第4限目「おじさんたち、自撮りします!」
「えー視聴者の中に、美少女はいませんかー! 視聴者の中に超絶美少女はいませんかー! ティック〇ッカーでも可。明るく楽しい職場です」
「いやなんで医者とか看護師探すようなアナウンスしてんだ。てか、途中で求人広告になってるし……」
骸期はいつものように飄々《ひょうひょう》と軽口をたたいている。それに赤都葉がツッコミを入れる。
「ま、どうせ視聴者の中にTi〇Tokについて知ってる視聴者なんていないっスからこのTi〇Tok研究パートがどうなろうとみんな『最近のTi〇Tokはこうなってるんだなー』で終わるっス」
「えー、そんなことないでしょ! むしろTi〇Tokは可愛い女子高生を合法的に見ることができるアプリだから、おじさんと美少女しかやってない説があるよ! むしろおじさんなら絶対入れてるアプリだよ!」
高を括っている虚に対して晴彩が痛烈な一言を添えた。
「え? じゃあ、やってなかった虚はおじさんでも美少女でもなかったってことっスか? 虚は……虚は……一体何者なんスか……」
「こら、そこ。いともたやすく、クラスメイトの自我を崩壊させるな」
華美咲が鋭くツッコミを入れ、人差し指を天高く掲げた。
「んじゃ、各自動画一つ作って勝負ってことで! いいよね?」
ケータイで皆一様に現在のトレンドについて調べていた教室の雰囲気がガラリと変わった。
教室を出て綺麗ないわゆる映えロケーションを探す者、ダンスを必死に練習する者、笑顔の練習をする者、皆様々だった。
「はい、それぞれの過程はすっとばして、面白かった動画だけ紹介するコーナー始めようぜー!」
「おいおい、みんな研究し始めて一行しか経過してねーぞヴォケ! 俺たちの努力を蔑ろにすんなやヴォケ!」
藍我は相変わらずなんやかんやと吠えている。
「最近の読者はさー、修行パートとかそういうの嫌うんだよ。結果至上主義なの。各人がどれだけ頑張ったかなんて、関係ないの」
――悲しいけどね。
蒼鴫みかめは悲壮感溢れる顔で藍我を諭した。
「ちなみに蒼鴫さんのフォロワー数もいいね数も、最下位でーーす!」
「いやあああああ言わないでええええええええ!!」
骸期が嬉しそうに残酷な事実を暴露する。
「やっぱり、骸期殿はこの忍冬よりも非道で残忍でござる……この小鴉ももっと残忍に非情に徹しなければ……」
「ちなみに、忍冬ちゃんは下から二番目ね」
「ぐはっ」
非情な現実が忍冬にクリティカルヒットする。二人とも動画編集など素人だったこともあり上手くフォロワーを獲得できなかったのだ。
「じゃ、ベストスリーの発表!」
「ふふっ! この金城・ラトライト・ララエールが一位に決まっていますわ~~!」
堂々と高笑いする金城。自信に満ち溢れた笑みから、まさか下から三番目の成績だったなんて誰も予想ができなかった。
「はい、金城お嬢は黙ってて」
「……ぐすん」
順当にいけば、天一、華美咲、晴彩の三人がベストスリーのはずだった。
そう、彼女たちは健闘した。
この物語が普通の陳腐な平凡物語ならば、この三人だった。だが、この三人は誰一人上位三人の中に入ってはいなかった。
「一体……誰が……上位だったんだよ……」
赤都葉はまるで決勝にくるはずだった強豪校が、ノーマークだったチームに敗れたかのような衝撃を受けた顔になっている。
「《《麺500、アブラカラメ、ヤサイマシ、ニンニク入れてください》》」
「……!?!?」
電子黒板に小柄な少女が男どもに混じって大盛のラーメンを注文する様子が映し出された。
「35……歳……」
藍我が静かに呟いた。第三位は弐水まる(35)。ただ大盛りのラーメンを食べる動画が高評価だったのだ。
「まるは……好きなもので勝負しただけ」
弐水の言う通り、彼女はただ、自分が最高に輝く瞬間、自分の至福の時間を切り取っただけだった。
だが、それが良かった。幸せそうな笑み、そして、食べる様は画面越しの人々を魅了させるほどの豪快っぷり。その男気溢れる食いっぷりと美少女のギャップにやられた視聴者が多かった。
「くそッ……ギャップ萌えってやつか……」
いつもは天真爛漫な笑顔を見せる晴彩が苦虫を噛み潰したような顔で歯ぎしりしている。これもまたギャップがあるというものだ。
「二位は……一体……誰なんスか!」
冒頭で自我を破壊されかけた虚が懇願するように言った。周りの皆の視線も自然と黒板に集まっている。
「二位は面白くないので、とばしまーーーす」
「おいいいいいいいいいいいい! あたしの努力ウゥ!」
鬼の形相の山樹森が即座に骸期の胸ぐらをつかみにかかろうとした。
「嘘、嘘、そんなわけないでしょ。しっかり紹介するって」
――でも……これ……いいの?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「あれ、これきちんとあたし以外の12人分あるの? あれ、これ、みんな一様に沈黙? ほらほら何か言ってよ。これじゃまるであたし、ほんとに不人気キャラみたいじゃん? ほら? ね?」
「え? 待ってよ。みんなログアウトしちゃったの? フリーズしちゃったの?」
画面の中では山樹森が、際どい姿でセクシーなダンスを踊る。それを皆が一言も発さずに見守るという実に写実的な場面である。
「何か言ってよおおおおおおおおおおお!」
「……下品」
骸期が一蹴し、今の数分間がなかったことにされた。しかし、哀しいかな山樹森の果敢な挑戦によって、このTi〇Tokにはエッチな女子高生目当てのおじさんが多いことが証明されたのであった。
「あたしは……何か大切なものを失ったのかもしれない……」
完全に燃え尽きてしまった山樹森を余所目に、骸期は続けた。
「それではお待ちかね! 今回のトップの発表でーーーす!」
「はい、その前に一旦CM挟むッス」
――ってことで、よろしくッス。
虚嘘∞はその灰かぶりの髪をわしゃわしゃとしながら笑った。