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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

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68話 血を越えて光る刃

「どうしました? お口に合いませんか?」


 親友とその家族を思い出して食事の手を止めたランシャルへ、少年の母が声をかけた。


「いえ、とても美味しくて。感激してました」

「あらま、嬉しいこと」


 家族が肉に舌鼓をうっている中、ヒツビ飼いの少年だけ黙々と食べていた。

 隣に座るランシャルから少し体を背けているのを見ると、食べることに忙しいというわけではないらしい。


「あの、僕はランシャルっていうんだけど、君の名前は?」

「・・・・・・ヒュルプ」


 目を合わせずに言うと、ヒュルプは肉を口に詰め込んだ。


「ヒュルプ。なんだい、その態度は」


 説教を始める妻を「まぁまぁ」と夫がなだめる。


「王様と食事を一緒にするなんて、一生に一度もあるもんじゃない。説教は後あと」


 温厚そうな父親に助けられて、ヒュルプは少しすまなさそうな顔で口を動かしていた。


 食事は和やかに進む。

 そこらの少年と変わらないランシャルの格好に、ときどき敬語を忘れたりしながら時間は過ぎていった。


「ランシャル様は国をどうなさりたいんですか?」


 父親の質問で皆の視線が集中してランシャルはまごついた。


「えっと・・・・・・どうって」


 どんな王であるべきか考えたことはあるけれど、どうしたいかランシャルはまだその答えを持っていなかった。

 口ごもるランシャルを見てヒュルプの父親は続けた。


「亡くなったランセル王は先の王様を引き継いで農業に手厚かったな」


 頷きながら妻が続ける。


「先王が農家の出だったし、やっぱり血の繋がった親子だもの。親から子へってやつよね。その前の王様は商人で、商人達の願いをたくさん聞いたって話だよ」


 夫婦の会話を聞いていたお祖母さんも話に加わった。


「その前は漁師だったり領主だったり、貴族様の時代は長かった」


 そう言いながらお祖母さんは苛立たしげに手をひらひらと振った。


「王様が変わる度に法律が変わって新しく増えたり減ったりさ。あたしらはあっちだこっちだと惑わされてばかりだよ」


 年輪を感じさせるしわがれた声に呆れと怒りの雑音が混ざっている。


「じゃあさ、ヒツビの毛やウウシの乳を高く買うようにって命令出してよ」


 はきはきとしたヒュルプの声が食卓に静けさをもたらした。


「・・・・・・あら、良いこと言うね」

「ウウシの肉も高く買ってもらおう」

「それじゃ、収入が増えてもウウシの肉はあまり食べられそうにないな」

「あ、そっか」


 ヒュルプが自分の頭を叩いて皆が笑った。

 笑う皆の様子を見ながらランシャルは考えていた。


(カヒコを育ててる人は絹糸の値が上がると嬉しいんだろうな)


  カラン パタン


 機織りの音が耳の奥で鳴った。


(絹糸の値段がもっと高かったら、お母さんは何単織れたんだろう)


 絹糸は高い。普段は安い糸で反物を作り、売った金から少しずつ貯めたお金で絹を買って絹織物を作っていた。そのお陰でたまに少しだけ贅沢な物を口にできた。


(こちらの暮らしを考えて手を貸せば別の暮らしが辛くなる)


 ランシャルは唇を噛んだ。


「な、家畜を飼ってる俺たちが楽に暮らせるようにしてくれ」


 ヒュルプに明るい顔を向かれて、ランシャルは言葉に詰まり笑ってごまかす。ふいに母から聞いた父の事がよぎった。



『いつも困った様な顔をしていたわ』



 きっと王として王宮に入ると、こんなふうに皆が色々な頼み事をしてくるのだろう。そう思うとランシャルは気軽に「うん」とは言えなかった。






 明るい窓からこぼれる笑い声を遠くに聞きながら、霊騎士達はヒツビが地面に落とした赤い帯を見ていた。


「おい、見ろよ」

「発案者のお出ましか?」

「馬車に血が塗ってある」

「悪趣味だな」

「ご丁寧に馬の背にまで」


 過ぎ行く馬車を見ながら、霊騎士達は苦笑いを浮かべていた。






「エルザン、お前は本当に王になりたくないのか?」


 馬車の中からヒュルプの家が見える頃になって、領主アウザンは弟にそう聞いた。

 時折、血の匂いが流れ込む車内で兄弟が向かい合わせに見つめ合う。


「乗る前にも言ったけど、僕は王になりたいとは思わないよ。王様なんて大変な役目は向いてないし、王宮に保管された図書を読み漁れるならそれでいい」


 読書好きで歴史好きな弟だとアウザンは知っていた。けれど、確認しておきたかった。立場が変わっても今までと変わらずいられるかと。






「お、いらっしゃったようだ」


 父親がそう言って立つのをランシャルは目で追った。


(誰だろう)


 ランシャルの顔が不安そうに見えたのだろう。ヒュルプの母が補足した。


「領主様ですよ。挨拶をしに来るって話でしたから」


 そう言いながら、彼女は自分と子供達の服を整えている。


(領主様? ここの領主様って、どんな人だろう)


 ランシャルがそろりと立つのと入口の扉が開くのはほぼ同時だった。


 狭い家は入口に立てば食卓が見渡せる。身なりの良い40過ぎの男が2人、入口に立ってこちらを見ていた。

 見知った者の顔を確認するように注がれた視線に、ランシャルは体をこわばらせた。


「ようこそ、我が領へ」


 作られた笑顔と見据えた目に怖さを感じて一歩後ずさる。

 自己紹介も早々にアウザンは切り出した。


「できれば・・・・・・できる事ならば印を。印を拝見させていただきたく思いますが」


 それはそうだ。と、ランシャルは思った。

 これ程の歓迎、噂だけを信じてただの旅の少年だったでは済まない。確かめたくなるのは当然だとそう思った。


 上着をズボンから引き抜いて片手でそっとたくしあげる。皆の視線が集中するのを感じて、少しの恥ずかしさからランシャルは顔をうつむかせた。

 体半分があらわになって印の下3分の2ほど見えた時、部屋の空気が張り詰めた。

 背を向けていても息を飲む気配が伝わってくる。


(見ればわかるとは・・・・・・なるほど)


 アウザンは驚き見つめて納得した。

 王印を見るのは初めてでもわかる。王家の家紋をシンプルにした図柄。いや、この図を元に紋章ができているのだと。


 入口の近くに立つ大人達が慌ててしゃがみ、子供らの膝を床に着かせる。その時になってヒュルプの母は見た。

 入口から領主達の足元まで点々と続く赤い足跡に。


「ひぃ!」


 声にならぬ声をあげた彼女の視線が床に貼り付く。

 印を見せるために後ろを向いていたランシャルの耳にもその声は届いた。


(ん?)


 何事かと振り返ろうとしたその時。


  ドン!


 背後から強く背を押された。


(えっ!?)


 無防備な姿で驚くランシャルをアウザンが無理矢理に壁へ押し付ける。


「うぐッ」


 押し潰された蛙のような声がランシャルの口から漏れた。

 後ろで何が起きたのかランシャルにはわからない。アウザンが短剣を手にしていることも。


「キャ────ッ!」

「兄さん床だ! 床に倒せ!」


 悲鳴と慌ててバタつく足音。


「ああ、なんてこと!」


 驚き悲しむ声が遠ざかって行く。






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