第53話 再び砂漠の民の元へ、そして狂気と殺戮のワルツ
本日2回目の投稿です。お読みいただければ幸いです。
「大変申し訳ありません。預言者様にご相談があります」アーリヤが僕に相談を持ち掛けてきました。
「兄から手紙が来て、ぜひとも預言者様にお会いしたいと、東の部族の者が訪れているそうです。預言者様にお会いできるまで帰らないと言って頑張っているそうで、さらに灰の部族の後押しも受けているみたいで、兄たちも困っているようです」
「東の部族って、もしかしたら…」
「はい、ケメトに行った際、我々に襲い掛かり、全滅させた部族の生き残りです」
「まずいな、顔が知られている可能性が大きいな。行かない方がいいかな」
「大丈夫だと思います。もし、顔を知られていても預言者様を襲ったことで青くなるのはあちらのほうですから」
そのとき、ロバートが「大丈夫だよ。顔なんて覚えていないから。一緒に行こうぜ」と言ってきた。
「ロン、ずいぶん行く気なっているな」
「だって、皇帝の仕事って大変なんだよ。少し位息抜きしないと死にそうなんだ。アーリヤにも家族と会わせてあげたいし、一緒に行ってくれよ」
「とりあえず父とキャサリン姉さんに相談してみるよ」僕はロバートに言いました。
父とキャサリン姉さんに相談すると、父は「アーリヤの故郷だそうだな。砂漠の民は独立心が強くなかなか臣従しないのだが、よく支配下におさめたものだ。まあこの件は大変重要なことだ。行ってくるといい。ルートには、私から言っておこう」
「私もついていきたいけど、おなかに子供がいるから無理ね。まあ、ミリアと余余二とマリアンヌがついていくみたいだから、大丈夫だと思うけど」そうです。キャサリン姉さんは今妊娠しているのです。
「ロンの方は奥さん全員ついていくみたいだね」
「ジェミニには気を付けてね。いま、ロンにべたぼれみたいだけど、ロンのためになると思ったら、何をするかわからないから」
「ああ、しかしロンもジェミニが気に入っているみたいだしな。あんな仲良くなるとは思わなかったよ」
「確かにね。でもロンって、フライ家と気質が似ているし、ある意味身内のような意識なのかもね」
「ジェミニにそんな感情あるのかな。僕らのことだって、必要とあれば殺しかねないフライ家特有の狂気の持ち主だよ」
キャサリン姉さんは苦笑いしながら「バース、私もフライの人間なのよ。それにフライの人間から言わせれば、アントの人間は笑いながら人を殺す殺人者の家系よ」
「僕は好き好んで人を殺したりしないよ」ちょっと憮然としながら言った。
キャサリン姉さんはニコニコしながら、僕に抱き着いてきました。
「そんなの分かっているわよ。フライとアントは一枚のカードの裏と表、あなたは私の物だし、私はあなたの物、あなたが何人妻を作ろうが最終的に私たちの子供がアント家を継ぐの。フット兄さんとブルネットの子供がフライ家を継ぎ、そして両家の子供がまた交わって、いずれ私たちの家は一つになる。そのとき、このローマ連邦はフライとアントの子孫が統治するわ」
キャサリン姉さんの目はフライ家の目をしていました。
「ロンの家はどうなるんだい」僕は少し震えながら聞きました。
「アントとフライの血が飲み込むわ。はっきり言って、ロンの家系はグランドの血を引くジェーンさんとフライの血を引くジェミニ以外の系統はいずれ歴史の闇に消えていくわ。ジェーンさんの系統は我々の血に飲み込んでしまえばいい。ジェミニとはいずれフライ家の正統がどちらか決着をつけなくてはならないけど、ロンとあなたの関係があるからしばらくは敵にはならないわ。それで何の問題もない。ねえバース、私が怖い?」
僕はキャサリン姉さんの目を見ながら言いました。「僕らは子供の時からアントとのフライの宿命を背負ってきました。僕らの関係は恋というより、同盟関係に近い。僕らは最終目標に向かって走る同志だと思っている。僕にとっての初恋はミリアだ。一時はミリアと二人で生きることを考えたけど、国を背負い、軍を指揮し、責任が出てきた今は、フライとともに生きて、死ぬのが、アントの生きる道だし、その生き方に特に反発はないよ」そう言って、キャサリン姉さんを抱き返しました。
