表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

退かぬ!!媚びぬ 省みぬ!!

「まさかクインが、アクエリアス様を連れ去るなんてね」

「あの人に限って……いえ、でも最近様子がおかしかったですし」


 クインの代わりに女王付きとなった侍女達が囁く。本人達はこっそり話しているつもりなのだろうが、廊下というのは案外声が良く通る。


「止めなさい。クインも被害者の可能性がある以上、根拠のない噂話は彼女の名誉を損なうわ」

「でも陛下。状況からしてクインが犯人としか」


 いつのまにか習慣化していた事だが、エリザベートとアクエリアスは、どんなに忙しくても朝食は必ず一緒に食べる。


 朝、アクエリアスを迎えに行ったクインは、そのまま彼と共に姿を消した。

 部屋から食堂へのルートに争った形跡はなく、城に何者かが侵入したという報告もない。


「何度も同じことを言わせないで頂戴」

「も、申し訳ございません」


 女王の覇気に当てられて、侍女達は震えながら謝罪した。


(口ではああ言ったけど、本当は私がクインを信じたいだけ)


 前々から嫌な予感はあった。しかしどう話したら良いかわからず、結果としてエリザベートは何もしなかった。


(信じることは怖いわ)


 疑って、攻撃して。誰も頼らず、自分の力で解決する方が遥かに気が楽だ。


 ため息をつくエリザベートに、ルークが近付いた。


「影の者が、直接陛下に報告したい事があると申しております。いかがしますか?」

「許可します」

「内密の要件故、我々の同席を拒んでいるのですが」

「しかたないわね。全員廊下で待機して頂戴」


 エリザベートだけを残し、執務室の扉が閉じられる。

 ふっ、と瞬きの間に降り立った影。

 体重を感じさせない身のこなし。

 音もなく現れた痩躯の持ち主に、エリザベートは瞠目した。


「あなた――」



 ピチョン…


 ピチョン…


 遠くで雨漏りのような音がする。


 覚醒したエリザベートは首だけを動かし、周囲を観察した。

 石で作られた祭壇に寝かされ、手足を鎖で固定されている。


 祭壇はもう一つあり、そこにはアクエリアスとクインが二人まとめて縛られていた。

 二人とも意識を失っている。

 エリザベートは物理で気絶させられたが、彼らは薬物を使われたのかもしれない。


(ほら、あの子も被害者だったのよ)


 窮地にも関わらず、裏切られたわけではないと分かりエリザベートは安堵した。


「一体何が目的なのかしら?」


 寝たフリをする選択肢もあったが、エリザベートは打って出る事にした。

 今の状況では、時間稼ぎをしてもあまり効果はないだろう。


(なにせ王家の影が裏切ったんですもの。諜報と機動力に劣る一般の兵士達じゃ、数時間稼いだところで辿り着けないでしょうね)


「この期に及んで口の減らない女だな。状況を理解していないのか? それとも、本当にイカれてるのか?」

「雇い主に対してなんて口の利き方かしら。……私、貴方の遺体を確認したんだけど。どんな魔法を使ったのかしらね」

「あれは俺の双子の弟だ」

「まあ、弟を自分の身代わりに殺したの? それで今度は黒魔術ごっこ? 貴方の方こそイっちゃってるんじゃなくて?」

「うるさいっ」

「落ち着けジェミニ。気持ちは分かるが『彼女』の体を傷付けるなよ」

「わかってる……」

「あら。えーっと。元天才なんとかの、ラなんとかさんじゃないの。ごきげんよう」

「このっ、ワザとだと分かっていても腹立たしいな」

「もしかして、失踪したあの女の取り巻き連中が勢揃いしているの? もしかしてキャサリンを偲ぶ会に招待されたのかしら?」


 ジェミニ、ライブラ、スコーピオの姿があるが、レオは見当たらない。


「キャサリンは蘇るんだよ」

「あらあら、本格的にどうかしちゃったみたいね」

「必要なのはキャサリンの血筋と、彼女の依代になる体。子供以外は替えが利くが、どうせなら彼女を苦境に追い込んだお前を使う事にしたんだ」

「さげまん復活させたところで、貴方達は更に不幸になるだけよ」

「彼女を侮辱するな!」

「あらまだ洗脳が解けてないの? 一周回って同情するわ、可哀想。来世ではまともな恋愛ができると良いわね」

「黙れ!」


 スコーピオが怒鳴ったせいで、気絶していた二人の目が覚めたらしい。

 アクエリアスがぐずり始めた。


「これからお前「うわあぁ! あぁぁん!」」


 すぐに声量マックスで泣きだした。


 三人は幼児を黙らせようとしたが、見知らぬ男達に囲まれてアクエリアスの恐怖はピークに達した。


「おい、大人し「へぇがっ! べぇがぁぁぁぁ!」」


 泣き喚く幼児の口を塞ごうとするが、クインと抱き合うような体勢で縛ってしまったために難しい。


「うわあああああああん!!」

「ああくそ五月蝿い! もういい! さっさと済ませるぞっ」


 死者復活なんて眉唾物だが、男達は本気で成功すると信じているようだ。

 生贄を捧げる儀式のように、短剣で殺すのかと思ったが違うらしい。ライブラは謎の液体を三人に振り掛けると古代語の呪文を唱えた。


 エリザベートの視界が真っ白に染まる。

 意識を失う寸前、誰かに名前を呼ばれた気がした。

面白い! 続きが気になる! などお気に召しましたら、ブックマーク又は☆をタップお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