第7限目「おじさんたち、食べます!」
「キャビア、トリュフ、フォアグラのまぜこぜ超豪華超セレブ料理ですわ~」
金城・ラトライト・ララエールはお嬢様キャラに見合った料理を出そうと試みた。
――が……
「発想が安い」
「とりあえず三大珍味使っとけばいいってのは流石にお嬢様とはかけ離れてるよね……」
「ノットお嬢様! イエスお嬢様の皮をかぶったおじさん」
散々な言われようだった。
「きいいいいい! わたくしはおじさんですのよ! 高級料理店なんて普段いくわけないですの! 松〇かすき〇か吉野〇ですわ!」
「牛丼チェーン店利用しすぎだろ……」
悔しそうにハンカチーフをぎりぎりと噛み締める姿はまさにお嬢様そのものだったが、やはり中身が外見に適応しきっていないことがよく分かる。
「背伸びせずにさ、梅茶漬けでも出しときゃ良かったのに……」
憐憫の眼差しで見つめる一同。素材のポテンシャルが高かったため、不満は少なかったが高得点を取るには至らなかった。
「はい、まだの人~」
純、白米。
山樹森、玄米ご飯。
忍冬、兵糧丸。
「おつまみとは!?!? おつまみ勝負なのにどうしてご飯モノ、しかも、ノーマルご飯がかぶるって何!?!? てか、最後の兵糧丸ってどうして!?!? キャラ意識しすぎなのよ!!!!!」
蒼鴫みかめは声を荒げてツッコミを入れる。その後は落ち着きを取り戻し、呼吸を整えていた。
「さ、そしたら満を持してロロちゃんが登場しちゃいますか~」
骸期は上機嫌で、用意していたおつまみをテーブルの上に乗せた。
「ロロちゃん特製、チーズの燻……」
「ちょっと待ったあああああ!」
骸期の言葉を遮るように話始めたのは、藍我だった。
「俺の自信作がまだ紹介されてないぞヴォケ!」
蕪雑で粗野な藍我がマトモな料理を作るはずがない、誰もがそう考えていたからこそ、彼(彼女)の料理が出なくともなんら問題はなかったし、むしろ出さないならそれはそれでオッケーくらいにしか皆考えていなかった。
――だが、皆は予想を大きく裏切られることとなった。
「ほら、ビールの準備はいいか?」
藍我が取り出したのはスペアリブ。良く焼けた肉の匂い、食欲をそそる香りが鼻腔を刺激する。この料理は食べなくても美味であることを誰もが瞬時に理解した。はやくアレにかぶりつきたい、早くアレを口の中に入れて思い切り頬張りたい。脳内がスペアリブに支配される。まさに垂涎の的、もう目の前の肉に心を奪われなかった者はいなかった。
「肉! 肉! 肉!」
缶ビールを開ける音が皮切りとなり、皆は一斉に藍我の作った肉を嚙み締めた。
「おいおい、慌てるなって、全員分きちんとあるからよォ」
もう選手権などどうだっていい。あったのは美少女がビールを飲みながら骨にしゃぶりつく姿だけだった。
「美味い! 美味い」
食レポだってどうだっていい。目の前に美味いものがあるのだ。それを我慢してまで語ることなどない。頭を使うよりも口を動かせ、手を動かせ、そして、その味をしっかりと舌に刻み付けるのだ。
ライオンが久方ぶりに草食獣の肉にありついたかのようにガツガツと食らう少女たち。
「ロロちゃんの出番は~! ロロちゃんも頑張ったのに~……」
いつになくしょげる骸期、いつもの飄々とした姿とはかけ離れた姿だった。
「ふがふがふが」
――ふがふがふが、ふがふがッス……
虚嘘∞は極上のスペアリブを咀嚼しながら言った。