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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

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35話 暗雲

  朝だ 朝だ

  なに食べよう

  どこ行こう


 軽やかな小鳥たちの声を聞きながらランシャルは空を見上げていた。


  近くで食べよう

  雨がくる

  食べたら帰ろう


(午後から雨なのかな?)


 晴れわたる空に雨の気配はない。


「色々と有り難うございました」

「いえ。大したおもてなしもできず、すみません」


 社交辞令ではない声が耳に心地良い。

 ハウンディー・ハグルドとその家族に見送られてランシャルたちは館をあとにした。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「ラン、お昼が楽しみだな」


 後ろから伸びてきたコンラッドの手がランシャルのウエストバッグを軽く叩いた。


「うん、楽しみ」


 答えてコンラッドと笑顔を交わす。斑馬の背でふたり一緒にゆられてる。

 昨日、ロンダルが町で買ってきてくれたウエストバッグの中には、お昼にでもと渡されたサンドウィッタが入っていた。

 1人に1つずつ渡されたサンドウィッタの厚みにふたりは目を丸くした。包みを開けてみなくても具だくさんだとわかったからだ。


「ベッド、ふっかふかだったな」

「うん。大きくて部屋も広かったね」


 癒しの力とやわらかいベッドで昨夜はぐっすり眠れた。

 お腹の満ちたいまは見上げる空と同じくらい心も身体も爽快で、一昨日の奮闘が遠い昔の事のようにさえ思える。


「せっかくだから広い部屋を独り占めしたらよかったのに」


 ランシャルが言うとコンラッドは肩をすくめた。


「そう思ったんだけど、ちょっとさ」

「なに?」

「いつも狭い部屋に兄弟4人で寝てるだろ。あんまり静かで、なんていうかさ」


 珍しくコンラッドの歯切れが悪い。


「怖かった?」

「べつに、そうじゃないけど」

「僕はちょっと怖かったな」

「まぁ、俺もちょっとは怖かったような」


 尻すぼみでにごすコンラッドにランシャルは笑った。笑われたコンラッドが話を変える。


「なぁ、俺たち騎士見習いにみえると思うか?」


 ロンダルが買ってきてくれたマントの下から剣が顔をのぞかせている。

 ふたりはお揃いのマントを羽織り腰に長剣をさげていた。


「見習い兼雑用係って感じかなぁ」

「そうか? いけてないか?」


 コンラッドの口が少しとがる。


「でも、ありがとな」


 大切そうに剣をなでながら言ったコンラッドが笑顔を見せる。


 昨夜、ランシャルはシリウスに剣の手習いを申し出た。それならばと、ハグルドに頼んで短剣を長剣にしてもらったのだった。


 ウルブからもらった短剣が伸びていく様は魔法の様だった。

 鞘ごと握ったハグルドの手が横にスライドすると、光と共に剣がするすると伸びていった。

 周囲から光の粒が集まって彼の手の内で凝集する。それはまるで神の力を見るような面持ちだったことをランシャルは思い返していた。


「1人で習うより2人の方が楽しいし、ラッドも習いたがると思ったから」

「わかってんじゃん」


 笑うふたりを見ているラウルの顔が渋い。


「遊びじゃないんだぞ」


 ラウルはコンラッドに睨みをきかせてからランシャルへ目を移した。


「厳しく指導いたします。いいですね?」

「はい」


 ふたりの声が揃う。

 あまりに息の合った返事に一同が笑った。


「返事だけなら護衛隊顔負けだな」


 ダリルの言葉にまた笑いが起こった。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「それは何ですか?」


 昼の休憩をと一行が足を止めたとき、ルゥイが取り出した物に興味をそそられてランシャルは尋ねた。


「手紙です」

「手紙?」


 それは手紙らしい形をしていなかった。畳まれ折られた紙は小鳥の形をしている。


「届けたい相手の元へ飛んでいってもらうんですよ」


 そう言って、ルゥイは鳥の形の手紙を手で包むようにして呪文を唱え始めた。


「無事に届いて」


 彼女が手を開くと紙の小鳥は手のひらの上にちょこんと座っていた。そして、命が宿ったかのように羽ばたくとあっという間に飛び上がった。


「わぁ・・・・・・」


 見つめるランシャルの横でコンラッドも口を開けたまま見送っている。


「ルゥイさんの声が届かなくても平気?」

「大丈夫です。インクに呪文を染み込ませてありますから。呪文を言い続けなくても飛び続けられます」


 ルゥイはコンラッドの様子を見てくすりと笑った。そしてランシャルへ話を続ける。


「魔法使いならこんなことしなくても呪文を一度言えば済むんでしょうけど、私はそこまで力が強くないですから」


 そう言ったルゥイは肩をすくめた。


「あの手紙はどこへ向かってるの?」

「居残った護衛隊のところへ。落ち合う場所が変更になったので」


 木々をくぐって空へ上がった手紙の小鳥はもう見えない。

 姿の消えた空を3人で見上げていた。


「雨に濡れたら落ちたりしない?」


 心配そうに見ているランシャルをルゥイは優しく見つめた。


「水をはじくようにコーティングしてあるので大丈夫です」

「そう、よかった」

「さぁ、お昼にしましょう」


 ルゥイに促されてランシャルはウエストバッグに手をかけた。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 手紙の小鳥は飛んで行く。

 濃い灰色の雲に向かって。

 やがて、ぽつりぽつりと雨粒が当たり始めた。それでも手紙の小鳥は雨を避けることもせずひたすら羽ばたいて飛んで行く。雷鳴が聞こえてくると高度を下げて木々の間を飛んだ。


 その時、手紙の小鳥の横を光の筋が通りすぎた。2つ目の光を避けて3つ目の光もかわして飛んで行く。

 針のような光の筋が次々と向かってきて、手紙はふらつきながらも風をつかまえて飛んだ。しかし、とうとう光に捉えられて2つに切り裂かれた。


 2つに分かれてはらはらと、ひらひらと舞い落ちる。そのふたつを黒い影がつかまえて、影は声もなく笑っていた。






「大降りしそうですね」

「雨宿りできそうな所を探そう」


 ただでさえ光を遮る森は夜のように暗くなっていった。


 雨雲は迫ってくる。

 灰色の軍隊の様に横広がりになって。

 ときおり空を駆ける稲光は宣戦布告のように思えて、ランシャルを縮み上がらせていた。


 一粒、空から雨がぽたりと落ちた。

 落ちたと思ったとたん、堰を切ったように雨は降りだした。大粒の雨は視界を悪くする。雨音は回りの音をかき消す。


 シリウスは出立間際にハグルドが言っていた言葉を思い返していた。


『昨夜、あの方の声に話しかけられました。言葉から気取られる事はなかったはずですが、お気をつけて』


 天候を操る血族の者はいただろうか。もっと北のルートをとって大回りをするべきか。巡る思考を冷たい雨が邪魔をする。






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