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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
西への旅路

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34話 絆の結び目

「ランシャル」


 母の優しい声がする。

 温かな母の手が幼いランシャルの頬を包む。


(お母さん)


 母の笑顔で視界がいっぱいで、ランシャルの心がきゅっと苦しくなる。


(これは夢だ)


 わかっている。

 夢の外から眺めている自分を感じながら、ランシャルは幼い姿の内側から母を見上げていた。


「次は自分で起き上がらなくちゃね」


 ランシャルを立ち上がらせた母が半分困り顔で笑っている。


「お母さんはいつでも側にいてあげられるわけじゃないんだから、ね」


 たいして気にも止めなかった幼い頃の日常。

 何気ない母の言葉が刺さって痛い。夢の中なのに鼻の奥がじんとして視界が歪む。


 母の手は綺麗な形で、温かくて優しい。けれど、少しかさついていた。


「ランシャル、強くなりなさい。王様と一緒に国を守って、みんなを守れる人になるのよ」


 言葉の意味を深く知ることもなく、無邪気に笑って頷いたあの頃。


(誰かを守るなんて・・・・・・僕にできるのかな・・・・・・)


 母の温もりに包まれて穏やかだった心の水面に、不安が波を立てる。


「大丈夫。ランシャルならできるわ」


(・・・・・・お母さん)


 幼いランシャルが母を抱きしめる。でも、その手は母の背まで届かない。

 いまの自分は幼く守られてばかりだったあの頃と何が違うだろう。守るどころか失ってしまった母に、心はいまも泣きついているのに。


 遠くから見つめるランシャルの心がゆれる。


「お母さんは側にいられないから、転ばないように気を付けてね。怪我をしないように」


 優しい手が遠ざかり、母の姿が儚く遠退いていく。


(お母さん)


 優しい光に包まれて温かだった世界に夜が来る。


(お母さん・・・・・・)


 目覚めたランシャルの瞳に暗い天井が映り、目の端でゆれる明かりが見えていた。


「お目覚めになられましたか」


 かけられた声にびくりと手を握る。握った手からやわらかな感触が伝わった。


「ここは?」

「館の中の部屋です」


 シリウスはそう言った。

 見回すとそこここに闇を抱えた広い部屋と大きなベッドがあった。ランシャルの横にはコンラッドが大の字で寝ている。


「一緒がいいと言って聞かなかったので」


 ランシャルの視線がシリウスへ戻り、また部屋をさまよう。

 広い部屋はここだけでランシャルの家ほどの大きさがありそうだった。


(広くて・・・・・・怖いな)


 ろうそくの灯りが届かぬ先を窓からの月明かりが照らしてる。

 適度な距離をおいて配置された家具は、ごちゃごちゃしたランシャルの家と比べて冷たい印象を受けた。横で寝ているコンラッドの寝息に彼の体温に安堵する。


「僕も、一緒でいい」


 ベッドサイドの椅子にかけたまま「そうですか」とシリウスがうなづく。


「僕、寝ちゃったの?」


 シシリーが手をかざした後の事が思い出せない。ランシャルの記憶に残っているのは、つい先ほどまで見ていた温かい母の夢ばかりだ。


「ええ、膝から力が抜けたように崩れて慌てました」


 彼の落ち着いた語りからは慌てた様子はうかがえない。けれど、そうなんだろうとランシャルは思った。


「あれから4時間ほど経ちました。お腹は空いていますか? ここにサンドウィッタがありますが、スープを温めてもらいましょうか?」


 ここにと言ったシリウスの視線の先はろうそくの置かれたサイドテーブル。そこに紙にくるまれた物が置かれていた。


 まだ体がほっくり温かくて頭が回らず、ランシャルはぼうっと見つめていた。


「寝起きですぐ食事というのもなんですね」


 互いに次の会話の糸口が見つけられずに沈黙が流れる。何かを思い出したシリウスがサイドテーブルへ手を伸ばした。


「これをランシャル様へ」


 なんだろうと体を起こしたランシャルはそっと手を出した。


「・・・・・・これは」


 革のベルトに通された革の短剣ケースだった。持ってみると重みがあり、中に剣が収められているとわかる。

 被されたふたを開けるとランシャルの知っている柄が顔を覗かせた。


「これ、お母さんの短剣」


 ランシャルが驚き顔をシリウスへ向けると彼はそっと笑った。


「ロンダルに買ってきてもらいました」


 使い古された革は手に馴染んでしなやかで、触れる指からいくつかの傷を感じた。日差しのもとで見れば、きっと飴色をしていることだろう。


「私なら新品を買っていたでしょう。彼に任せてよかった」


 短剣の鞘ごとすっぽりと入る丁度よいサイズのケース。それはあつらえた様にさえ見える。


「豪華ではなくても宝石の付いた剣です。私が持っていても盗人に目をつけられるでしょう」


 シリウスの声を聞きながらランシャルはケースから剣を取り出して眺めていた。ろうそくの灯りを受けて煌めく剣は母のものに間違いない。


「剣の価値とは関係なく、大切にしている人はたいていケースに入れて持っています。布でくるむより自然かと」


 ぼんやりと聞きながらランシャルは考えていた。


(この剣を僕から取り上げたんじゃなくて、僕を危険から遠ざけるために持ってたってこと?)


 橋で落ちそうになったランシャルを腕の負傷をおして救ったシリウス。その姿を思い出しながら剣を眺めていた。


(僕を守るために怪我をして、痛い思いをしながら僕を引き上げてくれたのに・・・・・・。僕は、勘違いしてたんだ)


 そこまで考えたとき、胸のつかえがほろりと溶けるのを感じた。


「・・・・・・腕の怪我は、大丈夫ですか?」

「え? はい。シシリー様に治していただきました。────でも、ランシャル様が摘んでくださった薬草でだいぶよくなっていたんですよ」


 コンラッドのために薬草を摘んだ。その時、救ってくれたシリウスのためにも採っておいた。それを素直に渡せなかった自分が思い出される。


「・・・・・・これっ」


 ぶっきらぼうに差し出したときのシリウスの顔が思い浮かぶ。


「ラッドのために摘んだんだけど、少し多く採れたから・・・・・・どうぞ」


 そう言って薬草を手渡した。あの時はシリウスの真意を知らず、許せない気持ちばかりが先にたっていた。


(僕は、守られてた)


 知っていたはずのことが心の中にすとんと落ちて広がっていく。


(怪我をしても僕のために・・・・・・)


 ランシャルの体を受け止めたシリウス。

 その腕を流れ落ちてきた彼の血。


(ずっと守ってもらってばかり)



『ランシャル、強くなりなさい』



 母の声が繰り返す。



『みんなを守れる人になって』



(お母さん)


 顔を上げたランシャルの瞳がシリウスに向けられた。まっすぐに。


「シリウスさん、僕に剣の使い方を教えてください」

「え!?」


 呆気にとられるシリウスへランシャルは言った。


「僕が僕を守れるだけでもシリウスさんたちの負担が減るでしょ?」

「ランシャル様」

「お願いします」


 誰かを守ることはまだできなくても、守られてばかりではいられない。ランシャルの表情にしっかりとした強さが浮かんでいた。


「わかりました。でも、ひとつお願いがあります」

「なに?」

「使い方を覚えても先頭に立たないこと。防御に徹してください」


 頷いたランシャルをシリウスは複雑な表情で見ていた。





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