「虐殺者アントを使い、死を命じるのはフライのみの特権。その代わり、私たちはアントとともに生きる。血を交わし、肉を重ね、ともに滅びを迎えるまで」キャサリン姉さんはそう言って、キスをしてきました。お互いの唇をむさぼりあい、唾液と血を交換しました。
ロバートは出発の用意をしていました。そこにジェミニがやってきて、ロバートに言いました。
「ねえ、お兄ちゃんはバースのことどう思っているの?」
「藪から棒になんだい?」
「お兄ちゃんにとって、バースに代表されるアント家とキャサリン達フライ家はどういう存在なのか聞いておきたくて」
「バードは親友で義兄弟で命の恩人だよ。あいつがいなかったら、僕はとうに戦場で屍を曝していたからね」
ジェミニは断言するように言いました。
「アントは殺人鬼よ。その両手は血にまみれているわ。それにバースはもう人を殺しすぎて歯止めが利かなくなっている。おそらく、まだたくさんの人を殺すし、その標的にお兄ちゃんやお兄ちゃんの子供が対象になるかもしれないわよ。それにキャサリンはフライ家の直系で、その謀略の才能は私たちの中でも一番だと思うわ。二人がそろっている状態では、私にも手を出せない。そんな二人をお兄ちゃんに使えこなせるのかしら。もしお兄ちゃんが求めるなら今回の旅でバースを処理するわ。バースを処理すれば、キャサリン単独なら何とでもなる。私、お兄ちゃんのためならフライ家とアント家を皆殺しにしてもいい」ジェミニの目は本気だった。
「ジェミニ、僕はもともと下級官吏で一庶民としてミーアと結婚して家庭を築いて人生を終わる存在だったんだ。そして、それさえも、そのわずかな幸せさえも国によって奪われるところだったんだ。だから僕を救ってくれたバードには本当に感謝している。あいつはいい奴だ。俺の代わりに手を血で汚してくれたし、出会ってからずっと一緒に行動している。いま、僕はローマ皇帝などという地位についているが、そんな地位に執着はないよ。僕自身フライとアントの傀儡だっていい。愛する妻たちと人生を全うできれば、何の問題もないよ。ジェミニ、当然君も一緒だよ」ロバートは真剣な顔でジェミニの目を見ながら言った。
ジェミニは顔を真っ赤にしながら「わかったわ。でもお兄ちゃんに害をなす者がいれば、私は躊躇なく排除するわ。そして、もしお兄ちゃんが死んだら、私も一緒に死ぬからね」とロバートを見つめながら言った。その目は一抹の躊躇もない決意に満ちていた。
「ジェミニには生きていてほしいな。ジェーン姉さんやミーアは僕にとって姉さんみたいな感じだし、アーリヤは僕をなんか信仰の対象にしているのだけど、ジェミニは可愛い妹みたいな感じで初めての感覚なんだ。正直可愛くて仕方がないよ。いや、こんなことを言っては失礼だよね。実際、僕なんかよりずっと頭が良くて強いのだから。だからもし僕が死んだら、僕の子供たちを守ってほしい」そう言って、額にキスをした。
ジェミニは顔を真っ赤にして、何も言えずにうつむいてしまった。
ジェミニはキャサリンのもとを訪ねた。
「ねえ、今いいかしら」ジェミニはキャサリンに尋ねた。
「珍しいですね。ジェミニ姉さんが私を訪ねてくるなんて。ええ大丈夫ですよ、時間はありますから」キャサリンは少しびっくりしながら言った。
「フーン、影が何人かいるようすね」ジェミニはあたりを見回していった。「そういうジェミニ姉さんも相当な手練れを連れていらっしゃるみたいね」キャサリンは天井を見ながら言い返した。
お互い微笑みながら、軽く会話を続けた。
「二人目ができたんだってね。おめでとう」
「ありがとうございます。ジェミニ姉さんもすぐにできるのではないですか。ロンに相当かわいがってもらっているみたいじゃないですか。ジェーンさんやミーアさんが愚痴をこぼしていましたよ」
「あの二人とも話はついているわ。夜の生活について話し合って決めているし、何の問題もない。それに私だって我慢しているのよ」
