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クソヒロインの息子を育てる事になった女王の受難  作者:
お前はもう詰んでいる<後日談>
24/24

「できる?」じゃねぇよ、ヤルんだよ!

 その日の晩御飯はイブにとって天国だった。

 用意されたのは一般市民レベルのメニューなのだが、数年ぶりに食べる動物性タンパク質の塊に彼女は感涙した。


 何年も絶っていた油分を一度に摂取したことでお腹が痛くなったが、それは彼女にとって幸せな痛みだった。お腹いっぱい焼肉を食べても平気な体になるのが、今の彼女の目標だ。

 慎まし過ぎる。


 痛みのピークを通り過ぎ、徐々に落ち着いてきたお腹を抱えながらベッドに横になっていると、視線の先の壁が揺らめいた。

 昼間と同じように、ユニコーンに乗った少年が現れた。


「えっと。アクエリアス……様」


 敬称をつけるか迷ったが、自分を底辺に位置付けしておいた方が無難だと判断した。


「へえ。てっきり記憶を取り戻して自分を主人公だと思い上がっているのかと思ったけど、そこまでお花畑でもないんだな」

「え?」


 パステルカラーで甘い顔立ちをした少年から激辛な言葉が飛び出した。


「ぼくは前世からエリたん推しなんだ。余計なことをするなら消えてもらう」

「ちょちょちょちょ」

「頭のおかしな女が、衝動的に窓から身を投げたことにすれば良い」


(ヒエッ!)


 白馬の王子様どころか、一角獣に乗った魔王様だ。


「そ、そんなことしませんよぉ〜。私はただ人間として健康で文化的な最低限度の生活を営みたいだけですぅ」

「そう? どこまでやり込んでいるのか知らないけど、口を滑らせるなよ。バッドは論外だが、トゥルーになったら困るのはお前達だぞ」


 睨め付けたまま脅しかけられたが、知識のないイブにはピンと来なかった。


(知らんがな)


 トゥルーエンドだと何が起こるのか。恋愛に重きをおく乙女ゲーの基準からするとハッピーじゃないのかもしれないが、トゥルーの名が付くならそう悪いことにはならない筈だ。


「あ、貴方も前世の記憶があるんですよね。いつからですか?」


 尋問は明日の午前から始まる。少しでも情報を仕入れないと、彼曰く「口を滑らせて」しまい始末されかねない。

 取り調べの際に、今のやり取りを正直に告白することもできるが、エリザベートに切り捨てられた異母妹のイブの話を信用してくれるとは思えない。

 もし保護してくれたとしても、アクエリアスが壁をすり抜けることができるユニコーンを従えている限り、どこに隠れても無駄だ。


「儀式で蘇ったんだよ。但し記憶を取り戻す前も、ぼくはエリたん一筋だった。魂が覚えていたんだな。誇らしいよ」


(ヒィィイ)


 怖いというか気持ち悪い。

 幼少期から前世の記憶がある転生物はいくつも観てきたが、どれも主人公目線だった。

 記憶持ちの立場から物語の世界を見ていたので特に抵抗はなかったが、第三者目線になるとキャラをたん付けするような男が子供の皮を被ってるとか気色悪い。


(これバッドエンドにしたらどうなるんだろう?)


 儀式で記憶を取り戻したのなら、儀式そのものをキャンセルして精神状態もリセットするバッドエンドに入れば魔王を封印することができるんじゃなかろうか。


「命が惜しければ、ぼくに協力するんだ」

「でもお姉――陛下にはなんて」

「エリたんの目的は君の情報源の特定だ。天啓が降りたとでも言って、儀式解除を餌に行動を共にしろ」

「そんな無茶苦茶な! 私に何をさせたいんですか!?」

「一から十まで指示しないとダメなのか。頭の悪い女だな」

「すみませぇん」


 本気で何も知らないのだ。どんなに詰られようと構わないから、一から十まで指示して欲しい。


「ぼくのハッピーエンドはエリたんと結婚することだ。幼児じゃなくなったから、以前ほど彼女の側に居られない。君の役目は害虫駆除と、トゥルーやバッドエンドに入らないように妨害する事だ」


 今日だってエリザベートがウィルフレッドと二人で両親に会いに行ったと聞いて、アクエリアスは慌てて追いかけたのだ。

 ヴァルゴとルークに気を取られていて、ウィルフレッドは完全にダークホースだった。


「害虫駆除はともかく、ルートに関しては私一人では無理ですよぉ」


 イブは半泣きだ。後半はともかく、前半は察しようがない。こんなので頭が悪い扱いするとか、パワハラも良いところだ。

 しかも簡単に言うが、儀式解除したい女王と、解除させたくない魔王の間でスパイになることを要求されている。


(魔王からゲームの情報聞き出して、悟られないようバッドエンドに持っていかないと私に明日はない!)


 同郷の男には悪いが、魔王を封印した方がイブだけじゃなくエリザベートにとっても幸せな結末になるに違いない。


(本人だって折角転生したんだし、真っ新な気持ちで新しい人生を歩んだ方が健全でしょ)


 アクエリアスは記憶を失うが、思い出さなければどうという事はない。イブは自分を棚上げした。


「ぼくの指示は絶対だ。ミスするなよ」


 舌打ちされて、彼女の決心は更に固くなった。


「せ、誠心誠意頑張りまぁす……」


 果たしてイブは、限界オタクな魔王に勝てるのか?

 彼女の戦いはこれからだ!!!



ーお前はもう詰んでいる・完ー

>>クソヒロインの息子に求婚された女王の喜劇に続かない!


 延長戦にまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


 ブクマ・感想・評価・誤字脱字報告ありがとうございます。改めてお礼申し上げます。

 評価がまだの方は、下の☆→★に変えていただけると嬉しいです。


 本日より新連載を始めましたので、そちらも覗いていただけると幸いです。

 こちらはナチュラルクレイジーな少女によるラブコメです。ちゃんと特定の人物とゴールインします。

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[一言] 親子で碌でもないなぁ……
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