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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

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75話 寄り合わされる糸

 母の言葉を思い返していたランシャルの耳にシリウスの声がするりと入ってきた。


「コンラッドも一緒に連れていってくれると助かる」

「俺はランについて行く!」


 コンラッドの声が間髪いれず飛び、ルゥイもそれに続く。


「私も1人で戻る気はありません」

「ルゥイ」


 彼女をなだめようとルークスが声をかけた。けれど、ルゥイの目はシリウスをとらえたまま。


「剣術をお嬢様のお遊びでやってきたわけじゃありません。入れるものなら護衛隊に入ってずっとシリウスさんの側で・・・・・・」


 秘めた思いの欠片が口をついて出て一瞬ルゥイは口ごもった。


「私だけ蚊帳かやの外なんて、嫌です」


 知らず知らずのうちにランシャルは拳を胸に当てていた。


(シリウスさんはどうしてこうなんだろう)


 彼は誠実そうで人当たりがいい。けれど、近づいても一歩踏み込めない。踏み込ませない。

 隊長として馴れ合いを避けているのか。ランシャルが王だから節度を保っているのか。それとも、ランシャルが彼を信用できていないせいでそう感じるだけなのか。

 シリウスから感じるうっすらとした疎外感がルゥイの言葉に共鳴していた。


「攻撃系の魔法を使えるのはこの中で私だけです。役に立ちませんでしたか? 私は邪魔ですか?」


「いや」


「ならば一緒に行かせてください。最後まで一緒に行きます!」


 ドラゴンの光が都を昼のように明るくしたあの夜。ランシャルの知らない旅立ちのその時に彼女は駆けつけた。自分の力を役立てさせてくれと願い出た。その時と同じゆるぎない瞳がシリウスをとらえている。


 ルゥイの魔法は渡りに船だった。

 少ない駒の有効利用、そんな打算が無かったとは言えない。力を当てにして加えておいていまさら、と偽善の皮が剥がれ落ちる。


「目的地はレイラーンだ。それでも着いてくるか?」


 ルゥイの真っ直ぐな声が「はい」と即答する。

 頬に赤みが戻ったルゥイの顔を見て、ランシャルとコンラッドは目を合わせた。


(みんな一緒に行ける、誰も欠けずに行ける)


 もう見慣れた顔ぶれに新しい顔を加えて。

 喜びとレイラーンという名にランシャルは身を震わせた。




 遠くにかすんで見える山並みこそレイラーン。霊峰にして西の壁と呼ばれる山脈。その中でもひときわ高くそびえる山にドラゴンは棲むという。


虹竜こうりゅうに会いに行くんですか?」


 ランシャルの問いに近くにいたラウルが答えた。


「そうです」


 数人の騎士の目も山へと向けられた。


「黙っていてすみません。怖がらせてしまうかと思ったんですよ」


 そう言ったラウルの目がシリウスの背へ流れた。



 レイラーンにはドラゴンが棲む。聖なる領域を取り囲んで魔物が闊歩かっぽするという。


 吟遊詩人の語る勇者と竜の話の人気もさることながら、道中の魔物との戦いも子供達に大人気の話だった。恐ろしげに語られる魔物の容姿にひとりでトイレへ行けなくなる子供がどれほどいることか。

 悪さをした子へ「レイラーンに連れて行くよ」と大人が脅すのは定番。

 大きくなって嘘だと笑いながら、心の隅に小さな頃に取り込んだ恐れは潜んでいる。


「俺たち子供扱いされたのか」


 少しむくれた顔のコンラッドは「でも」と続けた。


ドラゴンに会えるなんて、ぞくぞくするな」


 虚勢を張るコンラッドの肩がすくんでる。


「会ったとたん食べられたらどうしよう」


 ランシャルはわざと怖そうな顔でそう言った。


「ラン、よせよ! 食われてたまるもんか!」


 むきになって怒るコンラッドをランシャルが笑って小突かれて、ふたりで笑いあう。こうやってふたりで笑っていれば多少の不安は飛んでいく。


「ありがとう」

「あ? なんだよ急に」


 叱られてばかりのコンラッドはなんだか気恥ずかしくてそっぽを向いた。


「一緒に来てくれてありがとう」

「ああ、別に。俺が決めたことだし」

「怖いことも沢山あったし危ないこともあったね」

「そうだな。俺たち頑張ったな」


 にっと笑うコンラッドの顔がランシャルをほっとさせる。


「ごめんね」

「なんだよ」

「あの日・・・・・・僕の家へ一緒に行かなかったら、ラッドはこんな危ない目にあわなかったよね」


 思えばずいぶんと昔のようで、それでいて胸はまだ痛んだ。


「いいんだよ。お前が突然いなくなって、おばさんの死・・・・・・家の中見たら。どれだけ心配で悲しいか」


 コンラッドはランシャルの肩に腕を回した。


「俺のこと兄ちゃんだと思っていいって言った日から俺はお前の兄ちゃんだ」

「いまは同じ年期間だけどね」

「うるさい」


 ぺちっと額を叩かれて額をなでながらランシャルは笑った。




「シリウス?」


 珍しく敬称を省いてロンダルが声をかけた。ロンダルの瞳に親のような色が浮かんでいた。


「私は勝手だな」


 そう言うシリウスの目は少し離れた所にいるルゥイとコンラッドを追っている。


「はっきり駄目だと言えばコンラッドもルゥイも外せるのに、都合のいい駒として側に置いてしまう」


 声を潜ませた愚痴をロンダルだけが聞いていた。


「私たちのすべき目的のためです。無理強いしたわけじゃない。本人の意思があってのこと」


 気にするなとロンダルの手がシリウスの背を叩く。


「本来なら貴方が隊長であるべきなのに」

「何をおっしゃる。父君から貴方と隊を託されて、私は誇りに思っているんですよ」


 シワの増えたロンダルの顔をシリウスはまじまじと見つめた。


「息子ほど年下の者の部下なのに?」

「貴方が隊長の座を下りることになればその時はお任せください」


 口の端で笑って見せるロンダルへシリウスも声なく笑みを返す。


「少し長い休憩になってしまった。そろそろ移動しよう」


 シリウスが馬の手綱に手を掛けた。その時、ロンダルがおもむろに地面に耳を当てた。ロンダルの行動に騎士達が動きを止める。

 ほんの数十秒してロンダルが顔を上げた。


「何かの群れが近づいています。ここらで羊は考えにくい」

「動くぞ。被害の少ない場所を選んで進む」


 シリウスの号令で全員が馬上の人となった。






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