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【 王殺し 】王印欲しさに妖魔が人が命を狙う! 少ない護衛に守られて少年は玉座を目指す  作者: 天猫  咲良
王印

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19話 銀狼〈シルバーウルブ〉

「うわっ!」

「いてぇ!」


 どさりと地面に落ちたランシャルとコンラッドは声を上げた。

 慌てて自分の体のあちこちに触れて互いの無事を確認してほっと息をつく。 


「助かったぁ~・・・・・・」

 

 そして、はたと気づいた。


「ここどこ? 皆は?」


 辺りを見回しても誰の姿も見つけることができなかった。


 しんと静まった森の中にふたりだけがぽつりと立っていた。

 耳が痛く感じるほど音はなく風もない。静止画を見ているような森はどこか不気味だった。


「ルークスさ────ん!」


 コンラッドが大声で名を叫ぶ。


「シリウスさん!」


 ランシャルも叫んでみた。けれど、返答はない。

 声は森に吸い込まれたように手応えもなく消えていくばかりだった。声に驚いて飛ぶ鳥も走り去る動物の姿もない。


「なんだか・・・・・・怖いな」


 ぼそりと言ったランシャルの横からコンラッドが歩きだした。


「どこに行くの?」

「わかんない。けど、じっとしててもしかたないだろ」


 この場所がどこなのか、騎士達がどこにいるのかわからない。でも、太陽は確実に傾き始めている。


「じゃあ、こっちに行こうよ」


 ランシャルは太陽の方を指して歩き出す。


「何か当てがある?」

「そっちは南でしょ。行くなら太陽に向かって西へ歩く方がいいと思う。皆と早く出会えるんじゃないかな」


 コンラッドは軽く頷いてついてきた。


「遠ざかるよりは平行の方が、たしかに」


 シリウスは稀石を持っている。どれくらい離れているかわからないが、きっと見つけてくれるに違いない。


「どこか隠れられる場所があるといいな」

「うん」


 日が暮れるまでに見つけたい。ふたりは黙って歩き続けた。


 あちこちに横たわる倒木は苔むして次の世代が芽吹いている。自然な時の流れを感じる。ここは人が足を踏み入れない場所、そんな気がした。


「あのさ」


 足下に目を落としながらコンラッドが声をかけた。


「このまま出会わなくても西に行く?」


 ランシャルは黙っていた。

 西に向かって歩いたその先のことを考えていなかったから。


「都に着いたらランは王様だな」


 そう言ってコンラッドは笑った。その笑顔がふいに真顔へ変わる。


「王様に・・・・・・なるつもり?」


 嫌だと言って避けられるものならそうした。でも、都に向かわず逃げたところで見知らぬ追手に命を狙われ続けるだろう。

 血に染まる母の姿を思い出してランシャルは唇を噛んだ。


「王様にはなりたくないし、国を治めるってどういうことかわからない」


 独り言のような小さな声で言いながら、ランシャルはただ歩いていた。



『ランシャル、きっといつかお迎えが来るわ』


 母の声がする。


『お城で王様の手助けをして国を治める力になってちょうだいね』


 幼かったランシャルは言葉の意味など知らずにうなづいた。母の笑顔と信頼にこたえたい。ただそれだけだった。


 ランシャルの暗い表情を見てコンラッドがおどけた声で言った。


「都にはどんな食べ物があるんだろうな。すんごく美味しいの沢山ありそうだな」


 その声に引き上げられて、ランシャルは微笑んで頷いて見せた。


「王様ってどんなもの食べてるんだろう」

「外国から届いたものとか・・・・・・? 豪華そうだよね」


 コンラッドがよだれを拭う仕草をしてランシャルは笑った。


「王様、俺も食事に呼んでくれよ」

「王宮に誰でも呼んでいいのかなぁ?」

「王様が呼んだら入れるんじゃないのか?」

「そう?」


 苦笑いするランシャルへコンラッドが畳み込む。


「美味しい料理食べさせて、お願い」

「ええ? いま言われても」

「頼むよぉ、友達じゃないかぁ」

「わかった、わかったよ」


 コンラッドの駄々をこねる子供みたいな口調に思わず声を出して笑った。珍しく兄弟が逆転したみたいで心がくすぐったい。


「でもさ、そういうの嫌いじゃなかった?」

「ん?」

「親戚や友達にたかるやつ」


 コンラッドは自分の胸をつかんで苦しそうな顔をした。


「1回、1回だけでいい」

「1回ね」

「うんうん」


 他愛もない会話だ。

 友達同士、じゃれるように頼みごとをして、1度だけと約束して。そうやって1回が2回、2回が3回と増えて当たり前になっていくんだろう。


 日常の色々なラインが少しずつずれて当然が常識がずれていく。甘えを許す範囲も変わっていく。

 役人や金持ちが知り合いばかりを贔屓して他の者を足蹴にしてはばからないこの世界。

 世の中の歪みはいまに始まったことではない。

 いつから大きく歪んでしまったのか。


 ドラゴンは汚れを嫌うと聞いたことがある。


ドラゴンがこの国を見放すことって、あるのかな)


 そんなことを考えながら歩いていた。

 川を渡すように倒れた木の上を歩いて川を渡る。


「ランどうした?」


 倒木の上で立ち止まったランシャルを不思議に思ってコンラッドが声をかける。苔むした木に何かの足跡がかすかに残っていた。


(人・・・・・・? じゃなさそう)


 草食動物の足跡とは違う。引っ掻いたような爪の跡がわずかに見てとれた。


「何かの足跡がある」


 そう言ったランシャルは倒木から飛び降りてコンラッドの後に続いた。歩きながら下草を分けて他の痕跡を地面に探す。


「あった」

「なに?」


 コンラッドが横から覗き込む。

 そこにあったのは動物の足跡。それは人の手ほどの大きさで肉球の先に爪の跡がくっきりと残っていた。


 肉食動物。

 かなりの大きさだと想像できる。


「これって、もしかして」


 しゃがんで見ていたランシャルがコンラッドを見上げた。口を引き結んだコンラッドが頷く。


「ウルブだと思う」


 その時、声がした。

 小さいけれど力強くはっきりと耳に届いた。



 ウヲォ────ン



 遠吠えがひとつ。

 別の方角からもうひとつ。



 ウヲォ────ン



「急ごう」


 ふたりは走り出した。

 声から早く遠ざからなくては。


 あの声はウルブのものだ。


 ウルブ、それは森の殺し屋。

 仲間で戦略的に獲物を狩る森の捕食者。





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