07 その人はデバフ!
モモカスについてやってきたのはカオスシティの外れも外れ。陰気な雰囲気が漂う暗部であった。
「ほんとにここに本物の霊媒師が居るんだろうな??」
「居るわよ。あたしの大学時代の同期でね。天使試験には落ちたんだけど、あ、落ちたって堕ちたってことじゃないわよがははは」
ゴスッ。
手頃な瓶でぶち殴ってジョークを遮断する。
「いてぇわね……。それで、仕方ないから霊媒師になったヤツがいるのよ」
「でも天使の試験に落ちてんでしょ? 腕はどーなのよ腕は」
「それが引くほど当たるのよ。あたし神様とか占いとか信じてないんだけど」
「天使が神様信じてないってどうなのよ」
「だってクリスマスに千ピースパズルくれなかったんだもん」
「サンタじゃねーよ神様は」
そんでもって頼むのがパズルってちょっとかわいいな。生臭いくせに。
「ともかく、その子が凶兆と見るか吉兆と見るかでその人の数ヶ月の運命が分かるワケ」
「ふぅん。でさ、なんでロゼッタに目隠ししてんの?」
スカンジナビアさんに担がれているシスターロゼッタは目隠しとさるぐつわをされて、見た目だけ見れば誘拐だし、なんなら本質的にも誘拐である。
「うっうっ、うぅううううう」
泣いちゃったよ。可哀想。
「シスターは主に仕えてるから占いとか魔とかそういうのダメなのよ。だから無理やり連れてきたわ!」
ゴスッ。
手頃なバールで頚椎を殴った。良い子は真似しないでね。
「いったいわね!? 首には大事なモノが詰まってんのよ!?」
「シスターの大事なもん大事にしないお前が言うなゴミカス天使」
「うぅうううう……」
こんなことなら手伝わなきゃよかった。……だがしかしこの天使の言にも一理位はあり、ロゼッタの不運がどうにかならないといつまで経っても五層にすらたどり着けなそう。
ダンジョン配信のメインストリームは今二十八層。極低確率で黄金林檎をドロップするエンシェントワームというデカミミズがいるのだ。
まあ、五層で止まってちゃお話にならないよなぁ……。
「しかしスカンジナビアさんまでこのアホに手を貸すとは思いませんでした」
「俺はこの天使に協力すると約束したからな。いくら主人がアホで外道のドクズで地獄に落ちた方がよくても、約束は約束だ」
こいつを見る評価は皆同じなんだね。
「着いたわよ!」
ドクズだのなんだの言われても折れない鋼のメンタルをお持ちのカス天使が示したのはボロ小屋だった。
だが、雰囲気だけはあったので、とりあえずカスを信じて先に進む。
「ごっほごっほ。げほ、ボボボボ……」
なんかガスガスの人が出てきた!?
僕はモモエルを盾にして耳打ちする。
「なんか画素数四くらいのヨレヨレの人出てきたけど、もしかしてこれが友達?」
「そうよ! 天使マキエル。あ、天使免許ないから天使じゃなかったわがはははは」
ゴスッ。
マキエルが手頃な拳銃でモモエルのどたまをぶち抜く。
「痛いわね!!!! 天使じゃなかったら死んでたわよ!!」
「ゴホッゴホッ……チッ」
「お前死なない設定とかあんのかよ」
今度から肉壁タンクにしよ。
「神との契約が切れない限りはね。警察やめても免許が無くなるわけじゃないから」
「神様も厄介な奴に無敵持たせたなぁ……」
それよりもさっきマキエルめっちゃ舌打ちしてたけど。本気で殺ろうとしてなかった??
「ゴホッ……いまだいじょうがわるいの(訳:今体調が悪いの)」
「えー、ちょっとだけだって。この子のこと見てやってよ」
「げざがらぎょうじょうがでででじぞうまみれだっだがらあんばりびどどががわりだぐない(訳:今朝から凶兆が出てて死相まみれだったからあんまり人と関わりたくない)」
「ほら、マキエルさん体調悪そうだって。また別日にしよう」
「ふぅーん。まあ、仕方ないわね。でも天使って風邪とかひいたっけなぁ?」
まあいいわと言ってモモエルが引き返そうとしたその時、はらりとロゼッタの目隠しが取れる。
「あびゃーー!!! オボボボボ……」
マキエル血反吐吐いてる!?
「ちょ、大丈夫ですか!?」
「ぞのご!! じぞうまみれなんだげど!?(訳:その子死相まみれなんだけど)」
「なんだ! 見てくれるんじゃない!」
「ぢがう!! ぞれが!! げんぎょう!!(訳:ちがう、それが、元凶)」
あ〜。ロゼッタさん、本物なんだ。
僕はロゼッタさんのさるぐつわを外してあげる。
「けほけほ。ありがとうございます……」
「ロゼッタ、過去に何かした?」
ふるふる頭をふるシスターロゼッタ。
「いえ、生まれつきなんです……」
「がみにじょぐぜづのろわれなげればごんなごどにばならない……(訳:神に直接呪われなければこんなことにはならない)」
そんな規模なんだ。
恐らくシスターは単に激ヤバの不運なんだろうけど、それを感知するセンサーの感度が高いマキエルさんはモロに影響を及ぼされたのだろう。
「はえー。あんたの不運ってもうどうしようもないのね」
「モモエルのゴミカスっぷりがどうしようもないのと同じだな」
「となれば仕方あるまい。このシスターは地上に置いていくか」
スカンジナビアはそういうが、モモエルは即断即決で首を振る。
「いいえ。連れていくわ」
その目は真剣だった。天使なりに考えがあるのかもしれない。
仲間は絶対一緒じゃなきゃダメとか、案外優しいことを言うかもし──。
「こんなスケベな身体、配信の餌にしない手はないわ!!!!」
ゴスッ。
僕は拳を握り精一杯のパンチを繰り出した。
「じょ、ジョークよ……。ロゼッタだって仲間なんだから……一緒に行くわよ!」
なんだよツンデレかよ。似合わねぇ!
「だどじだらごのごぶをもっでいぐどいい……(訳:だとしたらこの護符を持っていくといい)」
マキエルが死にそうになりながら渡したのは一枚の御札だった。それを僕が受けとると、彼女は僕にだけ口を寄せて言う。
「ぞのガズはゴミだげど根ばいいやづだがら、よろじぐだのむ」
訳が無くても分かるようになっていた僕は小さく頷きかえす。
「今度、また来ます。その時は占いしてください」
ヨレヨレのグッドサインをしたマキエル。店を後にした僕らはまた新たな決心をして歩き出す。
この、最強のデバフを連れてダンジョンに潜るという、決意を──。
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