50話 交わる剣と影
功績にはならない。
これはただの反逆か。
シリウスの言葉を耳にして男達が3人から距離をとった。
知らなかった事実に動揺が走り静寂が場を支配する。手を引くべきかどうするか・・・・・・。
剣を握ったまま3人を見据えた男達はリーダーの返答に耳をそばだてる。
「ならば、生け捕りにするだけのこと!!」
リーダーのその声は合図に等しかった。明確な意図をもって男達が動きだす。シリウス、ロンダル、ルゥイへそれぞれ5・6人の男が対した。
シリウスやロンダルに比べ男達の剣の技量は落ちる。けれど、彼らの剣の動きは的確だった。
矢継ぎ早に繰り出される剣を3人は次々と打ち返した。
ランシャルは3人の輪の中で剣を握りしめたままびくびくと四方に目を走らせる。
2擊3擊と剣を合わせたシリウスが相手の隙を突いて横なぎに剣を振るう。剣先が男の腹に触れた。裂かれる布と体に剣が当たる感触が手に届く。だが、それは皮を切った程度だとシリウスにはわかった。
シリウスの剣を上手くかわした男が後ろへ飛び退くと、横から新手が入り込む。シリウスに息をつく間を与えない。
後ろへ引いた男は息を整えるとシリウスと戦う男と入れ替わった。致命傷を負わせられないうちに次の者と替わる。
(この戦法は・・・・・・)
いつかの試合で見た。どこの領地の兵だったか。
今それを考えてどうなるものかとシリウスは心で自笑する。
男達は次々と入れ替わった。
人が替われば剣の癖もリーチも変わる。癖を読む前に相手は替わり、立て続けに戦う3人を尻目に手の空いた男達は息を整える。
シリウス達は少しずつ体力を削られ、思うように敵の数を減らせないことで心を削られる。
敵を3人4人と切り捨てても残りは10数名。剣の腕が同等でなくとも、じりと差は縮まってゆく。
3人の輪の中でランシャルは逃げまどっていた。
間隙を突いて伸びてくる手から逃げ回る。仰け反り屈み転がって、まるで決められた円の中で逃げ回る鬼ごっこのよう。
剣の音は止まない。
ランシャルを襲う者から護る手数がわずかに減った。守る3人の体力が削がれてゆく。
ルゥイの体力の減りは明らかだった。
剣を押し返した直後に足がもつれて膝をつく。低い姿勢のルゥイの前にまたがるような格好で男が立った。
(はっ!)
ガキッ!!
振り下ろされる剣をかろうじて受け止める。
男は剣に体重をかけてルゥイを見下ろしていた。その口元が笑ってる。
(この男ッ!)
馬鹿にするようなその笑いに怒りが込み上げた。ルゥイは食いしばる口をこじ開けて呪文を叫ぶ。
「キゥウダ!!」
「うわっ!」
男が宙に舞い上がって飛ばされた。
すぐに立ち上がるルゥイの目の前に別の男が立ち塞がる。その顔が笑っていた。
(面白がってる)
魔法を使う女と対戦することが珍しくて面白い。そう思っているような気がして腹が立つ。
剣を振るのと同時にルゥイは口を動かす。が、剣を弾かれ脇腹に走った激痛で声を出せぬまま地面に転がった。
「・・・・・・っくうッ!!」
「ルゥイ!!」
援護に回ろうとするシリウスを剣が襲う。辛うじて避けたシリウスはルゥイを襲う男に体当たりした。
「大丈夫か!?」
シリウスの問いに返答できずルゥイは黙ったまま首を縦に振る。そんなルゥイをランシャルは引っ張った。
「ルゥイさん、こっち」
シリウスとロンダルの間へルゥイを引きずるように移動させる。そして、ランシャルは構えた。
(僕もやらなきゃ! 僕も戦わなきゃ!)
一度は襲ってきた剣に対抗した。その時の剣の重みと手の痺れがよみがえる。
(・・・・・・怖い)
体がすくんで手が剣をガッチリつかむ。
『ランシャル様、剣を強く握り過ぎてはいけません。体が固くなってしまいます』
ロンダルの教えてくれた言葉が耳の奥で聞こえた気がした。
『いまは時間稼ぎの威嚇程度でかまいません。払われて剣を落としたら逃げてください。私達がすぐに駆けつけますから』
ロンダルの余裕のある瞳を思い出して息を吐き肩の力を抜く。そんなランシャルの目の前に男が走り込んで来た。
「をぉ!」
脅し声をあげて向かってくる。その声に圧されて心が怯みランシャルの剣が出遅れる。
「キゥウダ!!」
張り上げたルゥイの声に目の前の男が弾かれる。
飛ばされた男が後ろの男と折り重なって無様に倒れるのを見て、ランシャルはほころんだ顔をルゥイへ向けた。
「後ろ!」
ルゥイの声にランシャルは咄嗟に身を屈めた。その上をルゥイの剣がかすめて男の剣を迎え撃つ。
ガキィンン!!
耳のすぐそばで音がなり顔の横を火花が駆けた。
「うわぁ・・・・・・!」
思わずランシャルが目を閉じる。
「ぐっ!」
ロンダルの呻く声が聞こえたと同時にランシャルの頬に飛沫がかかった。
(え?)
目を開いたランシャルは服に転々と赤いものが付いているのを見て、それが血だと気づいた。
(あ・・・・・・あぁ)
ランシャルの周りで味方が、敵が剣を振るい怪我をしている。
閃く剣と音と怒声に包まれて、ランシャルの目はぐるりとその光景を追っていた。
(怖い、こんなの嫌だ・・・・・・でも、戦わなきゃ・・・・・・)
もっと強かったら、印が体になかったら、もしも癒しの力をもっていたなら。たらればが心をぐるぐるかき混ぜる。悔やんでも嘆いてもしょうがない。わかっているはずなのにランシャルの心が揺れる。
血の匂いが呻く声がランシャルを苦しくさせる。
(誰も怪我をさせたくないのに・・・・・・僕が弱いせいで)
敵の数はなかなか減らない。シリウス達の体力は削がれていき、浅い傷が増えていく。
「ロンダルさん!」
動きを止めようとランシャルへ向かった剣をロンダルが払う。その背を剣が襲った。浅くはない傷にロンダルの顔が歪む。
とどめを刺そうとする男へランシャルは体当たりした。
数歩下がった男の目がランシャルを捉えて笑った。
(・・・・・・ぁあッ!)
たじろぐランシャルを後ろへ下げてロンダルが迎え撃つ。けれど、攻撃よりも防御が増える。
圧されてる。戦いに不馴れなランシャルにもわかった。
3人の輪は縮む。敵の手数は増える。
(だめだ、どうしよう!)
不安が心臓を急き立てる。
「あっ!」
ルゥイの剣が宙を舞った。その時、空気が変わった。
草木が黙り足元を冷気が這い広がってゆく。
「うぬ!?」
声にならぬ声が誰からともなく漏れて、その場の誰もが動きを止めた。ただならぬ気配にそこにいる全員の目が辺りを彷徨う。
「あ、あれは・・・・・・」
辛うじて男がこぼした声は驚愕に震えていた。
全員の視線が1ヶ所に集まる。
そこには朝日を浴びてなお闇深く、馬に乗る4つの影が並んで立っていた。




