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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

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58話 追走 追想

 日の落ち始めた林の中を白馬が駆ける。

 黒々とした木々が流れていくその間を縫って白馬が見え隠れしている。


「ハッ! ハッ!」


 速達を運ぶ手紙屋のように、馬を急かせているのはシリウス達だった。

 斑馬まだらうまを従えて3頭の白馬が走る。


(時間がかかってしまった)


 手こずった跡は体のあちこちの赤い筋でわかる。

 細かな切り傷から流れた血はすでに乾き、あちらこちらに茶色い跡を残していた。

 マントの端も所々に切れ込みが入り、はたはたと音を立ててたなびいている。白い表を内にして普段は内側にしている濃紺を表に、風にはためかせて林を駆ける。濃紺のその背に隊の紋章はない。


(・・・・・・!)


 流れ去る木々の向こう側で並走する者に気づいて、シリウスはちらりと目だけをやった。前を見据えて気づいてないふりで走り続ける。


(間違いない、付いてきている)


 ロンダルも気づいているはずだ。だが、彼も知らん顔を通している。


「シリウス様」

「見るな」


 声をかけたルゥイへ短く低く指示が飛ぶ。


(ロンダルは戦えるだろうが、きついはずだ)


 背の傷は浅くはない。早足の馬に乗っているだけでも傷に響いて痛みをこらえるのに苦労していることだろう。


(できれば休憩を取りたいところだが・・・・・・)


 そうもいきそうにない事は彼らの気配から察せられた。


 領地を巡回する警備の者ではない。腕章も所属を示す印も何も付けていないことからそれとわかる。しかし、どう見てもそこらの盗賊とも思えなかった。


(また邪魔な)


 ただでさえ霊馬の足は速く水を開けられているというのに、ここでまた戦闘などしてはいられない。だが、黙って見逃してはくれなかった。左側を並走しながら徐々に近づいてくる。


 左手に剣を持って戦うこともできる。しかし、利き手には及ばない。剣を交えることを嫌って右にずれて走る。また近づかれて右へ寄る。

 じりじりと右へ進路をずらされて、シリウスは右手側を確認した。右手を並走する影は見つからない。


(挟み撃ちというわけではないのか?)


 そう思った時だった。

 目の前の木々が唐突に割れた。


(・・・・・・はっ!)


 広がったシリウスの視界に、大きく口を開けた裂け目が飛び込んできて咄嗟とっさに手綱を引く。馬達がたたらを踏み、その足元からガラガラと石塊いしくれが落ちていった。


 高い木々の先端を足元に見る崖の突端。

 覗き込むその先は木々がまばらになり草地へと連なっている。


(やられたッ)


 逃げ場のない3人の背後を囲んで追ってきた者達が展開する。

 シリウス達は即座に馬首を彼らに向けた。


「さすがシリウス殿。馬のさばきがお上手で」


 名指しした男の顔に見覚えがあった。


「部隊章を隠してここで何を?」

「貴方達もこの領地の騎士ではないはずですが?」


 男は困った顔を作って笑った。


「新王をお出迎えと思ったんですが、ご一緒ではないんですね」


 歓迎というより迎撃といった空気を隠すこともなく見据えてくる。


「ふたてに分かれてあちらに新王を?」

「残念だったな、いまからでも別を当たってはどうか?」


 シリウスの言葉に男は笑顔で首を横に振った。


「残念ではないですよ。もう1つの目的は叶えられそうですから」


(ん?)


 いぶかしむシリウスへ男は目で地面を指し示す。下馬しろ、もしくは剣を交えようと誘っている。


 男の片足が馬の背を越えて揃う。下りる男に合わせてシリウスも馬から下りた。

 男と並ぶ4人の騎士も下り、ロンダルとルゥイも馬から下りる。


「私たちを手にかけても得はないぞ」

「ある」


 男はきっぱりと言った。


「新王は子供だと聞いています。守り助言する者が側にいては後ろだてになる方の邪魔になる」


「私達を消しても部下が引き継ぐだけのこと」


 冷静に受け答えするシリウスを男は鼻で笑う。


「歴史ある部隊も解隊されるときは一瞬です」

「なに?」


 とがるシリウスの視線を手のひらで受けて男は続けた。


「隊員総入れ換えという手もある。新王が先手を打てる力量がある方だといいんですが・・・・・・どうでしょうねぇ」


 薄笑いする男へロンダルが強く息を吐いた。


「貴方は目立ち過ぎたんですよ。弱気な王より王らしい・・・・・・と、噂に期待の尾ひれがついて。だいぶうとまれているようですよ」


 もう男の顔に笑みはなかった。


「馬を放してもいいか? 傷つけたくないし、戦いの邪魔にもなる」


 男の手が剣に伸びるのを見てシリウスはそう言った。


「それもそうですね」


 狩人の眼を向けながら男の口は辛うじて紳士を装っている。

 男達の馬が林に入って行き、シリウス達の馬も林へと小走りに入って行った。


 剣を抜いた両者が睨み合う。

 ぎりぎり10人程が手合わせできるかという広さの崖の上。岩肌がむき出しになったその場所に風が吹いていた。



  シリウスさん・・・・・・。



 ランシャルは名前を口にせずにはいられなかった。

 空を飛ぶ夢を見ていた。

 そのはずだった。


 鷹の目を借りたように空の高い位置から視野がきゅっと絞られて、崖の上で動く者達へ焦点が結ばれる。


 急速に下降する視界に体がぞっと反応した。


  ガキイン!!

  キン!

  キキキン!


 剣のぶつかり合う音。

 5人を相手にシリウス、ロンダル、ルゥイの3人が剣を交えている。


 押されて後ろへ下がれば崖のきわ

 仲間を傷つけまいと距離をとり間合いを探りつつ剣を繰り出す。



  ルゥイさんッ!!



 足を払われてルゥイの体勢が崩れた。

 縮み上がるランシャルの目の前でルゥイは立て直し襲い来る剣を跳ね返した。


 戦いの最中さなかに居ながらランシャルの姿に誰も気づかない。戦う彼らの中に立つランシャルの体を、剣が人がすり抜けていく。

 ランシャルの胴を横薙ぎにすり抜けた剣を跳ね飛んだシリウスがかわす。

 くるりと空中で回転して着地と同時に攻撃に転じた。


 キンキンキン!!


 リズミカルな音を立てて互いの剣が火花を散らす。



  これは夢だ

  夢だ

  夢を見てるんだ



 目の前の生々しい光景をランシャルは必死で消そうとしていた。

 ランシャルの目の前に立つロンダルへ2人の男が剣を見舞う。


  キキンッ


 流す剣で次々と弾き2撃目を剣で受け力づくで押し退ける。



  ロンダルさんッ!



 3人目の剣がロンダルのマントに傷をつけた。

 ロンダルの背に赤い筋が滲む。乾いたはずの傷口から再び流れる鮮血が赤く染めている。歯を食いしばり額に脂汗を伝わせてロンダルは戦い続けていた。


 いつもとは違う動きの鈍さは傷のせいだけではない。体に重ねられ消せぬ疲れが3人の体を覆っていた。





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