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お見合いクラッシャーズ

 エリザベートの王配候補はハイドラだけではない。

 複数の候補者と何度か面談という名のお見合いを繰り返し、最も相性が良い相手を選ぶ予定だ。


(今日の相手はオリオン・ケフェウス卿)


 少し歳が離れているが、外交官として長年各国を飛び回っていた男だ。視野が広く、女王による治世にも理解がある。


 仕事柄コミュニケーション能力が高く、様々な経験をしているためオリオンは話題が豊富だった。

 ハイドラの時は話し役だったエリザベートだが、オリオンの時は自然と聞き役になった。


 日当たりの良いサンルームで楽しく話していると、後ろから袖を引っ張られた。


「ちょっと――」


 女王に対して無礼極まりない。エリザベートが怒りを露わに振り向くがそこには誰もいなかった。


「へーか!」

「ええっ!?」


 視線を下げると、笑顔のアクエリアスと目が合った。「んっ」と抱っこをねだるポーズをしている。


「女王さん、すまん!」


 背後からアクエリアスを抱え上げ、ウィルフレッドが頭を下げた。

 赤毛で筋骨隆々の大男だが、眉を八の字にすると大型犬のような愛嬌がある。


「ちびすけの部屋とこのサンルームを結ぶ、秘密の通路があったみたいだ」

「嘘でしょ!?」


 王配候補とのお見合いに乱入されるのは、これで二回目だ。


「まさかピンポイントで面談中に出会すとは……すごい偶然だよな」

「偶然なんかじゃないわ」

「え?」


 エリザベートには確信があった。


「この子の母親がそうだったもの。ターゲットにした異性の居場所を嗅ぎつけて、どこからともなく出現するの!」

「へ、陛下?」


 ウィルフレッドだけでなく、オリオンも引いている。


「秘密の通路、抜け道、隠された庭園、学園の穴場……普通なら知り得ないような場所を熟知して、ターゲットの動きを読んでいるかのように行動するの! この子は、あの恋愛ハンターの特殊能力を受け継いでいるのよ! そうよね?」

