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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
霊峰レイラーン

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82話 霧の中(2)

「ランシャル様!」


 驚く声はラウルのものだった。

 かろうじて止められた剣の刃先がランシャルの首に細く赤い筋をつけていた。


「すいませんッ」


 慌ててラウルが剣を引っ込める。

 息を詰めていたランシャルはほっと一息ついて笑顔を作った。


「大丈夫です」


 傷口とランシャルの表情を見てラウルは安堵する。


「はっきり見えませんが、霧の中に何かいます。気を付けて」


 はいと返事してランシャルも辺りに目を配った。


(ん?)


 目の端にちらりと見えた光に目を凝らす。


(あれは?)


 離れた場所の地面辺りに光が見える。それは霧の中でぼうっと細く光って見えた。


(もしかして、ウルブの剣?)


 先ほど弾かれた剣が飛んでいった先はあの辺りのように思えた。


「ラウルさん、あれ」


 ランシャルが指差す方へラウルがちらりと目を走らせる。


「あの光ってるもの、ウルブの剣じゃないかと思うんですけど」

「そうかもしれません。行きますか?」

「はい」


 警戒を続けながらそろりと光へ近づく。


「ラウル」


 不意にシリウスの声に呼ばれた。


「隊長!?」


 声のした方角、霧の向こうへ声をかける。が、近づいてくる気配はない。


「私はここです」


 声のする場所を絞りかねているのかと思い続けた。


「ランシャル様も一緒です」


 しかし、気配どころか足音すら聞こえない。


「隊・・・・・・」


 再度呼びかけようとしてラウルは口を閉じた。何かがおかしい、わずかな異変をランシャルも感じていた。


(何だか変。声が・・・・・・霧に吸い込まれていくみたい)


 声が向こうへ抜けない。

 声が何かに阻まれているような、無音の世界に閉じ込められているようなそんな感覚。


 ラウルが黙ったままランシャルを押す。進めということだと理解して、ランシャルは光へと近づいていった。

 光を拡散する霧の向こうに剣の形がおぼろげに見てとれた。


(ウルブの剣だ)


 もう見間違えることのない距離。少し安心してランシャルは剣へ手を伸ばした。だがその時だった、突然現れた黒い手がランシャルの手をつかんだ。


「・・・・・・!!」


 驚いたランシャルは手を引っ込めて、ラウルが間髪入れず剣を見舞った。だが、手応えがない。


「・・・・・・そんな馬鹿な」


 この距離で切り損ねるはずがない。ラウルは納得のいかない奇妙さを感じ、ランシャルはその奇妙さに不安が増していった。


(つかまれたはずなのに握られた感触がないなんて)


 どういうことなのかと考える間も無く人影が目の前を通りすぎた。


「ぅわッ!」


 誰かの手に首を撫でられてランシャルは慌てて飛びすさった。その拍子に何かに足をとられて体勢が崩れる。石に頭を打ち付ける寸前、ラウルに受け止められた。


「お怪我は!?」


 頭を横に振るランシャルは首を押さえたまま。


(いまのは何!?)


 首に触られた。

 今度ははっきりと手の感触があった。触れる距離にいたはずの姿が見えない。そのことがランシャルは怖かった。

 白い霧の中に人の影が浮かぶ。

 現れては消え、消えては現れる。

 フェイントをかける様に前後左右に現れて緊張が高まってゆく。


 不意にはっきりとした人影がラウルの目の前に立ち、ラウルの剣が閃いた。だが、やはり手応えがない。剣の生んだ風に霧が揺れて影が消えただけ。人影はラウルを嘲笑うように別の場世に現れる。


 直接的な攻撃はしてこない。しかし、真綿でくるめるような圧を感じる。


「これって魔物? どう撃退したらいいの?」


 問いかけたランシャルを「シッ!」とラウルが止めた。直後、少し離れた場所から下草を揺らす音がガサリと聞こえた。

 息を潜めて耳を澄ます。霧の向こうから伝わる気配もこちらと同じ様だった。


(魔物の、本体?)


 いままで現れていた影とは違う。生身の体を持っている。そう感じた。


 じっとすること数十秒。先に動いたのは霧の向こうだった。


  ひゅん!

  キン!


 飛んできた石礫いしつぶてをラウルが跳ね返す。


  ひゅひゅひゅん!

  キッカッキン!


 連続して飛んできた石を難なく弾いた直後、


「や────ッ!!」


 高く鋭い声が霧を割って躍り出た。


 流れる銀光を避けたラウルが剣を繰り出し、激しい剣の応酬が続く。霧が風に流され、薄くなって初めて互いの顔を目にし驚く。


「ラウルさん!」

「ルゥイ!」


 だが、一瞬遅かった。

 ラウルは力づくで軌道を変えたが、ルゥイは剣の勢いを殺せずラウルの肩から血が飛び散った。


「ううッ・・・・・・!!」

「ラウルさん! ごめんなさいッ」

「大丈夫だ」

「でも」

「お気になさらずに」


 前副隊長の娘さんに怪我をさせなくて良かったとラウルは笑った。

 応急処置をしたあと、ルゥイは周りを見回したが相変わらず霧が視界を阻んでいた。


「シリウス様は?」


 かすかに焦りの混ざった声だった。


「近くにいるはずなんですけど、読んでも返事がなくて」


 不安そうに眉根を寄せるランシャルの顔がルゥイの不安をかきたてた。


「シリウス様!」

「シッ!」


 止めるラウルへルゥイが疑問の表情を向ける。


「シリウス様!」

「え!?」


 霧の向こうから聞こえた声が自分の物だと気づいてルゥイは肩をすくめた。


「いまのは?」

「黙って」


 再度ラウルに止められて目を白黒させる。


「ランシャル様」


 シリウスの声が聞こえる。


「こっちです」


 次はロンダルの声。


「シリウス様」

「ロンダル」

「一緒にいます」

「ラウルさん」


 ここにいるはずのラウルやルゥイの声も加わって、あちらからこちらから、次々と声は生まれ重なりあって囁いたり叫んだりしている。

 ざわつく声が辺りを震わせているようだった。


「止めて・・・・・・」


 ルゥイが泣きそうな声で囁くのをランシャルは聞いた。


 やがて声に影が紐付けられて霧の中をうごめく影たちが声を発し始めた。その数は少しずつ増えて、そして、その輪郭がはっきりとしていった。


 もうぼやけた影ではない。

 はっきりと誰かがいる。そう感じさせる肉感が伝わってくる。


「気をつけろ」


 声を潜めたラウルの警告にルゥイが剣を構える。ランシャルは短剣を探して腰の鞄を探って唇を噛んだ。


(しまった、ラッドに渡したんだった)






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