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前編
半兵衛が滞在した温泉宿では女将の娘さんが下働きをしていた。初日に見かけた時から器量良しだなとは思っていたが、二日目にはその性格の良さも分かった。田舎の温泉宿にしては妙に食事が旨いと思ったが、聞けばその娘が作っているという。
女将の話では何でも三軒先の竹細工屋の息子と恋仲らしいのだが、いつになっても結婚の申し込みに来ないのだという。娘もいい年頃なのにこのままでは不憫だという。
「うむ。儂の知人で両国で大店を営んでいるものがいるんだが、その息子夫婦に子供ができなくてな。いい娘さんが居れば妾に紹介してくれと言われている。この若旦那が中々にいい男だ。悪い話ではないと思うが」当時家の存続は一大事なので、妾に子を産んでもらうなどという事はよくある話であった。
「お嬢さん程の器量良しであれば問題ない。最も妾とはいっても大店なので、上げ膳据え膳で料理の腕を振るう機会はなさそうですが」
まぁまぁそれは良い話だわと、女将は早速娘に申し伝えた。