「あいっ!」

「ほら認めた!」

「今のは、女王さんに話しかけられたから、反射で返事しただけだと思うぜ」

「違うわ。この子は頭が良いもの。ちゃんと私の言葉を理解しているはずよ。そうよね?」

「あい!」

「女王さん……」


 ウィルフレッドは、ヴァルゴのようにエリザベートを『あたおか』扱いしなかった。


「アンタ疲れてるんだよ。女王に就任してからずっと気を張っていて、子供まで引き取ったんだ。ちょっとくらい休んでもバチは当たらないさ」

「……そうですね。陛下は優秀なお方ですが、それは我々が甘えて良い理由にはなりません。今日はお暇しますので、ゆっくり過ごされてください」

「え? ケフェウス卿? ちょっと待って!」


 エリザベートの制止虚しく、オリオンは退室した。



 ハイドラに続き、オリオンとのお見合いも不完全燃焼に終わった。

 三度目の正直とばかりに挑んだレチクル・ボーテスとのお見合いは用心の為、幼児の足では辿り着けない、城から離れた場所で開催する事にした。


 王宮の片隅にある森は『神秘の森』と呼ばれ、小さくも美しい泉がある。

 ガーデンパーティ用の椅子とテーブルをセッティングし、森林浴状態でお茶をする。

 エリザベートが女王であるからこそ実現できる貴重な体験だ。


 レチクルは物静かで穏やかな男性だった。

 面談というより、共に過ごすという感じになったが沈黙が苦にならない。

 彼はお茶が好きなようで、得意分野に話を振れば中々面白い蘊蓄を話してくれる。率先して話さないだけで、コミュニケーション能力も頭の回転も標準以上だった。


「エリザベート! アクエリアスを見なかったか!?」


 和気藹々とした雰囲気は、汗だくのヴァルゴの乱入により破壊された。


「見てないわよ。部屋で遊んでいたんじゃないの?」

「目を離した隙に消えてしまったんだ! 君を探しに行ったに違いない」

「ここは森よ? 普通の子供なら、足を踏み入れようと思わないはずよ」


 敷地内の森とはいえ、それなりの大きさだ。大人でも遭難しかねない。泉の周囲は整備されているが、外から見たら鬱蒼とした森なので気軽に立ち入りたい感じではない。


「あの子が部屋を抜け出す理由なんて君しかいない。お願いだから捜索に協力してくれ!」

「陛下。アクエリアス様は、まだ幼いのですよね。早く見つけてあげなければ」

「〜〜ッああ、もう! 捜索隊を組みなさい!」


 ヴァルゴだけでなく、レチクルにも懇願されてエリザベートは折れた。



「そして捜索の結果、森の奥でユニコーンと一緒のアクエリアス様を見つけたと」

「ポニーどころか、おもちゃの木馬サイズのね」

「ユニコーンが稀に出現するのが、神秘の森の由来ですからね」

「眉唾物の伝承だし、あの一角潰して迎賓館作る話もあったけどこれで御破算ね」


 エリザベートは溜息をついた。

 ユニコーンはヴィクトリア国の聖獣だ。


「稀どころか、最後に目撃されたの何百年前よ」

「260年前です。陛下の御代の吉兆の証として触れ回りましょう」


 ルークは利用できるものは、なんでも利用する男だ。


「そのユニコーンは、今もアクエリアス様のところですか?」

「そうよ。すっかり飼い慣らされちゃって」


 人間の食事に味をしめたのか、野生に還ろうとしない。

 いつの間にかナイトと名付けられたユニコーンは、王宮内で放し飼い状態だ。

 基本はアクエリアスの側にいて、幼児の移動手段となっている。

 側にいない時は大抵、エリザベートの部屋でベッドを占領している。


(部屋の主が入ってきても、チラ見するだけで退こうとしないのよね。聖獣でなければ叩き出してやるのに!)


「それよりも次よ次! 連中は離宮に隔離したし、今日こそ邪魔されずお見合いするわよ!」

「陛下、フラグって知ってます?」

「不吉なこと言わないで!」

「いいえ、先に不吉な発言したの陛下ですから。私は『今回もぶち壊される』に賭けます」

「なら私は『最後まで無事やりきる』に、ルマータ産のワインを賭けるわ!」


 ヴァルゴ、アクエリアス、ナイトのお邪魔虫どもは、かつてヴァルゴが生活していた離宮に押し込めた。かなり距離があるし、物理的に乱入は不可能だ。



「ワインごちです」

「くぅぅ〜!」


 ナイトに乗ったアクエリアスによって、エリザベートとアンチラ・アプスのお見合いは開始五分で終了となった。

 聖獣と呼ばれるだけあり、ユニコーンはこの世の物理法則を無視した存在。

 馬では一時間の距離も、ユニコーンにかかれば数秒だった。


 アクエリアスがエリザベートから離れようとしなかっため、アンチラとは日を改めて会う事になった。


 幼児の抵抗と侮るなかれ。

 侍女達が抱き抱えると、全身を使って抜け出そうとウナギのように暴れ、エリザベートとの間に距離ができると大声で泣くのだ。

 強制退去させることもできたが、絶対に部屋に気不味い空気が残る。アンチラも、そこまでしてお見合いを続行するつもりはないようで仕切り直しを提案された。

 良くも悪くも野心がなく、権力に靡かない人物を選出したので、彼にとってエリザベートとの婚姻はそこまで魅力的ではないとも言える。


「あの子、わざと私の婚活を邪魔してるんだわ!」

「はあ」

「あの女が、ルークやウィルの妹にやった事と同じよ! 偶然のふりしてデートの邪魔をしまくって、婚約者との仲を壊したでしょ!」

「陛下。相手は幼児です、そんなこと考えていません。被害妄想が過ぎますぞ」


 ビ・シフローは、乱心した女王に呆れ返った。


「いえ、案外当たっているかもしれませんね」

「ルークくん!?」

「あの幼児。なんというか卒が無さすぎます。人生二周目かってくらいです」

「ほらね!」

「普通の幼児が、陛下にあんなに懐くなんてあり得ない」

「ちょっと! 聞き捨てならないわね!」

「陛下は威圧感と覇気の塊みたいな派手な女性です。母性のカケラもないし、子供に好かれる要素ゼロです」

「本気で酷くない!?」

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