閉話6 ブルテンの回想
毎日18時に投稿します。お読みいただければ幸いです。
我々はひいじい様の代にこの地にやってきた。元々はアサシン国の北に住んでいたが、飢饉が続き、さらに税の取り立てが厳しく、このままでは飢え死にすることとなると、北へ逃げ出した。その時の数は20万人とも30万人ともいわれている。
山を越え、河を超えて国境を抜け、今の地にたどり着いた。その道中で多くのものが命を落とし、半分ぐらいにまで減ったという。
だが、ここで苦難が終わったわけではなかった。豊かな土地はすでに人が住んでおり、我々に与えられたのは荒れた土地だった。ひいじい様とじい様は必死にその土地を開墾し、なんとか生活が送れるようになるために10年以上の時間がかかった。
さらに、なんとか作物が収穫ができるようになると、今度はバルバドスから来た伯爵から重い税がかけられるようになった。
そのうえ、隣国のフーシから侵略されるようになり、戦争のため畑が荒らされることもしょっちゅうだった。
そんな中で私は生まれた。私の家はパプル村の村長を務めており、部族の有力者でもあった。私は長男でそのあとを継ぐことになっていた。
私には4つ違いの妹がいた。目のクリっとした可愛い女の子で、私ととても仲が良かった。「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と慕ってくれた。私も目に入れてもいたくないほどかわいがった。両親も健在で、家族仲良く暮らしていた。
妹が12歳の時、この村に館を構える男爵から奉公に来ないかという依頼があった。この男爵は派遣武官の一人で、領地は持っておらず、たまたまこの村に屋敷を構えていた。まあ、この村が、伯爵領でも1、2を争う大きく豊かな村だったからだと思う。
両親はあまりいい顔をしていなかったが、私は妹の拍付にはいいかと思い、特に反対しなかった。妹は「お兄ちゃんと離れるのは嫌だ」と言ったが、私は嫁を貰っており、間もなく子供も生まれる予定だった。いつまでも兄べったりというわけにもいかないし、兄離れさせるいい機会かもしれないと、その時は思った。
結局、男爵側から何度も強く依頼があり、両親も断り切れなくなり、妹を奉公に出すことにした。
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん行ってきます」と言って、少しさびしげな顔をしながら家を出て行った。
後日、私は妹を奉公に出したことを死ぬほど後悔した。
同じ村だから、頻繁に会えるだろうと思っていた家族の思いはかなわなかった。妹は外に出ることを禁止されている様子だった。見習いでは仕方ないのかと思い我慢した。
1年後、妹が男爵の子供を産んだことを聞いて愕然とした。男爵は奉公に出た妹に手を付けて子供を産ませたのだ。両親とともに妹に会いに行ったが、会うことは許されなかった。
なんとか男爵邸の使用人から妹の様子を聞き出したが、その内容に愕然とした。
嫉妬した男爵夫人が妹を納屋に追い出し、子供を産んだばかりで体も回復していない妹をこき使っているとのことだった。
私たち家族は何度も男爵邸に足を運んだが、会うことも許されず、さらにしつこいと言って男爵邸に近づくことさえ禁止された。
母は心配のあまり寝込むようになってしまった。父もすっかり元気をなくしてしまった。
数年が経ち、妹が病で寝たきりになっていることを知った。もう許せない、村人を集めて、男爵邸を襲撃しようとした矢先、男爵邸から妹が亡くなったので、遺体を引き取るよう、さらに妹の子供も預かるよう指示があった。
とにかく急いで、男爵邸まで行くとやせ衰え、粗末な服を着た妹が納屋でぼろ切れをかぶせられて寝かされていた。顔はよっほど苦しかったのか、苦悶の表情でこと切れていた。
その場に一人男の子がいた。妹が死んでいるのが分からないのだろうか、側に座ってじっと妹を見ていた。
私を見ると、物陰に隠れてしまった。その子を追うと「お願いぶたないで」と言って後ろを向いて頭を手で覆っていた。
「一緒におうちに行こう」と声をかけた。その子は私を見上げると「ぶたない?」と聞いてきたので、「ぶたないよ」と言ったら、「ついていく」と言って私の服の裾をつかんだ。
私は妹を抱き上げて家まで連れて行った。すごく軽かった。涙が止まらなかった。
妹の葬儀は村で執り行った。男爵家からは誰も来なかった。
父は隠居し、私に家督を譲った。父も母も生きる気力がなくなったように間もなく亡くなった。
男の子はロバートと言った。娘のジェーンより1つ下だが、体は小さく、あちこちにたたかれた傷があった。
