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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

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74話 見えない線

 王妃マリーヌの父が騎士を動かしていないならばあの人しかいない。そう思ったファスティアはギャレッドの館へ馬を走らせた。


(彼女と穏やかに暮らすために、王を立てることは必須)


 これ以上彼女をおとしめないためにも王殺しの汚名は着せたくなかった。


(まだか? 遅いッ)


 対応した下男は主人は不在の一点張り。らちが明かぬと執事を呼びに行かせた。それはほんの数分前のこと。待つ時間は長く扉の前を何往復したことか。


 扉が開いて老執事が現れるとファスティアの口から溜め息が漏れた。


「ファスティア様。下男がお伝えした通り旦那様は不在です」

「お前が居るなら大伯父も居るはずだ」


 執事は残念そうに首を横に振った。


「お待ちください!」


 押し退けて入ろうとするファスティアを執事は慌てて止める。


「本当にいらっしゃらないんです」

「王妃へ送った騎士を動かしたかどうか確かめたい」


 執事の顔が一瞬こわばり、そして陰った。


「動かしたのは旦那様です」

「え?」


 こんなに早く答えが帰ってくるとは思わずファスティアはわずかの間、執事を見つめた。


「ならば止めてもらわねば」


 なおも入ろうとするファスティアを執事は必死に押し止める。


「旦那様はいらっしゃいません」

「嘘をつくな! お前を残して館を空けるはずがない」


 執事は力なく首を振った。


「いいえ、本当なのです。戦場へは連れていけぬとおっしゃられました」

「なんだと!?」


(本気で戦うつもりか? あの年で)


 驚くファスティアを執事は見つめる。


「何かあったときにはと、遺言書もここに」


 と、執事が自分の胸に手を当てた。ファスティアは信じらぬ思いでその手を見つめていた。


「他の方に預けてほしいとお願いしたのですが、私の家族に恨まれたくないと。後の事を気にされる方ではないのに」


(止める術はないというのか?)


 驚き焦るファスティアを前に、執事は目を潤ませて微笑みを浮かべて言った。


「私に長生きせよと仰せになられて・・・・・・ああ見えてお優しい方なんです」


 執事の言葉を風の音のように聞き流し、ファスティアは館を後にした。


(一刻も早く追いつかなくては!)


 焦る心を押し込めて必要最低限の装備で馬を駆る。

 稀石きせきの導くその先へ。

 王を殺す剣先を折るために。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 アンハルバー領を出て王都のあるラインシュルト領へ向かっている。と、ランシャルは思っていた。


 シリウス達と合流してから数日。

 夜と休憩のとき以外は馬を走らせ続けて移動していた。


(領地って広いんだな)


 小休止の間に剣の手合わせをしていたランシャルとコンラッドは、草地に腰を下ろし体を休めていた。

 視線の先に見える町々の大きいこと、そして回りに広がる果樹園や畑のりっぱなことにふたりは目を丸くする。


「王都もあの町くらい大きいんですか?」


 ランシャルの質問にルークスは笑う。


「ランシャル様、王都は比べ物にならないくらい大きいんですよ」


 コンラッドとふたりして「ええ!?」と驚きの声が口をついてでた。


「領土を広げる前、近隣の町や小国を抱え込んでできた王国最初の場所。それがいま王都と呼ばれるその場所なんですから」


 誇らしげに話すルークスの横でダリルが苦笑いする。


「そのせいで入り組んでいるのはご愛敬あいきょう


 高い壁の内側に昔は町だったなごりの壁がいまも点在していた。

 ダリルも加わって話に花が咲く。なごむランシャル達と少し距離を置いた場所でシリウスが休むのは相変わらずの事。


 新しく加わったリカールはまめまめしく馬を癒し体力回復に努めている。追撃をかわして走り続けてこれたのは彼のお陰だった。


(僕も癒しの力か攻撃系の力があればよかったのに)


 力が役立っている彼を見ていると、守られるばかりの自分が情けなく申し訳なさが募る。ランシャルは無意識にウルブの剣を握っていた。


(僕は都を知らない。城の中の事もそこにどんな人が居るのかも、知らない)


 形のない不安から目をそらし、ランシャルは目の前に広がる田園風景を見つめた。


「なぁ、ラン。あの果樹園の果物、王都で売られるのかなぁ」


 よだれをこぼしそうな顔で言うコンラッドに笑顔を引き寄せられて、


「そうかもしれないね」


 とランシャルは笑顔を見せた。


「旨そうだな」

「ふふっ、美味しそうだね」


 大国のような王都にはきっと沢山の人がいるだろう。それだけの人の腹を満たす食べ物、それを売る店が何軒あるのか。ランシャルには想像もつかない。

 ランシャル達の会話をルゥイはやや怪訝けげんそうな顔で聞いていた。それに気づいてランシャルが声をかける。


「どうかしたんですか?」

「あ、いえ。ラウル、もう王都に着いてもいい頃ですよね?」


 ルゥイはラウルへ話を振った。


「遠回りをしてるんですか? 何か問題でも?」


 ルゥイの質問に騎士達の視線が集まる。


「なん・・・・・・ですか?」


 騎士達の視線がルゥイからシリウスへと移り、ランシャルもシリウスへ目を向けた。


「王都へは寄らない」

「寄らないっ・・・・・・て?」


 ルゥイが皆の顔色をうかがうが騎士達は無表情のまま。


「戻らない、ではなく。寄らない?」


 もともと決まっていたことなのか。わずかな驚きがルゥイの顔に浮かぶ。

 自分だけが知らされてなかったのかと、唇を噛むルゥイの顔に怒りと悲しみがにじんでいた。


「王都へ向かってるんじゃないんですか?」


 騎士とルゥイの間に見えない線を見てランシャルはそっと尋ねた。知らされていないのはランシャルも同じ。けれど、ランシャルの質問は流された。


「帰りたければ外れてもかまわないよ」

「そんなっ! 外れるだなんてッ」

「ここまでよくやってくれた。この先は危険が増すばかりだ。無理にとは言わない」


 優しそうな言葉が線を引く。

 仲間のように行動し生まれたと思った絆がぷつりと切られた。ルゥイにはそう感じられただろう。ランシャルはそう思った。


(ルゥイさん・・・・・・)


 彼女の潤む目を、真一文字に引かれた口を見てランシャルの心が震える。その切なさは自分の事のようでランシャルはうつむいた。


 仲間だと思い始めている。けれど、シリウスとの間に見えない線をランシャルも感じてきた。だから、ルゥイから溢れる疎外感が染みて心がきゅっと縮んでしまう。


(王宮に入って長く一緒にいてもシリウスさんは変わらないのかな)


 大きな城の中、うっすらと包む孤独感を想像する。ランシャルは母の言葉を思い出さずにはいられなかった。



『上に立つ人は孤独なんですって。だから、お城へ上がったら王様の心強い王子様になるのよ』



 母はどこまで王の立場を知っていたのだろうか。






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