表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/82

48話 追跡者

「診療所、あれだよ」


 男の前で馬に揺れながら少年は指差した。

 農耕馬よりスリムでがっちりとした馬の周りに村の子供たちが集まってくる。


「うわぁ、いいなぁ」


 騎士に似た男たちの格好良い馬。その背に乗る少年は嬉しそうに友達へ笑顔をむけていた。


「ありがとよ。楽しかったか?」

「うん、ありがとう。おじさん」


 馬から下りた男が手を差し伸べると、少年は素直に身を託した。


「さ、家に入ってな」


 男はそう言って少年の尻を叩く。

 診療所に目を向けた男たちの顔つきが変わった。それは離れていてもわかるほどの気配。


 井戸から水を汲んでいた少女を母が連れていく。

 夕飯の準備で野菜を洗っていた女たちもその場から離れていった。

 立ち話をしていた男たちもそろそろと移動して、診療所の周囲が静かになってゆく。





 外が急に静かになり、異変を感じたダリルがそっと窓から外をうかがう。


「どうしたの?」

「しっ」


 ダリルが窓から離れるのを待っていたか、と思うタイミングで外から声がかかった。


「護衛隊の者! そこにいるんだろ!?」


 診療所から15メートルか20メートルほど離れた場所から吠えるような男の声が飛んでくる。


「出てこいよ!」


 言葉は親しげでも声は喧嘩直前に唸る犬のよう。

 声のぬしがどんな人物か気になって、コンラッドは窓に顔を寄せた。


「騎士・・・・・・って言うか、軍人崩れみたいな」


 コンラッドは町で似た感じの剣士を見たことがあった。

 ごろつきではないが荒れて少々面倒な男のことを大人たちはそう言っていた。


「村に迷惑をかけたくはないだろう!?」


 男のその言葉に村人たちはそそくさと家の中へ入っていく。

 思案するダリルの服をコンラッドは引っ張った。


「出ていっちゃダメだ」


 コンラッドの目がダリルの左肩へちらりと揺れた。


「大丈夫、これくらいの傷大したことないさ。薬も効いている」

「でも!」

「コンラッド」

「ダリルさんより体が大きそうだし、相手は2人だし、ダリルさんは怪我してるし」


 眉間にシワを寄せて訴えるコンラッド。その瞳が心配で潤んでいる。


「村に迷惑はかけたくない」

「でも!」


 ドアノブに手を掛けるダリルをコンラッドはなおも引き止めた。


「あいつら剣の腕がたちそうだよ」

「コンラッド」


 ダリルは屈んでコンラッドと視線を合わせる。


「いいか、よく聞け」


 有無を言わせない彼の口調に飲まれてコンラッドは黙った。先程までのやわらかな表情は消えて真剣な眼差しがコンラッドをとらえている。


「なにが起こっても決して出てくるな。剣は絶対に抜くな、どこかに隠しておけ」


 女子供に手を出すほど腐った人間ではない。

 彼らの見た目と物腰からダリルはそう踏んでいた。だから念を押す。


「おとなしくしていろ。なんとかしようとするな。ラウルを待て、いいな?」


 外からまた男の声が届く。

 ダリルはコンラッドに強く頷いて外に出るとドアを後ろ手に閉めた。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 ランシャルがロンダルを相手に剣の練習をしている。

 ふたりから少し離れた場所でルゥイは湯を沸かしていた。


「火を着ける手際がよくなったね」


 シリウスはそう言ってルゥイの隣に腰を下ろした。


「シリウス様も石組が上手になりましたね」


 ふたりして笑顔を向け合う。

 肘がぶつかりそうな距離が久しぶりで、ほんの少し早まる鼓動がルゥイは気恥ずかしかった。そんな気持ちを隠して彼女は火を掻く。


 父親が護衛隊に所属していた頃はシリウスもよく家に遊びに来ていた。若くてハンサムなお兄さんに何度見惚れたことか。


(こんな時に、何してるんだか)


 ルゥイは唇を噛んだ。

 ダリルは怪我をしてルークスはどうなるかわからないというのに、心臓はお構い無し。


 鼓動を静めようと視線を移す。

 ルゥイの目に剣の練習をするランシャルの姿が写った。


「ランシャル様、剣に振られなくなってきましたね」


 最初の頃、ランシャルは剣の重さに体の軸が定まらず振られていた。

 いまは剣の重さを逆手にとって体を回転させ、次の攻撃に続ける事ができている。遠心力を上手く使えてはいるがまだ力強さには欠けるが。


「あまり上達してほしくないな」


 独り言のようなシリウスの声を耳にしてルゥイは彼へ目を向けた。


「そうですね。あの年頃は血気盛んで危なっかしいですものね」


 シリウスは笑顔で答える。


「基本を身につけてある程度上達すると登り詰めた気になったりして」


 そう言ってルゥイは笑った。


「失敗したことがあります」

「僕もだ」

「え? シリウス様が?」

「ああ」


 笑いながら固形のスープを湯に落とす。





「ランシャル様、今日はこれくらいにしておきましょう」


 ロンダルの言葉にランシャルは首を横に振った。


「もう少し」


 言って剣を振る。

 ロンダルに軽く払われて転びそうになりながらランシャルはまた剣を持ち直した。


「もう1回」


 体の動きは慣れてきても筋力はまだ追いつけてない。軽い払いにも軸がぶれる。

 払われた剣を持ち直してランシャルはロンダルへ向かっていく。


(強くならなきゃ!)


 何度払われてもランシャルは足を踏み込む。


(皆の負担を減らすために!)


「えい!」


 勢いよく飛び込んで払われて倒れそうになる。


(もう誰も怪我をさせたくない!)


「もう1回」

「ランシャル様」


 剣を握る手をロンダルに取られてランシャルは顔を上げた。


「戦う時には剣の動きだけを見ていてはいけません。相手の顔も全体の動きにも気を配ってください」


 弾む息を整えながらランシャルは頷く。


「ランシャル様、私の年は貴方の3倍以上だって知ってますか?」

「え?」


 唐突な質問に虚をつかれた。


「馬に楽をさせてもらってますが、年寄りにそろそろ休む時間をください」


 冗談を言いそうにない渋い顔が笑っている。


「あ、ごめんなさい」

「まだ若いとは言ってくれないんですね」

「あぁー、すみません」


 恐縮するランシャルにロンダルは声をたてて笑った。


「少し早いですが夕食を取りましょう」


 気づけば鼻をくすぐる美味しそうな香りがしていた。




 ランシャルたちが襲撃を受けたのは空が白みかける朝のことだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