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飼い主の義務

 アクエリアスとユニコーンによって、女王エリザベートの好感度は上がった。

 城の雰囲気も明るくなり、万事順調かにみえたが……


「結婚できないんですけどぉ」


 女王は未だ独り身である。


 アクエリアスを側に置くということは、彼の護衛であるヴァルゴも側に置くということになる。

 王配候補達は、元王弟を理由に女王の伴侶となることを軒並み辞退してしまった。


「アンタのせいだわ」

「言いがかりだ。俺はていの良い理由に使われただけだ」

「そうですよ陛下。現実から目を背けてはいけません。辞退してすぐに彼等は別の女性と結婚した。これが答えです」


 容赦のないルークの追い討ちに、エリザベートは机に突っ伏した。


「なんでよぉぉ。みんな、私の事褒めてたじゃじゃないっ!」

「もう何年も王をやっているのに、本音と建前の区別もつかないのか君は」

「人としての好感度と異性としての魅力は、イコールではありません」

「二対一なんて卑怯だわ。ねえ、ポーラ。私の味方をしなさい」

「ええーっと、いっそヴァルゴ様と正式にご結婚されてはどうでしょうか?」

「なっ、何を言ってるんだ!?」

「……正式って、まるで今が内縁みたいな言い方やめて頂戴」


 ポーラの発言に赤面して慌てるヴァルゴ。

 エリザベートは白けた表情で、相変わらず突っ伏したままだ。

 温度差が酷い。


「最後の手段としてはアリですね」

「ないわよ。跡継ぎどうするの?」


 側近の意見を、女王は一刀両断した。


「お二人の子を立太子させれば良いのでは?」

「だから、この男には無理でしょ」

「……それは今の俺が平民だからか?」

「身分なんてどうにでもなるでしょ。そうじゃなくて。それよりも、もっと根本的な問題よ」

「陛下の意図が分かりかねます」

「だーかーらー! 断種してるのに、どうやって子供作るつもりなのってこと!」

「は!!?」

「え!? ヴァルゴ様、そうなんですか?」

「事実無根だ! エリザベートは、なんでそんな勘違いをしたんだ!?」

「だって元王太子は一人っ子だったじゃない。王子が一人しかいなかったから、仕方なしに甘ったれたボンボンを貴族達は支持したけど、他に選択肢があったら話は別だわ」

「そ、そうだったのか……」

「そうだったのよ。視野が狭くて独善的で、ストレス耐性がなく、判断力は並以下。学校のお勉強だけ優秀で、為政者としては落第点よ」


 甥に対する忌憚のない意見に、ヴァルゴは衝撃を受けた。


「確かに子供っぽいところはあったが、愛嬌があり皆に可愛がられていると思っていた……」

「まんま貴方のコピーね」

「うっ」

「もし貴方に優秀な子供ができたら、アリエスの立場を脅かしかねない。あの王妃がその可能性を見過ごすはずがないと思ったんだけど、私の買い被りだったようね」


 ヴァルゴは髭も薄い。

 直接確認したわけではないが、エリザベートはてっきり男性機能を失っているものだと思い込んでいた。


「流石無能の旧王家ですね」

「その旧王家の一員の前で、良く言えるな」


 それなりに付き合いを重ねたので、ヴァルゴはすっかりルークの慇懃無礼に慣れてしまった。


「でもでもっ。それなら問題解決ですよね!」

「いいえ、問題勃発よ。今のヴァルゴなら、声を掛ける女の一人や二人……現れない、とも限らない、かも」

「陛下。後半の表現に悔しさが滲んでますよ。王宮に来た当初はともかく、今のヴァルゴ様は女性に人気ありますからね」

「そうなのか?」


 本人に自覚はないらしい。


「アクエリアス様の世話をしている姿を見て、婿候補として需要が高まっています」

「俺は護衛なんだが」

「どう見ても主夫です。今のヴィクトリア国は陛下の影響で、かつてないほど女性の社会進出が盛んです。外で働きたい女性にとって、ヴァルゴ様が身分も金も持っていない事は問題になりません」

「少しは蓄えがあるぞ」

「現在、王宮でバリバリ働いている女性陣は本物の女傑です。金も身分も自分で持ってます。はした金なんて無いも同然ですよ」

「そのはした金は、君達が俺に支払ったものなんだが……」


 不満そうな男を無視して、女王と側近は話を進めた。


「要はヴァルゴに家庭に入ってもらい、家や子供のことを任せたいわけね。おちびを世話している姿は最高のデモンストレーションなんだわ」

「その通りです」

「複雑だ」


 ヴァルゴの顔が曇る。

 評価されているのだが、素直に喜べない。


「じゃあ、パイプカットしとく?」


 軽いノリで女王は恐ろしい提案をした。

 

「なんでそうなるんだ!?」

「旧王家の種をばら撒かれたら困るのよ。飼いぬ――国のトップとしての義務よ」

「た、種とか言うな! 慎みを持て!」

「はいはい。じゃあ、医師を手配するから同意書にサインして頂戴」

「勝手に話を決めるな! 絶対、サインしないからなっ!」


 身の危険を感じたのか、元王弟は慌てて部屋を飛び出した。





「王国に輝く太陽たる女王陛下におかれましては、本日も眩いばかりの――」

「堅苦しい挨拶は不要よ。久しぶりねタウラス」

「義姉上。お会いしとうございました」


 家にいた頃と変わらない義姉の態度に、若きシャトランジ公爵が破顔した。


「大袈裟ね。それで今日はどんな用件なの?」

「単に義姉上のお顔を拝見したかったのもありますが、一つご報告が」


 瞬時に筆頭公爵家当主の仮面を纏い、タウラスは本題に入った。


「レオが消えました」

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