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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

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79話 問いの答えをもとめて

 空に立つ虹を誰もが見上げていた。

 誰かが指し示したわけでもないのに、ランシャルがファスティアが虹に目を向けている。


「対話・・・・・・か」


 ギャレッドはぽつりとそう言った。


「わしとは正反対だな」


 独り言のような呟きが風に流されていく。


 東から西へと空を跨いでいた虹は東の端から徐々に薄れ始め、西の端に到達して静かに空へ溶けていった。それはまるで虹竜こうりゅうがレイラーンへ帰っていく軌跡のようだった。


「虹竜は見ていたと思うか?」


 ギャレッドの問いかけが誰に向けられたものなのかわからない。けれど、ファスティアがそっと答えた。


「雷の鳴った時から、雨雲の上にいたのかもしれませんね」


 声もなくギャレッドは笑った。


「全て見ていたか? わしの怒りを受け取ったか?」


 虹竜に問うにはあまりにも弱い声と落ちた肩が、ギャレッドを年齢相応に見せていた。


「さぁ、大伯父様。王都へ戻りましょう」


 ファスティアはギャレッドの横に馬を並べシリウスへと目を向ける。


「我々が先導します」

「ファスティア」


 隊列を変えようと手を上げかけたファスティアをギャレッドが止めた。


「彼らは王都へは行かぬだろう」


 ファスティアは少し困った顔で笑ってシリウスに目を向けた。


「そんなに急がなくてもいいじゃないか。新王様もお疲れだろうし、玉座の間で祝いの場をもうけた後でもかまわないだろ?」


 笑顔を向けるファスティアに対しシリウスの顔に笑顔はない。

 賛同する気配のないシリウスにファスティアが焦れて馬が身震いした。


「玉座の空席が少々長く、国の端で災害が増えてきていると伝え聞いています。ゆっくりなどしていられません」


 丁寧だがシリウスの声は冷ややかだった。


「王妃が新王を殺そうとしていると噂が広がっている。新王を連れ帰らなければ噂が独り歩きするばかりだ」


 優しく説き伏せるような声音で言ったが、焦るファスティアの口は自然と早口になっていた。


「国民の安全より王妃の立場を気になさるんですね」

「・・・・・・!」


 シリウスの落ち着いた声に刺されて反論する言葉が見つからず、ファスティアが押し黙る。


「戦いにならないように止めに入ってくださったこと、感謝いたします」


 深く頭を下げたシリウスが新たに加わった後ろの騎士たちへ指示を出す。ギャレッドと共に王都へ戻れと。


「部下を付けなくても王都へ帰る。心配するな」


 ギャレッドの声は力強さを失っても芯の強さはまだ残っていた。


「だが、ファスティアを加えて行け」

「なっ」


 驚くファスティアをギャレッドが見つめる。


「虹竜に直接聞くんだ、いいか」


 言葉は指図のようでも、声音こわねはすがるようだった。


「血の濃さが力の強さだと信じ国を守れると思ってきた。それは間違っていたのか。どうすればまた王族に印が戻るのか」


 糸のように細い希望を引き出そうとするように、しわがれた声が細い喉から絞り出される。


「印が戻る未来はないか尋ねてくれ」

「しかし、大伯父」

「王妃の噂はわしが消す。わしのしでかした事だ」


 ギャレッドの手が力無くファスティアの肩を叩く。


「頼む」

「・・・・・・え?」


 命令し指図するばかりの人だった。そんなギャレッドの口から出たとは思えず、ファスティアは自分の耳を疑った。


「頼んだぞ」


 ギャレッドに念を押されてファスティアは否とは言えなかった。

 いままで彼が誰かにこれほどすがるように頼んだことがあっただろうか。杭を打たれたように動けず、遠ざかる老人の背をファスティアはただ見送るばかりだった。


(なんと小さな背だろう)


 そんな風に感じるときが来るとはいまの今まで思ってもいなかった。

 気落ちしたギャレッドの背は小さい。けれど、馬にまたがるその姿はまだ健在だと思える。今まで人を意のままに動かしてきた彼の力を、統べてきた手腕を頼ってみてもいいだろうと思えた。


(私こそ頼みましたよ)


 ギャレッドの背にそっと思いを託してファスティアは王都に背を向けた。


「私も一緒に行っていいか?」


 ファスティアの問いにシリウスは黙ってうなずいた。その表情は歓迎とまではいかなかったが拒否する心は感じられない。

 シリウスと少数精鋭の面々、そして彼の後ろには新王とおぼしき少年の姿があった。同じ年頃の少年がふたりいても、ファスティアの目は迷わずランシャルへ向いた。


(ああ、確かに似ているな)


 ランセル王の少年時代、薄まった記憶が呼び覚まされて微笑む。か弱げで心配そうで、それでいて真っ直ぐな目が似ている。

 感傷に浸りそうなるのを止めてファスティアはシリウスに聞いた。


「せっかく加わった騎士たちを帰してもよかったのか?」


 その問いにシリウスが短く返す。


「人の匂いに魔物が寄ってきます。レイラーンに入る人数は少ない方がいいのです」

「レイラーンへ入るつもりか? ふもとの祭壇で祈るはずでは?」


 驚くファスティアにシリウスは意外そうな顔を向けた。そして、ひとりで納得する。


「ファスティア様は書庫に足を向けるのがお好きではありませんでしたね」


 言われてファスティアは苦笑いした。


「確か、君はランセルと一緒によく行っていたね。────私は王族でいることもこの力も持て余していたし、お鉢が回ってくるとも思っていなかったからな」


 シリウスはかすかに苦笑いして先の質問へ答えを返した。


「世間的には玉座の間で虹竜から祝福を受けて、その後に西の祭壇で供物を捧げると言われていますね」


「そう聞いている」

「真の玉座の間はレイラーンにあり、力を解放するにはそこへ行かねばなりません」


 ファスティアは驚き苦笑いし大きく頷いた。


「ただのパフォーマンスじゃなかったわけか」

「勇者気取りの物見遊山で騒がれては困るから、ですかね」


 シリウスの言葉にファスティアは笑った。


「力の解放のために魔物が棲む山に登れとは虹竜も意地の悪いことを」

「虹竜は魔力のほとんどを手放し動けないと記されていました」

「そうか。我々は器で虹竜は鍵・・・・・・か」


 むなしく笑うファスティアをランシャルは見つめていた。


(僕らは器で虹竜は鍵)


 心でそう繰り返したランシャルの耳にシリウスの声が凛と響く。


「少しは休めたか? 行くぞ」


 周りが動き始めてシリウスが振り返る。


「ランシャル様、行きましょう」


 新たにファスティアを加えてランシャルたちは再び西へと走り出した。





 向かう先には霊峰レイラーン。

 大鷲が羽を広げるように連なる山並みは、大きく長い壁のようだった。






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