「あら、四六時中べたべたしていて仲の良さを見せつけられていると、バースがこぼしていたわ」
「私としては、ずっとずっと一緒にいて、全部を私が独占したいのよ」
「あのジェミニ姉さんがそこまでロンに執心だとは。もしかしたら、本当に愛していらっしゃるの?」
「フライ家としては、私を通じてロンをコントロールするとともに、最悪の場合は排除することを目的として私を嫁がした。キャサリンは知っていると思うけど。なんせ私のフライ家での評判は狂気と謀略の申し子とされているみたいだからね。でもね、私はロンが好き。ロンのためなら何でもするわ。ロンのためならフライ家を滅ぼしてもいい」
「ジェミニ姉さん、私はアント家に嫁ぎ、アント家を継ぐ子を作るために、バースに嫁いだわ。私には、ジェミニ姉さんのような愛はバースには持っていない。でもバースは子供の時から知っている幼馴染だし、弟のような者だから、愛着はあるわ」
キャサリンは微笑みながら言った。「ロンはバースにとって初めての親友で義兄弟なのよ。ロマーン貴族の中で、フライ家とアント家は侯爵という身分と、政治と軍を抑えているという特別な地位にいたわ。ただでさえ貴族社会の交友関係は利害関係が中心になるし、利益を求めてすり寄ってくる奴や、私たちの持つ地位を奪おうと謀略を仕掛けてくる奴もいたわ。そんな中では友人なんてできるはずもない。婚姻も家と家との政略に基づいて決められ、そこには愛はないわ。バースは旅に出て、初めて親友と言える存在に会い、初めて愛する女性と出会ったの。それが、ロンとミリアさんね」
そして、キャサリンは真剣な顔をしながら言った。
「ジェミニ姉さんが訪ねてきたのは、バースが、そして私がロンを害する可能性を探りに来たのでしょう?それはないわ。バースはロンを殺したくないし、おそらく殺せない。殺せば、彼の人格が崩壊する可能性がある。文字通り、皆殺しの殺人鬼の誕生よ。私もロンのことは気に入っているし、ミリアちゃんも可愛い妹のようなものよ。ロンを殺せば、ジェーンさんは生きていないわ。彼女はおとなしそうに思われるけど、話を聞くと彼のために一生独身でいる覚悟があったとか。ジェミニがロンに執着する以上に、ジェーンさんはやっと一緒になれたロンに執着している。おそらく、ロンが死ねば、彼女も死ぬでしょう。たった一人の姉を殺した私たちをミリアは許さないわ。親友を殺し、愛する人に恨まれたバースの心は狂気に沈み、すべてを破壊しつくすでしょう。それこそローマ連邦は吹っ飛ぶわ。アント家同士の殺し合いでこの西方世界は血に染まり、西方世界自体が消滅するかもしれないわ」
そう言って、キャサリンはジェミニの手を取っていった。
「お願いだから、ジェミニ姉さんがロンを守ってほしいの。いまや、彼の死は世界の崩壊を招きかねない危険要素なのよ。こんなことを言って、実際は何も起きないかもしれない。でも、可能性は低くないの。彼には、天寿を全うして、たくさん子供を作ってほしいわ。その子たちは私たちが婚姻の形で取り込んでいくけどね。フライとアントは交わり、一つになる。そしてスカイ家もそこに合流していき、最終的に私たちの子孫たちが、ローマ連邦を盛り立てていきたいと考えているわ」
ジェミニはニヤリとすると、「当り前よ。ロンは私の命だからね。もしバースが狂うなら、私も狂うわ。私とバースが暴れたら、文字通り世界は滅ぶかもね。まあ、子供のことはその時代に考えればいいと思うわ。」そういって、席を立った。
そして、冗談ぽく「キャサリン、あなたはバースのことを愛していないと言っているけど、それは嘘ね。バースが死ねば、あなたも狂うと思うわ。謀略ではフライ家で最も優れているあなたが狂ったら、世界はどうなるかしらね」と言って、笑った。
キャサリンは何も言わず笑い返した。
この世界はわずかな均衡で保っている。ちょっとしたきっかけで、狂気と殺戮のワルツが奏でられることになるだろう。
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