ロバートは妹によく似ていた。顔もそうだが、よく妹がしていた仕草そっくりの仕草をしていた。ロバートを見ていると、自分の犯した間違いに悔しくて涙が出そうになった。
私は妹への贖罪の意味もあり、ロバートをかわいがった。ジェーンもお姉さんとしてよく面倒を見てくれた。
食べるものを食べ、よく寝たら、みるみる元気になっていった。
あるとき、男爵家から使いが来て書状を渡された。男爵からロバートとジェーンを婚約させるようにと指示があり、伯爵の承認状が添えられていた。
ジェーンにどうするか聞くと、「私ロバートのお嫁さんになる」と満面のほほえみで返してきた。ロバートにも聞いたが、「ジェーン姉ちゃん大好き」と返してきた。
私にも異存はなかった。妹を不幸にしてしまった分、ロバートを幸せにしなくては、私は心に誓った。
ロバートが大きくなると、勉強がしたいと言い出した。私は方々をあたり、少し無理をして本を手に入れ、ロバートに与えた。すると、うわさを聞き付けたのだろう。男爵邸から筆記用具やノートなど文具が送られてきた。何をいまさらという気もしたが、せっかくもらったのだからロバートにそのまま与えた。
ロバートが11歳になった時、王都に出て、官吏養成学校を受けたいと言い出した。
この村が嫌いか、と聞いたら、おじさんたちは好きだけど男爵家の連中は大嫌いだと言った。私は何も言えなかった。あの連中が妹を、私の家族を不幸にしたのだ。
我々はいつも収奪される側だ。支配され、奪われる。わずかな幸せを踏みにじられる。我々が幸せになるためには、自分達が主人公になれる自分たちの国を持つべきだ、そういう考えに私はいたった。
でも私は非力だった。戦いも方法も知らないし、民をまとめる力もない。せいぜいこの村一つを動かすだけの男だ。
ロバートは12歳の時、村を出ていった。その後、学校に受かったと連絡があった。
ロバートは村に帰ってくることはなかった。ジェーンが16歳になり、ロバートのことをあきらめて、他のものと一緒になったらどうかと勧めた。
ロバートももしかしたら、王都で好きな女の一人でもできているかもしれないし、ジェーンは村の男たちに好意を持たれていたので、良い男を選んで一緒になったほうが幸せになれると思ったからだ。ところがジェーンはそれを断った。私の夫はロバートだけだ、それ以外の男と一緒になる気はないと言った。
私は無理強いすることはできなかった。
その時から2年後、国境で大きな戦闘があった。フーシが大兵力で攻めてきたのだ。その戦闘で男爵とその正妻の息子たちが戦死したと聞いて、私は少し復讐ができたと胸がすく思いがした。
その後、フーシ軍はバルバドス軍に撃退されたと聞いた。村に戦火が及ばなかったことを神に感謝した。
しばらくしてひょっこりロバートが村に帰ってきた。ロバートは親友だというバードという男を伴っていた。バートは北の方に多い、金髪の白い肌を持つ男だった。
バードに聞いたところ、ロバートがフーシとの戦いで大戦果を挙げたという。戦争のせの字も知らないあの子がどうしてと思い、ロバート本人に聞いたら、バードが戦闘をすべて引き受けてくれて、そして鮮やかな戦法で何倍もの敵を追っ払ったそうだ。
ジェーンはロバートが戻ってきたのを大変喜んだ。ちょうど、もうすぐ村の結婚式が開かれる。これを機に結婚してしまえと、ロバートとジェーンに話をした。ロバートは難色を示していたが、私とジェーンで押し切った。
翌日、ロバートとバードが蒼い顔をして私のところにやってきた。ロバート曰く、王都に一人結婚の約束をした娘がいるとのこと。更にその子をジェーンに会わせる約束をした。それでお互いが納得したら、二人と結婚したいと、土下座された。
正直ロバートに王都に女がいることは予想していた。まあ、わが部族も一夫多妻の習慣はあるし、ジェーンもきちんと愛してもらえるならいいんじゃないかと、ロバートの申し出を受けた。しかし、二人も嫁を貰うとはな、私の部族の女は美しい外見で情が深く、働き者だが、難点は性欲がきついことだ。一人でも大変なのに、二人もなんて私ならまずもたない。
結婚式当日、あの憎い男爵夫人が現れ、結婚式を中止しろとほざいた。頭に来た私はこの機会に殺してやろうと、村の若い者立に武器を取らせようとしたところ、バードが機転を利かせて、魔法で解決してくれた。
いくら憎くても殺せば反逆罪になるところだった。感情に任せて、危うく村を危険にさらしてしまうところだった。バードには感謝だ。
式が盛り上がってきて、若い男女が異性をダンスに誘い始めた。
