ざまぁのお時間です
「エリザベート! これはどういう事だ!?」
「何か問題がありまして?」
「お前は俺を王にすると誓ったではないか! 俺を放逐するなど話が違う!」
「まあっ。私は『公爵家に王冠をもたらす』と言っただけで、『カプリコーン・シャトランジを王にする』など一言も申しておりません。契約不履行どころか、万事私の計画通りでしてよ」
「エリザベートォォッ!」
「まあ怖い顔。長年のお勤めご苦労様でした。退職金として、親子水いらずの余生をご用意いたしましたわ」
シャトランジ公爵家の正当な後継者はエリザベートの母、エリザベス。
彼女が早世した為に、カプリコーンが中継ぎの当主になったに過ぎない。
クーデター中は身の危険があるため、エリザベートは父を矢面に立たせた。
総領娘と言えど、何の権力もない小娘の身では自らが一族を率いろうとしても反発を生むだけ。力不足を認めた彼女は、カプリコーンを旗頭にすることで全体の動きを統率した。
入婿のカプリコーンに従うことに反発する者に対しては、裏から手を回して駒にした。直接の接触は避け、エリザベートの思い通りに動かざるを得ない状況に持っていった。
彼らは操られている事に気付かぬまま、彼女が望む通りに仕事をした。
カプリコーンが一族を率いる器でないことは、時間の経過とともに身内に知れ渡った。
それもエリザベートの狙いだった。
明らかに力量が足りていないのに、恐ろしいほど順調に物事が動く。
エリザベートという傀儡師の存在に気付き、彼女に接触してきた者達はその行動で自らの有能さを証明した。
彼等と答え合わせをしたエリザベートは、そのまま彼等を自分の駒にして、政権交代の裏で一族の秩序の再構成を行った。
「リリスさんと、イブさんはもう新しい家でお待ちですよ。公爵代理を長年シャトランジに縛り付けてしまい申し訳ございません。解放して差し上げますから、心置きなく愛した方々と生きてくださいな」
エリザベートは言いたいことだけ告げると、護衛に命じて父だった男を城から追い出した。
男は退出する最後の瞬間まで恨み言を叫んでいたが、彼女の心には全く響かなかった。
*
エリザベス・シャトランジの子はエリザベートのみ。
王家を支える為というのは対外的な詭弁だ。
カプリコーンは浅はかな野心を抱き、唯一の嫡子であるエリザベートを王太子の婚約者にした。
エリザベートが公爵家の当主になれば、入婿であるカプリコーンは完全に権力を失う。
しかしエリザベートが他所に嫁ぎ、公爵家を養子に迎えた分家の男が継げばどうだ。新当主に対しカプリコーンは強い影響力を持ち、公爵家での権力をある程度維持できる。
エリザベートには親としての愛情を注がなかった男だが、愛人のリリスとその娘のイブは猫可愛がりしていた。
イブはエリザベートより一歳年下。本妻であるエリザベスが存命の時に作った子供だ。
エリザベス亡き後、カプリコーンが愛人親子を公爵家に迎えなかったのは外聞を気にしたからではない。
公爵家を継ぐべく、本家の養子となったタウラスとイブを婚姻させようと企んだからだ。
リリスとイブは、親子揃って強かな女達だ。
既に何度かタウラスに接触している事は、当のタウラス本人によりエリザベートへ報告されていた。
(許せないわ)
イブもエリザベートも父は同じだ。
なのに片方は目に入れても痛くないほど可愛がられ、片方は邪魔者扱いされた挙句に、辛い立場に追いやられても一切フォローされない。
(ゴミはゴミ箱へ)
エリザベートは、ただ愛人親子と父親を一緒に隠居させただけではない。
新しい家があるのは有名な観光地だ。
しかしその住所は人里離れた場所で、娯楽とは無縁。
(本妻の娘が、愛人親子に親切にするなんてあり得ない)
目先の事しか考えないリリス達は罠に気付かなかったが、もしかしたら今までエリザベートが何もしてこなかった事で彼女を侮っていたのかもしれない。
新居を用意する際にサインさせた契約書で、家の購入費及び今後の生活費は全てカプリコーンの私財から捻出すると明記した。
公爵代理として貯め込んだ彼の私財は、新生活に向けて買い物を繰り返す母娘によって痛快なレベルで目減りしている。
クーデターが成功してある程度情勢が落ち着いた為、エリザベートは親族会議をひらき今回の婚約解消の責任追求を行った。
満場一致で、職務怠慢によりカプリコーンは公爵家から除籍された。
間髪入れずにエリザベートは自分が女王として即位する段取りを整え、タウラスをシャトランジ公爵家当主に据えた。
娘からも、シャトランジ一族からも切り捨てられたカプリコーンの財産が今後増える事はない。
(ゴミ箱に捨てて何事もなければそれで良し。腐臭で害をもたらすなら焼却処分)
妙な気を起こされては堪らないので、彼等を監視する人間も手配した。収拾不可能な事態になれば、事故に見せかけて処分するのもやむなしと通達している。
*
(王家の連中は揃って亡命したけど、それも計算通り)
彼等の罪は無能であった事だ。
恐ろしい犯罪行為をしたとか、戦争の責任を問うたものではない。
国内に置けば火種になるし、処刑すれば汚点となりかねない。
(王家の血が利用されない。ヴィクトリア国に戻ってこられないようにする必要があった)
国王、王妃、アリエス、キャサリンと数名の側近は揃ってグンキ帝国へ逃げた。
追手の目を欺くため、王弟のヴァルゴだけは陽動として別国へ。
(ヴィクトリアよりも国力の強い帝国を頼る気だったんでしょうけど、本当にバカ……いえ、真性の恥知らずね)
グンキ帝国の皇帝はシスコンだ。
彼の大事な大事な姉に対し、若かりし日の国王夫妻は無礼を働き国際問題になりかけた事がある。
更にそんな姉の娘――皇帝にとって姪にあたる令嬢は母親似で、皇帝に可愛がられている。
そんな彼女は、キャサリンの被害者だ。
彼女と婚約予定だった男性は、ヴィクトリア国での短期留学中にキャサリンに迫られて肉体関係を持ってしまった。
まだ婚約前だったため、大きな問題にはならなかったが確実に遺恨が残ったはず。
ちゃんと調査していればグンキで碌な扱いをされないことは一目瞭然だが、それができないから国を追われた連中である。
(グンキで処分してもらう事を思いついた際、あちらの皇帝には情報を流したし上手くやってくれるでしょう)
長年腹立たしく思っていた相手が、身分を失って無警戒に飛び込んでくるのである。
グンキはヴィクトリア以上の独裁国家だ。
(あそこの皇帝は、受けた屈辱を水に流すような甘い男じゃないのよ)
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