閉話18 退役兵の人生譚
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俺はバルバドス王国の農民の五男だった。当然、俺が耕す農地なんてない。一生兄貴の奴隷として生きることになる。俺は考えた。そうだ、兵士になろう。村の出身の者が、軍で功績をあげ、報奨金をもらい、農地を買った話を聞いたからだ。
そして、12歳の時、俺は兵士になるため、軍の志願兵となった。
そこは地獄だった。兵士見習いは奴隷のような扱いを受け、毎日のように殴られ、まともな食い物ももらえなかった。
何年かそんな生活をしていたら兵士として認められるようになり、階級も上がっていった。まあ、農民出の無学な男の出世などたかが知れているがな。
ところが、ある時大変なことが起きた。国がなくなっちまったのだ。幸い、我たちはスカイ・グランド連合王国に雇われることになり、そのまま軍人を続けられるようになった。
待遇も改善し、食い物もよくなって、下の者への暴力も禁止された。
そして、あちこち転戦していくうちに、25年が過ぎ、予備兵役に編入され退役することとなった。
スカイ・グランド連合王国、いや今はローマ連邦というが兵士を25年で満期除隊させる制度を取っていた。満期除隊後、農地が与えられたり、店を出す金をもらったりして、予備兵役に編入される。予備兵役期間中は非常時に召集されるほかは、年に一度の訓練がある。いくばくかだが、手当が出る。12年ほど予備兵役を務めると、完全に退役だ。
俺は退役と同時に辺境に土地をもらった。元々は蛮族の土地らしい。
俺は仲間10人ばかりとともに小さな村を作ることとなった。
広大な畑が用意され、一躍俺はかなりの地主になった。これは俺一人では耕せないな、と思っていたら、蛮族の捕虜が配られることとなった。
俺には5人の女と1人の男の子が与えられた。仲間たち皆に同じ数の蛮族が配られた。
俺には、やや年を取った女が一人、若い女が一人、女の子供が3人と男の子が1人与えられた。みな、俺をにらんでいた。
まあ、とりあえずそいつらの主になったわけだ。ただ、上官から暴力による虐待の禁止やちゃんと食事と寝床を与えることなどいろいろ諸注意を受け、もし違反すれば蛮族の没収、最悪財産没収の上、処刑されることを言われた。
俺は、彼らに寝床と住まいを用意する必要があった。まあ、元兵士一人づつに1棟づつ掘っ立て小屋は用意されていたので、しばらくは一緒の集団生活だ。
彼らと言葉が通じなかったので、最初は身振り手振りで畑作業を教えた。農具も与えられていたので、本当に至れり尽くせりだ。
家畜も牛が一頭、他に家畜として羊や鶏が与えられていたので、牛を使って耕作することができた。
彼らは家畜の世話がとてもうまかった。俺自身貧農の出なので、家畜などいなかったから、世話の仕方など全然わからなかったのでとても助かった。
みんなで同じものを食べ、同じところで寝る生活をしていたら、彼らの態度もだんだん柔らかくなっていった。
お互いの言葉も生活していく中でだんだんとわかるようになった。
一番年上の女はアルマと言い、36歳らしい。ちなみに女の子のうち二人はアルマの実の娘だ。
若い女はローラと言い、年は16歳だそうだ。女の子一人と男の子はローラの兄弟だ。
唯一の男の子であるヤルとは仲良くなった。畑作業も一緒に行き、森に狩りにも行った。
ヤルの弓の腕はなかなかで、俺よりうまく、鳥やウサギを獲った。うまいうまいとほめると、どや顔で「部族の男、みな弓うまい。お前下手」と言って、俺をからかってきた。チクショー、俺は槍兵だったんだ。弓なんて扱ってこなかったのだから仕方ないだろう。
ある時だが、二人で畑仕事をさぼって、あぜ道に生えている花の蜜をなめていたら、アルマに「何さぼっている!」と二人して怒られたこともある。
あれ?俺って主人じゃなかったっけ?