この村の習慣で、ダンスに誘うことは交際を申し込むことで、ダンスを受けると申し込みを了承するという意味になる。私はほほえましい気持ちでその光景を見ていた。
すると、次女のミリアがバードのところに行って、何か話そうとしている光景が目に入った。次女のミリアは引っ込み思案で、体つきも幼く、父親として心配だった。早く声をかけなさい、頑張れ、と心の中で応援した。
もじもじしているミリアにバードは何か話しかけ、手を取って踊り始めた。うまくいったな、私は心の中でエールを送った。
しばらく踊っていると、ミリアがしていた髪飾りが落ちて壊れてしまった。何年か前に露店で買ってあげたものだ。安物だが、ミリアが気に入ってずっと使っていたので、劣化していたのだろう。ミリアがとっても困った顔をしているのが見えた。そのときバードがすかさず、新しい髪飾りをミリアに渡した。それは、はたで見てもとても高価なもので、金をベースにして美しい輝石をふんだんに使ったものだった。
我々の村では、つき合っている娘に装飾品を送るのはプロポーズを意味する。そしてそれを娘側が受け取れば婚約成立だ。
ミリアは嬉しそうに受け取っていた。父親として、バードがミリアに結婚を申し込んだのはびっくりした。
バードは冒険者だと聞く。冒険者はいろいろな国に旅をして、命の危険もある。バードもこの村からすぐに出て行ってしまうと思っていた。
ミリアは騙されているのではないか、とも思った。しかし、ロバートの親友だし、引っ込み思案のミリアが勇気を出して告白したのだし、まあ、悪いようにはならないだろうと思いそのまま様子を見ることにした。
注意深く観察していると、ミリアがカルナの汁をジュースに混ぜたものをバードに飲ませていた。カルナの汁は睡眠促進と催淫の効果があり、子作りに役立てることを目的として妻が夫に飲ませることが多い、わが村の特産品だ。
ミリアはうとうとしかけているバードを連れて、屋敷に戻っていった。
私はミリアが大人になったなと感動した。まあ、後のことは親である私が何とかしよう。明日バードと話をするか、そう思いながら、ジェーンたちの方を見ると、すでに二人は消えていた。二人ともがんばれよ、とエールを送っていたら、妻が来て、私の手を引いて寝室に連れていかれた。妻も娘たちの行動を見ていたのだろう。今夜は頑張らなくてはな。
翌日、今度はバードがロバートに連れられてやってきた。聞くとバードはロマーン王国の出身で、あちらに婚約者がいるらしい。ミリアと婚約者を会わせて、許しがもらえるなら二人と結婚したい。もし、ダメだと言われたら、ミリアと逃げてくると言った。
こちらも快諾した。まあ、外国人だが、悪い男ではなさそうだし、娶ってくれるならいいかと思った。
それからが怒涛の如く事態が進んでいった。
ロバートが子爵、バードは男爵になったと思ったら、フーシと戦い、その領土の3分の1をもぎ取ってロバートがスカイ公国を建国し、更に西に東に転戦を重ね、バードがグランド公国を建国した。
グランド公国は我々部族の住んでいる土地を支配し、さらにアサシン国境地帯までを支配下におさめていた。不毛と思われていた大地は、バードの魔法により豊穣の地に代わり、我々の部族の一部がそこに移り住んだ。
また、空いている農地もたくさんあり、移民を引き受けることもできるが、同じ部族の方がいいだろうと言い、空いたままにしてあるとのことだった。
そして、バードはミリアを妻とし、我々の部族の一員となった。我々は自分たちの国と、自分たちの部族の王を持つこととになった。
我々は、グランド族と名乗り、いずれはミリアかロバートとジェーンの子供が王を継ぐことになっている。
憎い男爵夫人も追放されて野垂れ死んだと聞いているし、私はこれ以上なく満足だ。
更にこの部族の族長に他の村長たちから進められて私がなることになった。族長は王とは違い、みんなの代表で、王に直接物が言える人物がなってほしいとのことだった。ならばということで引き受けた。なんせ、王たちの妻は二人とも私の娘だ。婿に何か言うことも問題ない。そしていずれ族長の地位は娘たちの子供の誰かが継ぐこととなっている。
私のかなわないと思っていた夢はかなった。族長にもなった。あとは南の同胞たちを左真人達から解放できれば言うことないが、それはあまりにも夢物語だ。
もし同胞が逃げてきたら、我々のもとで住むことを認めよう。土地は余っているし、王もダメとは言わないだろう。
今夜の酒は本当にうまい。
お読みいただきありがとうございました。もし少しでも気になりましたら星かブックマークをいただけると大変ありがたいです。第3章に続ける判断材料にしますので、ぜひとも評価お願いいたします。




