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劇的ビフォーアフター

「あの女と一緒ね」

「陛下。そのネタもう止めませんか?」


 エリザベートの主張を、ポーラはあっさり流した。


「ネタじゃないわ!」

「はいはい。それで今回はどんな行動がお気に触ったんですか?」

「これよ!」


 ビシリと指差したのはベッドの下、正確にはベッド下からはみ出している大量の紙。


「アクエリアス様が描いた、陛下の絵ですね」


 渾身の一枚が描けるまでエリザベートに見せるつもりはないようだ。本人は隠したつもりなのだろうが、思いっきり見えている。


「あざといわ! あの女も『私こんなに努力してるんですぅ〜』って、男どもにチラ見せしてたのよ」

「いやもう本当、凄いですね」

「でしょ?」

「凄いのは陛下ですよ。よくそんな事思いつきますね」

「不敬だわ!」

「はいはい。申し訳ございません。アクエリアス様が起きちゃうのでボリューム下げてくださいね」

「貴女どんどん図太くなってない?」

「陛下の側近であるルーク様を見習った結果です。はい、お求めのものです」

 

 今日は昼寝から起きたアクエリアスが大泣きした。

 ヴァルゴも侍女達も宥めることができず、藁にもすがる思いでエリザベートが召喚された。

 彼女は女王だというのに、最近アクエリアス関連で何かあるとすぐに頼られるようになってしまった。


「昼寝から起きて泣いて、泣き疲れて眠るとかどんだけ寝るのよ」

「子供なんてそんなものですよ。起きた時用に、軽食と飲み物をベッドサイドに置いておきますね」

「私に食べさせろってこと?」

「陛下以外に居ないでしょう。今日は一緒におやすみになられるんですから」


 影からの報告書を置いて、ポーラは子供部屋から退室した。


「私は、この子の母親でもシッターでもないんだからね」


 エリザベートはすやすやと眠る子供を見下ろした。その手は彼女のスカートを握りしめていた。



「ライブラは私の女王就任の際に、忖度した魔術塔の上層部によって閑職へ移動。本人が不服申立てをするが棄却され、そのまま自主退職。海外を放浪して、ヴァルゴに接触した後の足取は不明」


 キャサリンの取り巻きについて、エリザベートは良い思い出がない。

 今もライブラが魔術塔で活躍していたらやはり気分は良くないだろう。


「スコーピオは女王の心証が悪いため、海外進出を口実に国外へ出された。数ヶ月は任された支店で働いていたが、ある日姿を消す。店の資金を持ち出しており、自発的な失踪と判断――この後、ピスケスでアクエリアスを預かり、渡航したのね」


 どちらも未だ行方知れず。


 学生時代のキャサリンの取り巻きは、アリエス、ヴァルゴ、レオ、スコーピオ、ライブラ、ジェミニ。

 公爵家の従者のレオ、王家の影のジェミニは表立って彼女に侍ってはいなかったので、後に発覚した。

 アクエリアスが申告通りの年齢なら、婚約破棄の時キャサリンは妊娠初期だ。

 父親候補の筆頭はアリエスだが、他も可能性としてはゼロではない。

 産月を詐称したなら、サジタリウスの可能性もギリギリある。


「アリエス、ヴァルゴは身分を失い亡命。レオは紹介状なしで解雇。スコーピオは左遷。ライブラは窓際族になり退職。ジェミニは自害」


 ジェミニはアリエス付きの王家の影だ。キャサリンとアリエスの逢瀬は、彼の協力なしには成立しなかった。

 後から判明した事だが、キャサリンに最初に陥落したのはジェミニだった。

 彼はクーデター後に自害している。

 既に女王に就任していたエリザベートは彼の遺体を確認したが、キャサリン好みの整った顔立ちの男性だった。


「とんでもない、さげまんね」


 逃亡先で籠絡したサジタリウスも、妻に絶賛お仕置き中の身である。

 キャサリンの虜と化した男達は、誰ひとりとして幸せになっていない。

 ある意味すごい女だ。



ペシペシ


「?」


 エリザベートが目を開くと、アクエリアスが不思議そうに覗き込んでいた。


「へーか?」

「そうよ」


 昨日のことを覚えていないのか、自分のベッドに彼女が寝ていることが信じられないようだ。

 確かめるようにペタペタ触れていたが、本物だと気付いたらしい。きゃーっと叫ぶと布団に潜り込んでしまった。


「陛下、アクエリアス様。おはようございます」

「ほら、おちび。起きる時間よ。出てきなさい」


 朝の支度にポーラがやってきたので、エリザベートは布団を剥いだ。身を隠すものを失い、アクエリアスの体はコロリとベッドの上を転がった。


「あのー、あのぅ」


 恥ずかしそうにモゾモゾと動くと、エリザベートの腰に抱きつく。


「へーか。あのーね」


 もじもじしている。


「しゅ、しゅ、す――! しゅき!」


「かわい「あざとーーーーーい!!」」


 ポーラの声をかき消し、思わず大声で叫んでしまった。エリザベートの反応に、アクエリアスはポカンとしている。


「陛下! ちょっと酷いです!」

「仕方ないじゃない。そう思ったんだから」

「ここはニッコリ笑って『私もアクエリアスが好きよ』が正解です」

「正解なんて知ったこっちゃないわ。私は自分に嘘をつかないって決めたのよ!」

「今の状況で、そのセリフは空気読めなさ過ぎです。支持率低下しますよ!」



「――陛下の支持率が上昇しています」


 ポーラのみならず、エリザベートも驚いた。

 王配候補との見合いは失敗続き。アクエリアスを引き取ってから、何度も頭がおかしいとか、疲れてる人扱いされていたのでルークの言葉は予想外だった。


「『怠けアリ』を通して定期的に世論調査を行なっているのですが、ちょうどその結果が届きました」

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