第6限目「おじさんたち、おつまみが食べたい!」
「おあがりよッ!」
赤都葉レミドが鉢巻を額に巻き、キメ顔で言った。
「おいおい、いきなり料理バトル漫画パクってんじゃねーよ! そんなことしたらこっちは衣類はだけさせなきゃなんねーだろうがよヴォケ!」
そう言いつつも藍我は赤都葉の作った料理を口に運んだ。
「う!ま!い!ぞーーーーー!」
藍我の口から勢いよく《《ビーム》》が発射される。
「いや今の読者ミスター〇っ子のネタなんか分からないから……まあ、私たちおじさんだからいいか……」
蒼鴫みかめはいつものようにやれやれと言った表情で二人を眺める。
「でも、これ普通にウマいっスよ。豆腐なのにマヨと黒コショウとチーズで濃厚な風味が溢れてるし、ビールに合うおつまみとして最適っス。何より誰でも簡単にできるのが嬉しいっス!」
虚嘘∞は赤都葉の料理に舌鼓を打っていた。赤都葉の作った料理は、この選手権の基準となるいい塩梅のラインの料理だった。
「どうだ! 俺の濃厚おつまみ豆腐!」
すかさず皆、品評モードに移行する。点数札は80点前後の点数が多い。
「くぅ~! こんなの先出しが不利に決まってんじゃん!」
ぶつくさと文句を言う赤都葉だったが、これ以上のものが出されるかここが頂点なのかは誰も知る由がなかった。
「じゃ、次、いきたい人~」
骸期が募ったが、この赤都葉のマトモな料理を超える自信がないのか、皆一瞬怯んだ様子だった。
「え……嘘……他みんなネタ枠ってこと?」
一人や二人、この料理大会でふざける人間がいることはお互いに理解していたが、まさかこの他全員が美味しさを度外視した料理を目指していたのかと誰もが悍ましくなった。
「んじゃ、次、華美咲サリア、いきまーーーーーす」
沈黙を遮り、元気よく手を挙げたのは華美咲。この華美咲サリア、一同がネタ枠だと感じ取った時、反射的に挙手をした。ネタ枠は先ほどの王道料理とは違い、後出しすればするほどハードルが上がる。最初は皆楽しんでくれていたとしても途中で飽きが来てしまう。そうなればネタはネタでなくなる。それを瞬時に判断できた華美咲は流石だといえるだろう。
「んで、これは何でござる?」
「バターの大葉乗せ~めんつゆとごま油のソースを添えて~」
「いやさあ、フランス料理風に言ったってさ、さっきのと一緒でお手軽に作れるって言ったってさあ……こんなズボラ飯、うまいわけ……」
この前振りをすることでもしかしたら、おいしくなるかもなんて考えた晴彩。考えは悪くなかった、一種の叙述トリック、定型文、テンプレートの様式美ってやつだ。
――だが、そううまくはいかなかった。
「いや、これ、ただの素材の味!」
山樹森がすかさずツッコミを入れる。バターと大葉とめんつゆとごま油の味しかしないのである。
「いやーTwitt〇rでバズってるレシピ、だいたいこの4つ使ってるからこの4つ使っとけばサイキョーでしょってことで! ダメだった?」
「ダメだった? じゃねーよ、ダメに決まってんだろこのヴォケ!」
ヴォケ先輩にキメ台詞も決めてもらい、満場一致で失格扱いとなった華美咲。
次に手を挙げたのは弐水まる。
「へへ~分かってんぜ。まるちゃんは中身が重度のおっさんだから、ぜったいニンニクマシマシアブラカラメでくるんだろ!」
重度のおっさんという意味不明な表現をした赤都葉だったが、この予想は誰もがしていたものだった。そして、この期待を裏切って欲しいという願いの裏返しでもあった。
だが……
「《《究極extremeニンニクトリプルMAXカップ焼きそば》》……」
「いや~、まるちゃんは……いつだって、まるちゃんだ……」
骸期が感慨深く頷きながら出された料理を口にほおばる。
予想通りで期待通りの味がした。
「いやもうこれニンニクだけでいいだろ! 料理名ニンニクじゃん! 究極とextremeで意味かぶってるし!!」
山樹森がここぞとばかりにツッコミを入れる。皆おじさんだからある程度ニンニクには耐性があるものの、ここまでニンニクにニンニクを重ねられるとギブアップする者も多数現れた。
「なんで、幼女系キャラはペロリできるんだよ……」
残さずに食べきったのは小柄な忍冬小鴉、純麗依、弐水まるの3名だけだった。
「骸期ロロさん~いつもみたいにあとは結果発表とかしちゃってください~キング〇リムゾンの能力でみんなこの時間の足跡を覚えていないようにしてください~」
天一がおいしいとこだけいただきたい旨を骸期に伝える。もうみんなニンニク地獄でおなかが一杯なのだ。
「この世には『結果』だけが残る! ってやりたいけど、まだちょっとパンチ弱いんだよね~これじゃ視聴者も満足しないからさ……」
「フリーダムに行こうぜ派だったよね! 今まで好き放題してたよね! どうしてこんな時だけ、視聴者の味方するの!?!?」
横から目をかっ開いて蒼鴫が叫んだ。相当先ほどの料理が苦だったらしい。
「うぅ……次回もまだ続くっス」
――ってことで、よろしくッス……
虚嘘∞は膨れた腹をさすりながら言った。