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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

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57話 近づく王都

 最初の町は扉を固く閉ざしてランシャル達を拒絶し、次の町は門前払い。空腹さも相まって少しの悲しさが心の中を転がる。


「霊騎士と一緒でも王には見えないよね」


 それはほんの少しのやるせなさ。


「王に見えなくとも王だとわかってる」

「そうかなぁ・・・・・・」

「わかっているからこそ遠ざける」


 意味がわからずランシャルはダルフを見上げた。


「次の領地を越えれば王領おうりょう。王都のある場所だ」

「え? そんなに進んだの!?」

「我らの馬は足が早い」


 ティトルが自慢げに言った。


(早すぎる。シリウスさん達が追いつけないわけだ)


 黙るランシャルにはかまわずダルフは言った。


「王に敵対する者の顔色をうかがいたくなくとも鼻息はかかる。敵視されないように動かざるおえんだろうな」


 言いながらダルフが見渡す大地をランシャルの目も追った。


 草原と森が青く濃く織り成す大地にぽつぽつと町や村が見えていた。

 丘を越え3つ目の町に馬首を向けたが、寄るまでもなかった。町のおさのほうからこちらへとやって来たからだ。


 馬から下りて深々と頭を下げた長は言った。


「新王様とお見受けいたしました。我が町を気に止めていただいたようで有り難く存じます」


 彼の丁寧さにランシャルの表情が明るくなる。


「ですが・・・・・・」


 次の出だしでまた曇った。


「近隣の町の目もございます。新王様に刃向かう気など毛頭ございませんが、どうかこのまま・・・・・・」


 最後まで言うのははばかられると言うように濁した。

 長が後ろの者に合図をすると、反物たんものを重ねた盆を持った男が前へ出てきた。顔を見るのも恐れ多いといった風に、頭を下げたままだった。


「この反物をどうかお納めください」


 ランシャルは黙っていた。


「では、ではこれもいかがでしょう」


 長に招かれて2人目の男がさらに後ろから出てくる。今度は金製の茶器が盆に乗っていた。


「我らをそれで釣ろうと?」


 冷ややかな笑いを含んだ声でフィルが言った。


「と、とんでもございませんッ」


 霊騎士のまとう闇が濃くなり冷気が強まる。

 長と男達はすくみ上がった。


「やめて」


 ランシャルの小さな声が霊騎士を制する。


「その反物」

「は、ははぁ!」


 ランシャルの声に過剰反応した男は高々と盆を掲げた。

 様々な柄の反物は色とりどりでどれも見事な物だったけれど、ランシャルの目を惹き付けた物がひとつだけあった。


「これ・・・・・・これだけ、頂けますか?」

「は、はいッ! どうぞ1つと言わず全部どうぞ」


 ランシャルは静かに首をふった。その目は反物に惹き付けられたままだった。


 金糸銀糸を編み込んで織られた布をこんなに間近に見たことはない。けれど、そのきらびやかさに惹かれたのではない。その柄から目が離せなかった。


(お母さん)


 母が得意とした図柄。

 近隣で織れる者がいないともてはやされた布。


「これ、都で好まれてるって・・・・・・」

「ええ、それはもう昔から。王家の紋章の一部に描かれた葉をアレンジした高貴とされる柄ですから」


 急に饒舌になった長が、喋りすぎた自分に気づいて口を押さえる。


「ありがとう。────行こう」


 しんみりとしたランシャルに返す言葉もなく、霊騎士達はその場をあとにした。



 ランシャルの母が織った布はこれほど豪華ではなかった。それでも、依頼されて織られた布は普段使う糸より良いものが使われていて美しかった。


 同じ柄をと見せれば織り子なら誰でも織れただろう。でも、ランシャルの母が織る物は違った。

 光を当て斜めに見ると紋様が浮かぶ手の込んだ織りが見事だった。他の反物より高値が付きはするものの日数がかかる。結果的に貧乏とは言わなくても裕福とは言えない暮らしだった。


 お金が入った時にほんの少し贅沢な食事をするくらいで、ほそぼそと暮らしてきた。


「これも食べて」


 スープに入った肉を母はよく分けてくれた。


「コンラッドも食べていって」

「いいの?」

「いいわよ、いつもよくしてもらってるから」


 2人きりの食卓が3人になって、いつもより会話が多くて明るい日が思い出される。


(ラッド・・・・・・どうしてるかな)


 思ったそばからダリルの顔が浮かんで嫌な夢を思い出す。


(ダリルさん大丈夫かな。ルークスさんは・・・・・・ラウルさんは間に合ったのかな? シリウスさん達は?)


 次々と思い出す顔に心が乱される。

 ランシャルが物思いにふける間も霊馬は進み村をひとつ過ぎた。固く扉を閉ざし息を止めたように静まり返る村をあとに、もう1つ村に立ち寄る。


「知らなかった事にするから好きにしてくれってことじゃないか?」


 その村はもぬけの殻だった。どの家も入口の扉を開けたまま誰もいない。

 机の上に置かれた食べ物を取ろうとするゴルザの手をランシャルが叩いた。


「痛ッ」

「ダメですよ」

「いいじゃないか、誰も見てない」

「だめ」


 呆れ顔のゴルザへランシャルも呆れ顔を返す。


「俺たちが冒険者だった頃は、誰もいない家から必要なものを取っていったもんだ」

「そんな昔の常識を今に持ってこないでください」


 ランシャルにぴしゃりと言われてゴルザはぐうの音もでない。そんなふたりのやり取りを見てダルフはそっと笑った。


「どっちが大人なんだか」


 そう言ったフィルも苦笑う。


「お昼の準備をしているところへ僕らが来ちゃったんだ。僕らが消えたらすぐに戻ってくるよ。きっと」


 そう言ってランシャルは皆を急かした。


「すっごくお腹が空いたから、いまなら味付けなしでも美味しく食べられると思う。行こう」


 食事が冷めないうちに村人が戻ってくることを願って、ランシャルはこの村を去っていった。






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