04 やばいキノコは食うな!
「あのさ、モモエル」
「なに?」
「うぅ……ぐすん……ぐすん」
「一回地獄に堕ちた方が良いと思うよ」
「天使に何てこと言ってんの!?」
シスターロゼッタの服にはさみを入れながら駄天使モモエルは言い返す。
「やっていいことと悪いことがあると思うんだ」
「だって天使って神の御使いでしょ? この子は神に仕えてるんだから、まあ、あたしが好きにしてもいいでしょう」
「プロタゴラスもびっくりの詭弁だぜ……」
修道服にスリットを作られ、ドンキに売ってるチャイナドレスみたいにされたロゼッタはいまだに泣いている。かわいそう。
「だってそっちの方が目が引けるでしょ? せっかく綺麗なふとももしてるんだし見せなきゃ!」
「うぇええええん……」
「え、まってまって、もしかしてだけどシスターロゼッタのことダンジョン配信に巻き込もうとしてる?」
「当り前じゃない。ヒーラーは誰がやるのよ。ロゼッタ、ヒール使えるでしょ?」
「ぐす……神学校で……ひと通りは……」
「じゃあ決まりね」
「ああ、決まりだな」
「私の味方は!?」
だってヒーラーなしで死にたくないし……。
死んでも大丈夫とは言われても、そもそも僕の場合死んでないから肉体から魂飛んでったらマジのDeathだし。
シスターロゼッタには悪いが、付いてきてもらおう。
だが安心してほしい! 考えなしに言ったわけじゃない!
「条件がある」
「条件?」
「ちゃんと、戦える人間を連れていくこと」
「当たり前でしょ。どこのバカが陰気な童貞とぺたんこ処女連れてダンジョンに潜るのよ」
「デリカシーを天界に置いてきたんかお前」
「ぐずっ……うぅ……」
モモエルはロゼッタの服を完璧に台無しにするとこれで良しと言って、立ち上がった。
「じゃ、行きましょうか。そいつのとこに」
「あてでもあるのか?」
「まあちょっとね。この世で最強の魔剣師と言われた男──漢よ」
言い直すな。音声ベースだと伝わらないだろ。
「まあ、あてがあるなら言ってみるか。どこにいるんだ?」
そう聞くと、アホエルは人指し指を下に向けた。
「???」
「インフェルノ第五層、敬虔なる使徒の都──コーブル」
***
漏らしそう。
巨大ダンジョン「インフェルノ」に足を踏み入れた瞬間の僕の第一感想である。富士急ハイランドの高飛車乗る瞬間みたいな気持ち。雰囲気が怖い帰りたい。
「カンタ、カメラぶらさないでよね?」
「無理言うなよ、だって、モンスターとかトラップとかほら、色々あるんだろ?」
「十層までは浅層だからそんなに危険もないわ。触ったら二時間以内に死ぬキノコとかはあるけど」
ロゼッタさんはカメラの前で少し緊張はしているものの、ダンジョン自体は楽しんでいるようだった。
「ごめんね、ほんと、あの時は悪ノリしちゃって……」
「ほ、ほんとですっ! ……──でも、私ダンジョンってちょっと憧れていたんです。パパ──父が今の仕事をする前は冒険者だったので」
「そうだったんだ。じゃあ、武勇伝とかも聞いたり?」
「ええ。沢山のモンスターを狩ったり、スキルを使ったり、仲間と助けあう。ベッドで寝かしつける為に語ってくれたお話はどれも私の憧れでした」
きらきらと目を輝かせるロゼッタさんは綺麗だった。
「結構いいエピソードね。情熱大陸みたいな編集にする? アナザースカイでもいいけど」
「ほんとあんたって情緒ないな」
そんなことをモモカスと言い合いながら殴り合っていると、少し前を行っていたロゼッタさんが嬉しそうに振り返った。
「皆さん、これ美味しいですよ!」
ロゼッタがふたつのほっぺをリスみたいに膨らませてキノコをむしゃむしゃ食べていた。
「あ、それ触ったら二時間以内に死ぬキノコ」
それを指してぽつりと言ったモモエル。僕は一度天使の顔を見て、その顔が引きつっているのを見て、顔が引きつる。
「ばかばかばか!!!!!!」
「ヒーラーが毒喰らうってどういうこと!? 悪食にも程度があるでしょ!!!」
「五層のコーブルの薬屋にしか治療薬無いから急ぐわよ!」
「それ確かなんだろうな!」
「人気配信者のパチキンが言ってたから間違いないわよ!」
「Wikipediaレベルの信頼度!!!!!」
だが背に腹は代えられない!
貧弱な僕でもロゼッタさんをおんぶくらいはできるので彼女をおぶると、ロゼッタさんは真っ青な顔でぶるぶると震えながら祈りを始める。ヒーラーなりの解毒だろうか。
「駄目です……。七割を引けませんでした……」
「なんだそのぽんこつヒール! かみなりでももっと当たるぞ!」
「ていうかそもそもなんで食ったのよ!」
走りながら聞くと、今にも死にそうな声で答える。
「私……昔から極度の不幸体質でして……」
そのレベルじゃねぇんだよなぁ!
瀕死で不幸体質なシスターを連れてダンジョンにいるのやばすぎるだろ。てかキノコに関しては気を付けたらどうにかなっただろ。
まずい、走ってもう三層まで降りてきたけど、モンスターでも出てきたらいよいよやばいんじゃないのか?
浅層とはいえ何かしらは住んでるだろうし……。
いやまて、思い出した。この天使にはアレがある。
「だけどいざという時にはあのなんとかビームがあるだろ?」
「ああ、超必殺爆殺抹殺ヘルフレイムエンシェントヘルフレイムエンジェリックビームね」
なんで天使がヘルフレイム撃ってるんだよ。二回も言ってるし。てかなんだよエンジェリックビームって。
「期待しても無駄よ。この前のでエネルギー使い切っちゃった」
「は? 充電式なの? どうやって供給すんの?」
「ヤニ吸えば回復するけど、最近吸ってないのよね」
ヤニカスが!!!
「命を削れば一撃くらい……」
「どのみち死ぬじゃねーか……」
「だからもうなんとかするしかないのよ!」
「なんとかって???」
「なんとかはなんとかよ! ロゼッタこれ食べて、応急処置」
口に入れられた何かに反応してロゼッタはオロロロロと全て出した。僕の肩が……。まあ、多少解毒はできたのか……。
そうして戻シスターことロゼッタをおんぶした僕と駄天使モモカスはインフェルノ第四層、屍人の丘陵に辿り着く。
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