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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

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60話 姿を消して

 石と石の間で光るものをランシャルは拾い上げた。それは古い懐中時計だった。古くはあるが磨かれていて大切にされていたとわかる。


「早く釣って朝食を済ませろ。移動するぞ」


 懐中時計に注意を奪われているランシャルへダルフはそう言った。


「シリウスさん達を待ちたい」


 ランシャルは眉間にシワを寄せてダルフを見ていた。そんな彼から目をそらすダルフはうんざり顔。


「あ、それに。ここに落ちてたんだから、あのヒツビ飼いの子の物かもしれないでしょ。戻ってくるかも」


 さらに留まる理由を見つけてランシャルは笑顔を向けた。


「目につく所に置いておけ」


 ダルフは聞く耳を持たない。

 ランシャルの言葉は受け入れられず、ダルフに嫌だと言ったところで勝手に運ばれてしまうのだろう。そう思うとむくれ顔で釣糸を垂らすしかなかった。


「ヒツビ飼いにも見つかった。同じ場所に居ると敵に追いつかれる」


 むくれたランシャルを気にしてか、ダルフは説明を付け加えるようにそう言った。


「霊騎士は僕らに触れることができるけど、僕らは触れられない。敵が来ても簡単に倒せるでしょ?」


 小声ながらぶつけるような声音に、ダルフは一呼吸置いた。


「人とはなるべく戦いたくない」

「どうして」


 霊騎士なら敵が大人数で来てもあっという間に倒せそうなのに、とランシャルは不思議そうな目を向けた。


「我々にも弱点はある」

「弱点って?」

「人に言う馬鹿がどこにいる」


 呆れをため息に乗せてダルフはそう言った。


「いいじゃない、僕は敵じゃないんだから」


 ダルフがフードを被るのを見てランシャルもため息をつく。


「全然言うこと聞いてくれない」


 口をもごもごと文句を言うランシャルを、ダルフはしばらく見ていた。


「ここから西向けにある村まで行く」


 ランシャルは黙ったまま。


「味は我慢できても体に塩は大切だ。村で塩だけでも分けてもらえ」

「でも、皆の姿を見たら今までの町や村と同じことになるでしょ」

「俺たちは姿を隠しておく」

「?」


 ランシャルは真顔でダルフを見つめた。


「側にはいる。姿を消すだけだ」


「・・・・・・それ、なんで今までしなかったの?」


 ランシャルは呆けた顔で彼を見上げていた。

 姿を消すことを思い付かなかった自分とそうしてこなかった彼らに呆れて、ランシャルはがっくりと肩を落とした。



 移動はしても近くの村までと念を押して、ランシャルはダルフの意見を飲むことにした。






(早くこうしておけばよかった)


 ランシャルは心の中で頭を抱えた。

 少年1人が近づいても村の日常に変わりはなかった。見知らぬ少年やその服装を訝しむことはあっても恐れられることはない。


 胡散臭そうに視線を送る男達を避けて、子連れの母親に声をかける。


「あの、すいません。塩を、少し分けてもらえませんか?」


 その女性は汚れたランシャルの服を見て少し嫌そうな顔をしていた。


「ほんの少しでも・・・・・・駄目ですか?」


 じろじろと見ていた女がぽつりと言った。


「あんた、怪我してるのかい?」


 面倒な事は嫌だと言わんばかりの目がランシャルを探っている。


「それ、血だろ?」


 洗っても落ちなかった茶色い染み。それが何の跡なのか彼女にはわかっていた。


「大丈夫です。ずっと前ので、もう治りましたから」


 自分でも意外なほどするりと嘘をついていた。

 ランシャルの笑顔と丁寧な言葉遣いに、やや彼女の表情が和らいだようだった。


「そうなのかい?」


 そう言う彼女の目はランシャルの後ろをきょろきょろと見ていた。


「1人でここまで? どこの子?」


 彼女の表情に警戒と優しさが見え隠れしている。小さな子供が彼女の後ろから顔を覗かせていた。


「東の方から」


 と、ランシャルは曖昧に答える。


「お母さんが・・・・・・死んでしまって、遠い親戚の所へ行く途中で・・・・・・」


 あまり嘘はつきたくなくて、けれど、母の死を口にするのはまだ辛くて口が重くなる。


「そう・・・・・・かい」


 気の毒そうに眉を寄せて女はしばし考える。そのちょうど良いタイミングでランシャルのお腹が鳴った。


「食べ物、持ってないの?」

「魚を。魚を釣ったりして食べてます」

「お金は? 持ってないの?」


 首を横にふるランシャルに彼女の困惑度が増す。


「どっかの町ですられたか取られでもしたの? それとも町に入るときに門番に要求されたのかい? 女子供だけだと袖の下を欲しがるやつがいるからねぇ」


 質問の答えを用意していなかったランシャルは困った。困ってうつむくランシャルを落ち込んでいると受け取って見かねた彼女が言った。


「塩だけでいいんだね?」


(・・・・・・あ)


 ぱっと表情を明るくしたランシャルへ「少しだけだよ」と、待つように言って彼女は自宅へと戻って行った。


 待つ間も誰かしらの目があって心地よいものではなかった。


「なんか急に冷えてきたな」

「そうだな、今夜は嵐かな?」


 村人のそんな会話を耳にして、ランシャルはそっと辺りを見回した。

 姿は見えないけれど霊騎士たちは近くにいるはずだ。この冷気がそう感じさせる。


「ほら、これ」

「え? あ、こんなに?」


 先程の女性に声をかけられて、彼女の差し出す袋の大きさにランシャルは目を丸くした。思ったよりも量が多い。片手にたっぷり乗るほどの袋を手渡されてランシャルは驚いた。


「ご近所から少しずつもらったんだよ。気にしなさんな」


 ふと見れば、彼女の後ろに5・6人の女の人たちが立っていた。


「ありがとうございます」


 礼を言ったランシャルへ「頑張って」や「気を落とさずにね」「気を付けて」と声がかかって思わず涙腺が緩みそうになる。


「親戚ってどこにいるんだい?」

「・・・・・・王都に」

「そうかい」

「いい人だと良いね」


 頭を撫でられて背中をさすられて、隠し事をしていることが心苦しくなってくる。


「こんなに小さいのに1人旅だなんて可哀想に」


 14歳になったばかりのランシャルは小柄で細くて年より下に見える。

 子供を見る優しい目が、温かな手がランシャルにじんわりと染みた。


「あっ! お前ッ・・・・・・!」


 唐突に少年の声がランシャルの背を叩いた。

 ランシャルを驚かせた声に続いて甲高い声が追いかけてくる。


  め──っ


 ひときわ甲高い鳴き声をあげる仔ヒツビが飛び付いてきて、ランシャルは面食らった。


「え? ヒツビ、今朝会った仔?」


  め──っ


 嬉しそうに跳ね回る仔ヒツビと対照的に、ヒツビ飼いの少年はこわばった表情でランシャルを見ていた。






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