03 ダンジョン配信をしよう!
「ぷっはぁぁああああっ!!! 生き返る~!」
「よかったです。おかわりもありますからね」
どうやら僕とモモエルはカオスシティのはずれにある教会の前で倒れたらしく、そこのシスターさんが助けてくれたのだ。
歳は僕と同じくらいだったが、所作や話し方が大人びていて、僕の様な子どもっぽさはなかった。
家がないと正直に打ち明けると、なんとかしてみましょうと言ってくれるシスター。なに? 天使なの? コレとトレードしない???
「すみません、色々と何から何まで」
「いえ、人助けは人の道ですから」
清楚で可憐なシスターさんがそう言うと僕はガツガツシチューをかきこんでむせているアホ天使を睨む。アレとは大違いだ。
「ところでお二人はどうされたんですか? あんなに疲弊した顔をされているなんて……」
「いえいえ、刑事とはそういう顔を常にしているものです。緩んだ顔では市民の方々が安心できませんからね」
「この駄目天使の言葉は無視してください。停職中ですから」
バラすなよ~と泣きだすアホ天使。
「あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あたしは天使モモエル。天使省国際犯罪捜査局の刑事よ」
「停職中。借金まみれ。家無し。臭い」
ボカッと殴られる僕。嘘は言ってないでしょ!
少し戸惑ったような顔をするシスターさん。そりゃそう。
「あ、僕は佐藤カンタです」
「ニート。目が死んでる。童貞」
どどどどど、童貞ちゃうわい!!
ちちちち、ちがわい……!
「やめときなさいカンタ。虚しくなるだけよ」
「はい、童貞です……」
少しうつむき頬を赤くするシスター。かーわーいーい。
「私はロゼッタと申します。みんなからはシスターロゼッタと」
はぁ~。名前からしていい香り。この手羽先女とはわけが違うね。顔が良くて胸があっても臭いからなこのアホ。
「ねえロゼッタ。ここらで割のいい仕事とかない?」
「それでしたらここで住み込みのボランティアなどがありますよ。人道精神に従事できますし、困っている方々に主の導き──」
「いや、やめておくわ! ボランティアなんて体のいい搾取だもの!」
人助けは基本のキじゃねぇのかよ。
「このアホのことはもういないものと思ってもらっていいんで、何でもやりますから」
「今なんでもって」
「黙れ」
「あ、それでしたらひとつあてがあります……! 決して割が良いとは言えないのですが……」
「と言いますと?」
「この教会の隣が私の実家なのですが、父が宿屋を営んでおりまして、住み込みでのアルバイトを探していると言っていたのを思い出しました。最近少し腰の具合が悪いようなのです」
住み込み!? 宿屋で三食飯付き……。隣にはこのシスターの勤務先。なんならそこが実家。最高かよ。実家……。ふふ。
「あんたいま下衆いこと考えたでしょ」
「かっかかっかかか、考えてね↑ーし?」
シチューを平らげたモモカスはシスターにおかわりと言いながら、告げる。
「やらせてもらうわ、その仕事」
「本当ですか? 父も喜ぶと思います!」
このアホ天使、なーんか臭いな。モモエルに耳打ちする。
「稼げる仕事ではないらしいけど? なんか企んでんのか」
「馬鹿ね。向こうは弱っているでしょ。これを機に恩を売れば向こうはこっちを切りづらくなる。この宿を拠点にしてもっと稼げる仕事やんのよ!」
人間の屑め。人間じゃなかったわ。
「人の好意をそんな風に利用して良心の呵責とかないわけ?」
「ふんっ。こんな見るからな世間知らず、使うだけ使ってやるわ! ゲースゲスゲスゲス」
ほーんと、こいつの羽むしってやりたい。
***
「配信をやるわよ!!!!!」
シスターロゼッタの紹介で始まった宿屋での住み込みバイト、三日目。僕が店番に立って内職をしていると、アホ天使が酒を飲みながらテーブルの上に立ちそう叫んだ。
「んなこと言ってないで手を動かしてくれよ。ほら南京玉すだれ作り」
「この時代に誰が南京玉すだれなんて使うのよ! どこから貰ってきたのよその内職!」
「おい! 全国の南京玉すだれ職人に謝れ! 意外と需要有るんだから」
僕が口答えするとモモエルは突然僕にスマホの画面を見せてきた。
画面の中では、いかにもRPGの冒険者っぽい装備のニキがカオスシティの中心部にある巨大ダンジョン「インフェルノ」に入っていく様子が映されていた。
それはどうやら生配信らしく、同時接続は20万、コメントは盛況だった。
真面目くん:その装備でインフェルノは無謀で草
カカリア:15層ボスの即死受からないでしょ
エビ炒飯:アルゴンメットだから2%回避持ち
望井俊介:歌ってみた出したので見てください
コロセウム:あー、回避配信ならサムネに入れて欲しい
はえー。こんなのがあるのか。
「この世界がどんな世界か覚えてる?」
「死者と生者の間?」
「そ! 死んでもまたここにリスポーンするからみんなゲーム感覚で死ぬんだけど、最近それを配信するのがムーブメントなのよ。これで一発当てるわよ!」
趣味の悪いブーム……。
「やめときなって。そういうのは若い子がやってるところに上の世代が参入してきたら冷めるんだから」
「なんて解像度の高いアドバイス……。てかあたし歳そんな離れてないんですけど!? ぴちぴちなんですけど!?」
「はいはい。嘘乙」
僕がまた南京玉すだれ作りに意識を向けると、顔面パンチが飛んでくる。
「なにすんだ!」
「このままでいいと思ってるの?」
「なにが?」
「むこうではパッとしない人生送って、よくわかんないままここにきて、変な奴らに絡まれて。それで人生終わっていいの?」
自分が変な自覚はあるんだこの人。
「や、まあ……。良くはないけど。でも、変われないからここにいるわけで、ていうかここにいるのあんたのせいだし……」
「でもとかていうかとか、あんたの言葉はそのどこにあんの?」
「僕の言葉──」
「何がしたいのよ。夢くらい、あったでしょ」
夢。
映画が好きだった。小さい時から映画を観るのが好きだった。
小説とか漫画とか、アニメとか詩も好きだった。
何かを想像したり、創ったりするのが好きだった。
でもそれで飯を食うなんて、夢のまた夢で。
──いつしかそれは心の底の錆になってしまった。
「……夢ならある」
「それを叶えるために、まずは有名になろうって言ってんのよ」
「有名になれば、夢がかなうのか?」
「ここをどこだと思ってるの? 夢と狂気の都、カオスシティよ? カオスドリーム、掴みましょうよ」
その視線は、いつかみたあの真剣な眼差しだった。
「……ちょっとやってみたいかも」
「そーう来なくっちゃ!」
あれでもそういえば。
「天使って公務員だよね? 副業いいの?」
「あー、警察辞めた。こっちのが稼げそうだし」
「ふーん。キミは本物のバカなんだね」
「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!
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