急に叫んだ。

「社長のコラム!その中の三女Deborahの誕生日祝い報告。九月六日!」

「了解」


 次々と打ち込まれていく新しい情報。その作業を二十分ほど続けただろうか?


 突然!

 静寂を破るサイレンの音が管制室の外で響き渡った!

 と同時に、低く唸るような非常アラートがスピーカーを通じて一斉に鳴り出したではないか?!


「警告。警告。外部からの侵入を検知しました」


 合成音声による妙に冷静な機械的なアナウンスが大音量で繰り返される!

 管制室の壁面に設置された警備モニターが自動的に切り替わり、カメラからの映像が!

 そこには、会社の正門に設置された重厚な鉄柵を揺り動かし、無理矢理にこじ開けようとしている三体の、あの主婦型アンドロイドがいた!!


 カラが叫んだ。

「あ、アイツらだっ!どうする? 二体でもやっとこだったのに、三体もいるぜ!?」


 僕は絶叫した。

「またかよっ、このガラクタどもがぁ~っつ!?」





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