畑の作物も順調に育ち、収穫の時期を迎えた。豊作だった。税を納めたら、収穫祭だ。
税は収穫物の3割を納めた。本当は4割だが、予備兵役の給与として1割分減免だそうだ。
収穫祭では、皆がごちそうを持ち寄り、踊り明かした。当然、他の元兵士の家にいた女子供も参加して、にぎやかな収穫祭だった。彼らの踊りや歌は独特で、とても面白かった。
祭りの場で、俺はアルマとローラに結婚を申し込まれた。
半年以上一緒に暮らしていて、すっかり家族になった我々だったが、これにはとても面食らった。
彼らの部族では、女の方から結婚を申し込むのが普通だそうだ。男の方から申し込むこともあるが、決定権は女にあるとのことだ。
「おいおい、俺は40近いおっさんだぞ。それに俺自身が言うのもなんだが、不細工で、格好だって良くない。これまで女に相手にされたことなど一度もない。なんかの冗談か?」
言っていて、自分で落ち込んだ。
背も低く、腕は槍兵だったので、丸太のように太く、指は太くて短い。顔は、いかつく顎の張った顔立ち、ぶっとい胴体で、まるでイノシシのようだと言われ、売春婦ですら客にするのを嫌がるぐらいだった。
「あんた私たちを十分に食わせていける甲斐性ある。よく働くし、力も強い。それに顔だって悪くないぞ」アルマとローラは言った。
話をよく聞くと、彼女たちの部族の結婚で一番重要な条件は、よく働き、家族を養えることだそうだ。さらに、美醜の感覚も異なっており、俺みたいな顔は男らしいとして高く評価されるそうだ。
それに、生活力のある男が複数の妻を娶るのは普通で、特に子持ちの未亡人や幼い兄弟の面倒を見なくてはならない女を妻にすることは善い行いとして評価されるとのこと。
なぜなら戦で男が死ぬことが多く、未亡人や幼い子供の面倒を見る必要があるため、生活力のある男は彼女たちを妻に迎えることで、彼女たちの生活保障を行っているようだ。
つまり、アルマとローラを妻とすることは彼女たちの部族ではとてもよい善い行いととらえられるらしい。
「こんな俺でよかったら、妻に来てくれ」そう言って、二人の申し出を受け入れた。
ひとり身の俺が、妻が二人、娘が二人、妹と弟がいる大家族になってしまった。
何年か経ち、家族もさらに増えた。
弟のヤルも大きくなり、ローマ連邦軍の兵士となった。ヤルも妻をもらった。妻はアルマの娘たちだ。何組かの結婚式が同時に開かれ、村総出で祝った。
掘っ立て小屋も立て直し、何棟か並ぶような大きな家になった。そして俺の家族たちがみなで暮らしている。多くの家族がいて、俺がこの一族の家長と言われる身分となった。
バルバドスの貧農の五男坊が夢にも見られない幸せな生活を手に入れることができ、俺は満足だ。
統一歴468年 発掘報告
この都市の前身となる村ができて700年周年を記念して、古代の墳墓の発掘が行われた。
この墳墓は最初期の入植者であるローマ連邦の退役兵たちが葬られた墓であり、その当時の様子を推測する資料の発見が期待された。
気候が寒冷であるため、死体の保存状況は良く、生前の様子がよく残っていた。
彼らはみなローマ連邦軍の軍服を着ていたが、中には旧バルバドス王国の軍服を手直ししたものを着ている者もいた。これは、ローマ連邦成立期には、急激な支配地域の拡大に軍服などのソフト面での整備が十分に行き届いていなかったことを意味する。
更に新発見として挙げられるのは、彼らは皆丁寧に葬られていたことだ。
彼らは東方の遊牧民族を滅ぼしたローマ連邦が屯田兵として入植させ、奴隷としてとらえた婦女子を与えたという記録があり、彼女たちから相当憎まれていたと考えられていたため、彼女たちに殺されたものも多かったのではないかという説があった。
しかし、発掘した結果彼らは皆、病死か老衰による死であり、大変丁寧に埋葬されていた。
そして墓の中には死者が生前使っていたものや、おそらく奴隷とされていた遊牧民から送られたであろう文物も発見された。
そして中でも大きな発見は一緒に埋葬されていた麻布に書かれた文書である。
その文書によると、その墓に葬られた男は遊牧民の子を家族の一員として育てており、その子はローマ連邦軍の一員として軍務についていたことが書かれていた。
そしてその文書には遊牧民の捕虜たちは奴隷としてではなく、家族として生活したことが書かれ、男がよき夫であり、よき父であり、よき兄であったこと、冥府に旅立つにあたり、その功をもってよき来世を迎えんことを、と書いて締めくくられていた。
この麻布は保存措置を取られ、現在街の博物館に展示されている。
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第4章はまだ続きますが、書きかけのため、もうしばらくお待ちください。5月の連休前後に投稿を再開いたします。読んでいただいている皆様、本当に申し訳ありません。




