05 地獄の沙汰も金次第!
──GRAAAAAAAAAAN。
目の前で巨大なダークトロールが岩石を持ち上げて僕らを威嚇している。
インフェルノ第四層、屍人の丘陵。そのフロアボスだ。
「一説によるとこの砂丘の砂は全て死んだ人間が風化してできた砂粒らしいのよ」
「あの、今死にそうなんで黙っといてもらっていいですか?」
「コヒュー……コヒュー……」
うん、駄目だ。シスターも死にそうだし。
「……──まただめか」
ん?
モモエルのすこし神妙な声が聞こえて振り返るが、彼女はそこにはおらず、逃げたのかあのカス! と思ったが違った。
天使は僕らの前に出て、ダークトロールに向け手を重ね、手遊びのハトのポーズをした。いったい何を──、そう思ったときには、彼女は一言告げていた。
「──今度こそちゃんとやるから。へへ。……またね」
重ねた手を心臓にぶつける様にして、両手が光のエネルギーに包まれる。そしてそれを両手とも、自らの光輪にあてがう。
「喰らえっ! 超必殺ッ!爆殺抹殺ヘルフレイムエンシェントヘルフレイムエンジェリックビィィィィィィィムッ!!!!!!!!!!」
***
「佐藤カンタくんさぁ~。常連さまって、知ってるぅ?」
コンビニ、レジ前。三十分噛んだ十円ガムよりねちっこい声でチョウチンアンコウ型半魚人の店長が僕のスネを蹴りながらそう言った。
さっき来たお客さんのよく買うたばこの銘柄を覚えられず、怒鳴られ、店長を呼ばれたのだ。で、その店長が謝罪をさせられた腹いせに僕をいびっ……指導している最中。
「いやでも店長……、勤務二日目で常連さんの好み覚えるのは物理的に不可能っていうか……」
「てめーっ↑! 口答えすんのかぁ↑」
あっ、裏声。
「あ、や、すみません……」
本当に僕ってば何にもできないね。日本にいたときからこうなんだもの。
まあ、何かに挑戦するのとかって僕っぽくないし。そもそもあのニート生活楽しかったし。したいこととかないし──。
「あれ?」
なにか、大事なことを忘れてないか?
「オォイ、聞いてますかぁ? コンコン、ハロー? こんクソガキャ、売っちまうぞ! なぁんてな、がははは。──ま、今回は土下座したら許してやるよ」
僕にはしたいこと、ないのか?
「ドゥ・オ・ギャ・ズゥアー! 土下座しろー↑!」
そのとき、半魚人の唾が飛んで、──めっちゃ臭かった。
臭い、におい。頭の中で何かがつながって、それは口をついた。
「……僕は映画監督になりたかったんだ」
「はぁ~? キミみたいなゴミムシに映画なんてでk──」
となりで誰かがチョウチンアンコウをぶん殴った。半魚人は吹っ飛んでゆく。
そこに、懐かしい声が聞こえる。
「カンタ、前回の記憶あるんだ? ……まじか」
「モモエル……これ、どういうことなんだ?」
そこに、ドスッドスッと重い音を立てて歩いて来るホワイトタイガー獣人の筋骨隆々なおじさん。
「えっ!? 誰!? これは知らないけど!!!」
「俺はスカンジナビア。魔剣師をやっている男だ」
「えっ!? もふもふだ!」
僕がついもふっと毛並みを確かめても真顔のまま。
「いやー、深いわけがあってさー」
「俺が説明しよう」
そう言ってチョウチンアンコウの腹の上に座ったスカンジナビア。
「俺は時空を司る魔剣サルバトーレの所持者だ。昔は魔剣師などと名乗ってダンジョン攻略の最前線にいたが、今はただの荷運びをやっている」
「ダンジョンの荷運び……」
「だがこのアホ天使に呼び出され戦力になれと言われた。初対面で。俺は前線を退いた身だ。当然断った。だが、このアホは何度も何度も頼み込んできた。だから一度だけチャンスをやった」
「チャンス?」
「時空魔法でこのアホをタイムループに閉じ込めた。それを破れるのなら、最低限の実力はあると認めようと思ってな」
「アホって言いすぎなんですけど。てかマジでやりすぎだよね?」
「アホには同意するので続きを」
「だがこのアホは百回やってもダメだった。最初はもうちょっとまともなアホだったんだが、一万と五千を超えた辺りからヤニカスになった。それでも時間の檻を突破することはなかった」
「一万と……五千……?」
「──だがお前が現れた」
スカンジナビアは僕を指さした。
「今さっき、お前は引き継げないはずの記憶を取り戻した。タイムリーパー本人ではない第三者が──」
「ふふん。あたしが見込んだ男よ。童貞だけど」
「いまそれいらないでしょ」
「俺は努力というのか、奇跡というのかわからないが、その事実を認めようと思う。もうループはおしまいだ。モモエル、お前の仲間になろう」
だはーっと溶けたアイスの様に作画崩壊したモモエルはレジ台にもたれかかった。
「やっと終わったわ~! これでやっとダンジョン攻略ができるわね!」
「ちょ、ちょっとまって、なんでそもそもループしてたんだ? ダンジョン攻略がモモエルのやりたいことだったのか?」
「違うわよ。あたしはダンジョン配信がしたいの!」
「何のために……?」
安定したエリートの仕事を辞めて、一万五千回以上も同じ時間を繰り返して、最後には身を切るような必殺技まで使って──。
彼女は一体何のために。
「決まってるじゃない。夢があるからよ」
「夢──」
「あたしには女優になるって夢があるの。だからまずはダンジョン配信で超有名になって、お金も稼いで、コネとか太客とか使いまくって、そしていつかはハリウッドに行くわ! カンヌもね!」
全くふざける様子はなくて、いたって真面目に、目を輝かせてそう言ったモモエルは、ちょっとだけ、良く見えた。
「ふふ……ははっ。モモエル、キミは本物のバカなんだな」
「なによ、悪い????」
「いいや、悪くない」
全然、悪くない。
「じゃあロゼッタの所へ行きましょ。さっさと記憶を同期よ! パーティーが揃ったから、祝賀会よ! 飲み会よっ!」
「行くか!」
「カシオレはあるのか? 俺はカシオレがいい」
こうして、僕は極度の不幸属性を持つシスターと、最強だけどカシオレが好きな剣士と、連帯保証人になった駄天使とともに、ダンジョンへと向かった。
ここは、夢と狂気の都。
──さあ、とりあえずは稼ごうか。
地獄の沙汰が金でどうにかなるなら、ここの沙汰だってどうにかなるよなぁっ!!!
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