02 カオスシティへようこそ!
「あの半魚人は奴隷商人でね。ずっと追ってたのよ」
「僕も売られるところだった的な……?」
頷く天使モモエル。
「で、あたしは刑事ってワケ。今回の事件の担当捜査官」
「ほえええ」
片手にたばこ、片手にパピコを持ったこの自称天使は、このカオスシティの平和を維持する天使省の警官なのだという。
「そもそもこの世界って何なんですか?」
「ここはあの世とこの世の狭間の世界よ。天国とか地獄とか妖精の国につながるターミナル駅……的な? ほら、池袋線と新宿線が入ってる所沢駅みたいなものよ!」
「西武鉄道わかんないからせめてJRで例えて???」
要は生者の暮らす「この世」と天使やら悪魔が暮らす「あの世」の中継地点の街なのだ。普通の異世界とは違う。道理で日本で見たものが沢山あるなぁと思ったよ。スタバないけど。
「でもなんでこんなとこに生きた人間がいるのかしらね」
「あれ、僕って死んでるんじゃないんすか?」
「目は死んでるけど」
「目は死んでるんだ」
「魂がまだ肉体に乗ってるから、死んではないわね。不思議~」
パピコを吸ってたばこを吸う天使モモエル。ちなみにパピコの捨てるとこにちびっと残ってるやつだけくれた。
「ああ……でも生きてるとしたら今後どうしよう。ほんとに仕事見つかんないし……」
「なんで? カオスシティならダンジョンも沢山あるし仕事なんていくらでもあるじゃない」
「社会保障番号がないんで……」
「ああ……そういうのシビアだったわねここ」
最近、妖精の国から天国にトロールが逃げようとした騒動があって水際対策を強化中らしい。なんでも、その人はトロール差別を受けてきたそうで……かわいそう。
それはともかく、身元証明ができないと何もできない。
「ふぅん、ならあたしが身元保証人になってあげようか?」
「えっ、いいんすか」
「いいよ。これでも警察官だからね。人助けは基本のキ」
「……ありがとうございます」
この世界に来て、こんなに親身になってくれる人は初めてで、前の世界でもこんな優しさに触れたことはなくて、僕はぽろぽろ涙が出てしまった。
「もー、泣かない泣かない。じゃ、これ端末に親指当てて。認証して手続きするから」
「ハイテクだなぁ」
「そりゃ科学者とかエンジニアが死んだあと活躍してるからね。現世よりも進歩してるのよ。……よし、これでいいわね」
「ありがとうございます! じゃあ、僕はこれからどうすればいいですかね」
「そうね、とりあえずの家でも探しましょうか。できるなら二部屋は欲しいけど、背に腹は代えられないかなー」
「え? ワンルームで良いですよ。僕持ち物もないし」
「いやいや、そんなの嫌よ。だってあたしこれでもうら若き乙女よ?」
なんだか会話がかみ合わないな。
「いや、ですから、僕のひとり暮らしにモモエルさんは──」
「はー? 一緒に住むんだから気にするに決まってるじゃない」
「え、なんで?」
「なんでって」
「あなた自分の家は?」
「ないわよ。さっき電話があって、差し押さえをくらったわ」
「???」
「いやー、サキュバスローンに借りまくってたら家はなくなるわ、天使省からは停職処分受けるわで散々ね!」
「え、でも今さっきちゃんと公務員として身分がはっきりしてるから身元保証人にもなれるって……」
「あ、さっきのはオルガンローンの連帯保証人の認証」
「ローン……?」
「簡単簡単! サキュバスローンは返せなくなったら身体で返せって言われて、オルガンローンは臓器で返すだけ!」
「いま僕、連帯保証人になったの!?」
「そ! 一蓮托生ね! これからよろし──」
お父さんには、人生では決してしてはいけないことを教えられて育った。ひとつ、女性への暴力。ふたつ、連帯保証人になること。みっつ、親より早く死ぬこと。
ごめんお父さん。フルコンボだドン。
「──ぶぁびぶっ!!!!」
僕は天使モモエルが最後まで言う前に彼女の顔面をぶん殴った。三メートルはスクリューしながら吹っ飛ぶモモエル。天使だから重力を受けにくいらしい。あー、すっきりした。
「いったいわね!? 何てことすんのよ」
「なんてことはこっちの台詞だブヮァアアアカ!」
異世界に流れ着いて? 死にかけて? 奴隷商人に売れらそうになって? 停職中なのに捜査するようなイカれた天使がその奴隷商人を灰にして? その(以下略)天使が悪魔に金借りてて? 別の消費者金融で金借りる連帯保証人にされて?
おいおい、理不尽すぎるでしょうよ!
「で、でもでもよく考えて? こんなかわいい天使とひとつ屋根の下暮らせるのよ??」
「生臭いから生理的に無理」
「ショックすぎる一言!!!!!」
たしかにしばらくお風呂入れてなかったけどさ~と泣きべそをかきながら僕の脚にしがみつく天使モモエルを蹴りながら僕はどこか遠い所へ行きたいと歩き出す。
そっちの人に捕まったら死ぬ、死ぬ!!!!!
サキュバスローンは百歩譲ってこのアホ天使を売ればいい。胸は無駄に有るから。でもオルガンローンはやばい。オルガンって臓器だよ。直喩過ぎるってば!
そして泣いて鼻水をだらだらと流すモモエルを引きずり、同じく泣きながら歩く僕はそのまま力尽きて倒れる。
ぐぅ~ぎゅるるるるるる。
ぐぅ~ぎゅるるるるるる。
アホ天使と僕のお腹の音がユニゾンする。
「あの……。大丈夫ですか?」
そのヴァイオリンの様な美しい声につられて僕とアホが顔を上げると、そこには修道服に身を包んだシスターがいた。
「だずげでくだざい!!!!!!」
「だずげでくだざい!!!!!!」
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