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ステーキ

作者: 唐揚げ

「フォークとナイフでご飯を食べるときはね、フォークの背にご飯をのせるんだよ」


 そんな風に教えてもらったのは、サイゼリヤでのことだった。

 ちょうど、大雪が降る前の日で、幼い私は両親と妹とともにサイゼリヤに訪れた。

 そこで父親からそんな風にナイフとフォークでご飯を食べる方法を教わったのだ。


「へぇ、そんな風に食べるんだ」


 と、母親は暢気に言った。母親はあまり料理をしない人だった。だから、今の今まで、家の食卓にナイフとフォークを使うような食事が並ぶことはなかった。だから、私はナイフとフォークの使い方すら知らず、まず初めに、右手でフォークを持ったのも覚えている。冷静に考えると、初めて、ステーキを食べたのもサイゼリヤだったような気がする。

 大人になるまで、色々と外食で食べたが、そんな事を夢で思い出したからか。

 久々にステーキが食べたくなった。

 仕事終わりの帰り道、近所のスーパーでステーキ肉を買う。半額シールが貼られた肉は、少し薄暗い色をしていたが、それでも少し熟成がされているようで美味しそうな気がした。あわせて、無料で置かれている牛脂の小さなブロックも持って帰った。

 そういえば、これを子供の頃はガムか何かだと思っていた。実際の所、言ってしまえば、デブのガムみたいなものだと思う。


「ただいま」


 誰もいないアパートの部屋に帰り、そう呟く。

 いつもならそのまま、ぱっと歯を磨いて着替えて布団に潜り込むが、今日は違う。

 台所に立って、テーブルの上に肉を置いて、収納からフライパンを取り出す。

 冷蔵庫の野菜室から適当に野菜を取り出す。

 フライパンをコンロにかけて熱する間に、ステーキ肉に塩と胡椒を振って味付けをする。

 そうしているうちに、熱したフライパンの上に牛脂を置いた。ジュウアッと牛脂がフライパンの上で溶けていく。

 タイミングを見計らって、フライパンの上にステーキ肉をそっと置く。

 肉の焼ける音、匂いが、広がる。

 じっと丁寧に肉を見る。両面を焼き上げると肉を取り出して、アルミホイルに包んだ。アルミホイルで少し休ませてやるといいらしい、と何かで聞いた。そうして休ませている間に、付け合わせの野菜を簡単に焼いて熱を通す。

 ワンプレート、少し大きめの一枚のお皿に、ご飯をよそって、そこに付け合わせの野菜、そして、メインのステーキ肉を置いた。

 悪くない。

 お箸で食べようかと思ったが、引き出しからナイフとフォークを取り出すと、それで分厚いステーキを切り分ける。


「悪くない」


 つい、口からそうぽろりと本音が出た。

 ステーキソースを買わなかったのは失敗かとも思ったが、純粋に、塩と胡椒で味が付いており、また、ステーキの味がしっかりとわかって良い。付け合わせの野菜も、フライパンで熱を通したからか、肉汁が、旨みが野菜に移ってかなり美味しくなっていた。フォークの背に、ご飯をのせ、食べる。ご飯も肉汁を吸って美味い。ワンプレートにしたのは、正解だった。


「たまには、こういう贅沢もいいかな」


 私はそう呟きながら、残り一切れになったステーキ肉をじっと見るのだった。

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