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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

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56話 町と領主の影

 霊馬を歩かせて先を進む。歩かせているはずなのに景色はわりと早く過ぎていった。


「もっとゆっくり行きませんか?」

「これ以上遅くは無理だ」


 目を向けることもないダルフは素っ気なくそう言った。


 フードを被ったいまは元の距離感に戻ったように思える。冷気をまとった幽鬼に囲まれた気分だ。それでもランシャルは続けた。


「俺たちの姿を見たら年寄りが驚いて死んじゃうとか言ってませんでした?」


 この問いかけに返事はない。


「皆は食べないんだから、僕のこと気にしなくてもいいんじゃないかな?」


 急に無口になった4人それぞれに目を向けて、ランシャルは溜め息を漏らした。


「死なれては困る」


 短い返事でも反応があると嬉しい。


「美味しくなくても食べたら死なない、でしょ?」


 つい早口になって笑顔でそう言った。

 目深に被ったフードの奥でフィルの口元がほころぶのを見て嬉しくなる。


「町に寄らなくてもいいんじゃない?」

「夜うなされる姿を見せられるのはたまったもんじゃない」


 小さく聞こえたダルフの声が愚痴っぽい。


「ほら、お前のことを気にしてる」


 ランシャルの耳に口を寄せてフィルが言った。


「フィル」


 警告するダルフの声にフィルは口の端で笑って前を向いた。





 馬の足で数十分。見えてきた町へと向かう。

 町はどこも高い壁で囲まれている。四方にある入口で近い場所へと馬を進めた。


 遠目に開いているとわかる門扉は、ランシャル達が近づく頃には固く閉じていた。叩いても叫んでも反応はない。完全無視。


「俺たちだけなら壁も扉もそのまま進めるが、お前はそうもいかないな」


 顎髭をなでながらゴルザが言った。


「浮かせて上を越させるか?」

「そんなことしたら・・・・・・」


 怖がらせてしまう。そう思ったランシャルの顔が曇る。


「お気に召しませんか? 王様」

「・・・・・・そんな、取って付けたみたいな喋り方」


 ランシャルの口が少しとがるのを見てティトルが声もなく笑った。


「じゃあ、俺たちが中に入って取ってこようか」

「泥棒みたいなことやめてください」


 言ったゴルザへランシャルは即座に言い返した。

 お金はもっていないと言っていた。取ってくるとは言葉通りの意味だ。


「じゃ、交渉を頑張ってみろ」


 ダルフの一言で皆が黙る。

 分厚い扉をどんなに叩いても、聞こえているのかすら疑問が湧くほど反応は返ってこなかった。


「開ける気はなさそうだな」

「もぅ、いい。他を当たろう」


 この町を離れてさらに西よりの町へと向かう。



 森と森の間を通る道は川のよう。

 その川の先を進み森が切れると浮き島のごとき町が見えてくる。切り開かれた草原の緑に白石しろいしの建物が映えている。


 白い壁が登りゆく日を受けて明るく見えていた。


「よかった、この町は大丈夫みたい」


 ランシャル達が近づくと、前を行く旅人が彼らを避けて道から草地へと逃げる。そんな姿を見るたびに申し訳なくてランシャルはうつむいた。


「前を見ていろ」


 ダルフにいわれて顔を上げる。けれど、怯えた眼差しが追ってくるのを感じてランシャルは目を伏せた。


 町の門扉は開いたまま。けれど兵士が3人、入口を塞ぐように立っていた。

 先に剣を付けた長い棒を斜めに、こちらに目を向けて立っている。明らかにランシャルたちへ向けての姿勢だ。

 引き結ばれた口から伝わる緊張に、ランシャルも自然と歯を噛みしめていた。


「止まれッ」


 怒鳴る声がわずかに裏返る。


「このまま立ち去れ」


 緊張した口から使い慣れた普段着の言葉が飛び出して、言った本人が狼狽うろたえた。


「す、すみません! 申し訳ありません・・・・・・ですが! 我らの町を避けて西へ向かって欲しいと、町のおさからの伝言です」


 兵士の目が見下ろす黒い影から逃げてランシャルへ向かう。


「あの、少し・・・・・・。少し食べ物を分けてもらえませんか? 少しの塩だけでも」


 言いながらランシャルの声が尻すぼみしていった。取って付けた笑顔も一緒に消えていく。


(まるで、物乞ものごいみたい)


 棒をにぎる兵士の手が何度もにぎり直されるのをランシャルは見ていた。

 手汗をかいているのかもしれない。拒む相手が霊騎士だからか、ランシャルを王と知ってか。


「立ち入りを拒否します!」


 腹に力をこめて震える声を抑えて兵士はそう言った。その声に間髪入れずダルフの声が被さる。


「この方を王と知っての振るまいか?」


 ダルフの地をう声が兵士達の足裏から伝い上がって、3人が同時に一歩、後ずさった。


「り、領主様がッ」


 跳ね上がった声が裏返る。


「領主様からの言い付けに従っているだけです!」


 とがめるなら領主様を、と恐れに震える頬がその顔が必死で訴えている。


「それを町の長ではなく、お前から聞くとは」


 手綱の動きでダルフの霊馬が一歩前へ出た。

 ダルフの正面に立つ兵士達はおたおたと後退する。その奥で扉にしがみつくように立つ男達が、閉じるかどうするかと狼狽うろたえていた。


「よほど王を見下しているとみえる」


 ダルフの言葉に次いでフィルが重ねて圧をかけた。


「ぅうッ! ぅわぅぅ」


 兵士は言葉にならぬ声を漏らし、激しく頭を振っている。その目はダルフとフィルを交互に行き来していた。


「もういいッ」


 たまらずランシャルは声を上げた。


「もういいから、行こう。困ってるから行こう」


 兵士の目がランシャルへ流れる。その目に驚きと安堵の色が浮かぶ。


「困らせてごめんなさい」


 兵士達は声が出せぬままぶるぶると首を横に振っていた。その姿を滑稽だと笑える余裕はランシャルにはなかった。


「優しい王様で命拾いしたな」

「行こうッ」


 ランシャルに促されてゴルザが最後尾を歩き出す。


「町の人をおどしたりしないで」


 しばらく黙っていたランシャルは、町が遠ざかる頃になってそう言った。


「王と対するなら長が出てくるべきだ」


 ダルフが言う通りかもしれない。そう思いながらもランシャルは先ほどの態度を良しとは思えなかった。


「脅したりしないで」


 金持ちが、町の名士の子が、逆らえないと知っていて圧をかける姿が思い出される。


「王様だってなんだって・・・・・・人を脅して好き勝手するのはよくないッ」


 ランシャルを馬鹿にして意地悪を仕掛けてきた町の少年達の、あの顔が浮かぶ。


「あんな奴らと同じになんてなりたくない」


 ぽろりと言ったランシャルの声を4人は黙って聞いていた。






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