80話 祭壇のその先へ
79話を手直ししております。
物語の流れは変わりませんが会話はだいぶ変わっていますので、すでに79話を読んでいるかたはぜひ読んでいただきたく思います。
小さな町の料理屋に入り食事をする。
久しぶりに荷をほどきテーブルを前にしての食事だ。具だくさんのスープにランシャルの舌が鳴った。
「これ旨いな、温かくて染みるーっ」
おどけるコンラッドにランシャルの顔もゆるむ。
「ベッドで寝るの久しぶりだね」
「だな。今夜は夢も見ないで寝れそうだ」
「いつも夢を見ないでしょ」
ルゥイに突っ込まれてコンラッドが「えへっ」と頭を掻いてランシャルはまた笑った。そんな様子に顔をほころばせながら、同じテーブルに座るラウルがランシャルへ言った。
「ここが町としては西の端です。またしばらく野宿になりますから、今夜は剣の訓練は休みにしてゆっくり体を休めてください」
そうですねと頷いて、ランシャルはパソを口に含んだ。
「パソ屋のサンドウィッタ見たか?」
コンラッドのお喋りは止まらない。
「すんげぇ旨そうだった」
「うん、美味しそうだったねー」
「明日の朝、受け取りに行きます。注文しておいたので」
「さすがルゥイさん」
「ありがとうございます」
くったくない笑顔を見せるふたりにルゥイも楽しげに笑った。
町を後にして点在していた村も畑も見えなくなり、レイラーンは益々大きくなっていく。
ギャレッドと別れてからは順調だった。
時折、武装した私兵やならず者のような一群が近寄ってくることはあったが、ファスティアの姿を目に止めるとすぐに去っていった。
「ファスティア様のお陰で無駄に戦わずに済んで助かります」
休憩時にシリウスが言うとファスティアは笑った。
「気ままに国中を旅して宝石をばらまいて呆れられたが、役に立つ日が来るとはね。嬉しいよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
レイラーンの麓に近づくと、もうそこはほとんど荒れ地だった。
地面の所々にはえぐられた様な穴が空いている。獣の足跡らしきものもそこここにあって、それらが荒々しい魔物の存在を想像させた。
レイラーンから吹き下ろす風が木々を奇妙な形にしている。下草は枯れたような薄茶色。人の気配を感じられないそんな場所にそれは建っていた。
「あれが祭壇?」
ランシャルはぽつりと言った。
騎士たちが横に広がり周囲に気を配りつつ祭場へ近づく。
白い石が積み上げられ階段状になった建造物は風化しかけているように見えた。
5・6段のステップや上がった先のフラットな部分にも石の隙間から草が生えている。石畳の道のように奥へと伸びた祭場の両側に並び立つ石柱にも所々に草が揺れていた。
大人4人が両腕を広げて横並びに立てるほどの幅、奥行きはその3倍ほどか。
ランシャルたちは馬から下り石段を注意深く上がった。
元々は滑らかだっただろう床石は風雨に削られたか、足裏からでこぼことした感触が伝わってくる。
ガタンッ
「うわっ」
足を置いた石が揺れて思わず声をあげたランシャルへ、皆の視線が集中する。
「だ、大丈夫です。ラッド、笑わないでよ」
いたずらに笑うコンラッドを小突いてランシャルも笑った。
見上げれば屋根はなく、白い柱が青空を持ち上げているよう。並び立つ石柱のその先に一際高い峰が鎮座していた。
ウヲォォ・・・・・・ンンン
冷たい風に乗ってどこからともなく獣の太い声が耳に届いて、皆の足がふと止まった。もう目の前には石畳の終わりが見えていて祭壇があった。
石の棺を横にした様な塊がどっしりと横たわっている。
「なんだか・・・・・・生け贄を捧げる場所みたい」
と、苦笑いするランシャルへすかさずルークスが説明を始める。
「そうです。あの石の上に生け贄を横たえて首をカッ! っと」
と言いながら首を切る仕草をするルークスを、ランシャルとコンラッドは痛そうな表情で見ていた。その反応にルークスのテンションが上がる。
「昔々、この場所を治めていた部族が儀式に使っていた場所なんですよ。今でも年に一度は祈りを捧げに来るそうです。だいぶ廃れてきているようですが」
そう言ってルークスは草をむしった。
ルークスの話が終わるのを待って先を進もうとする一同をシリウスが止めた。
「この先は人数を絞る。ロンダルとラウルは一緒に。ルークス、ダリル、ルゥイ、コンラッドは外れてもらう。後から加わったメンバーも大気」
すぐに異論が上がったが覆りはしなかった。
「少ないように思うかもしれないがそうでもない」
「どうみても少ないでしょう?」
「姿は見えないが・・・・・・いるんだろ?」
少し声高に言ったシリウスが辺りに目を配り、皆の顔に不思議そうな色が浮かぶ。
「霊騎士たちよ!」
声を張ったシリウスへ返答はない。けれど、その代わりに音がした。ランシャルたちを取り囲むように四方から蹄の音がする。何もない場所から響く蹄の音に皆がゾッと立ちすくんだ。
「ここからは彼らが先導する」
シリウスの言葉が指示だったかのように、蹄の音はランシャルたちの横を過ぎ祭壇を過ぎてその先の土を踏んだ。見えないが、彼らは確かにいる。
「霊・・・・・・騎士」
奇異な木々をバックに彼らの姿が浮かび上がって皆が息を飲む。
霊といいながら圧倒的な存在感が場を圧した。
「本来ならば我々が連れていくのは王1人」
真っ暗なフードの中から声がする。けっして張り上げてはいない声が、地を這うように皆の耳に届く。
「人間は1人でも少ないほうがいい。面倒をかけるな」
そう言って霊騎士たちは背を向けた。
フードに隠れて顔は見えなくてもその低く渋い声が百戦錬磨を感じさせて、もう誰も反論はできなかった。
遠ざかる霊騎士の後ろをシリウスとファスティアが続く。
「ラウルさん」
「戻るから待ってろ」
心配と焦れる思いがダリルの表情から伝わる。ラウルはダリルの肩を叩いてランシャルの方に手を回した。しんがりをロンダルが行く。
ランシャルが振り返ると心配そうなコンラッドと目があって、ランシャルは思わず踵を返した。ラウルの手をほどいて駆け戻りコンラッドに抱きついてぎゅっと歯を食いしばる。
顔を合わせるとコンラッドも同じように口を真一文字に涙をこらえていた。
「僕、絶対戻ってくる。帰ってくるから、だから持ってて」
ランシャルは腰のバッグから短剣を取り出してコンラッドに握らせた。
「お母さんの形見を持ってて、預かってて。必ず帰るから」
コンラッドは声を出せずにただコクコクと頷くばかりだった。
「ランシャル様」
呼ばれて走り戻る。ちらりと振り返ったランシャルにコンラッドの声が聞こえた。
「待ってるから! 預かってるから、必ずだぞ!」
叫ぶコンラッドの声を背にランシャルはレイラーンの懐へ踏み込んでいった。




