第1限目「おじさんたち、美少女になります!」
つい先日、ほんの数日前のことだ。なんだかよく分からない会社がとんでもない薬を発明した。その名もTSD。つまるところ、女体化薬ってやつだ。胡散臭い会社の商品ではあるが、効果はどうやら本物らしい。
気になるお値段は……なんと2億円。そんなの一般市民が手に入れられる代物ではない。当然この俺だって手に入れることは出来ない。
だが、1つだけ、方法があった……それは……
――1番可愛いおじさんになること。
まったく、何を言っているのか分からない、だって?
俺だって分からない。だけど、それが条件なんだ。
ってことで、俺たちは仮想空間で最高に可愛い美少女になることを目指した!!
※
「いやいや、んなこと言ってるけどよー、お前は物珍しさで、野次馬根性で、物見遊山のつもりで、このゲームに参加したってことだろうがよ! ったく、今すぐこのゲームから降りろよ!」
赤髪が怒髪天を突く勢いだ。語気強く捲し立ててきているのは、赤都葉レミド。制服をルーズに着こなすその様はまさに番長、凛々しい中にも猛々しく荒々しい魂を感じさせる。
――それもそのはず、彼女も俺と同じ、中身はおじさんの美少女だからだ。
「そんなやいのやいの言ったって、決めるのは視聴者なんだから。私たちは媚び諂えばいいの」
蒼鴫みかめは呆れた様子で言った。こめかみにかかった髪を優雅に耳に押し当てるその様は、流れる川の如しだ。流麗で清楚、月下美人と呼ばれる類の美少女もまたおじさんである。
「蒼鴫さんの言う通りだよ。怒っていたって意味がない。そう、俺はただ、このゲームで優勝して、この薬を転売することが目的なんだ。まっとうな理由だと思わないか」
骸期ロロは一切眉を顰めることなく言い放つ。漆黒の髪に淀んだ瞳。いかにも悪役、先ほどの蒼鴫とは対照的に負のオーラを感じさせている。中身もただのニートのおじさんなのだから、中身は体を表すという言葉がよく似合う。
「そう言うところが気に入らねーって言ってんだよ! つか、転売ヤーは滅びろ」
このクラス、いや、この仮想空間には13人の参加者がいる。この中で1番可愛いと評価された者だけが、2億円の女体化薬を手に入れることができるのだ。
「ほんとその通りですわよ! 転売ヤーは滅びろですわーーー!!!」
金城・ラトライト・ララエールは声高々に言った。金髪巨乳のお嬢様、巻き髪で高貴なニオイを惜しみなく滲み出している。その金切り声を快く思わなかった藍我愛夢流は、
「うっせーんだよヴォケが! いちいち!が多いんだよ! このあむる様が何歳か知ってんのかあ?」
――三十二歳だぞお!
恥ずかしげもなく年齢マウントを取っていた。ズボラでガサツ、こちらも先ほどの金城と対照的なキャラクターである。藍我は紺色にくすんだその無造作な髪の毛を逆立てて、金城を鋭く睨む。
「年齢でしかマウントが取れない愚かな人種……なんて悲しいのでしょうか」
蒼鴫が静かに嘆く。
「おい! あむるゥ! 表出ろや!」
レミドも黙ってはいなかった。
「いいぞーやれやれー」
野次馬の骸期は無感情に言った。
「一話から喧嘩するだけの物語がどこにあるっスか!」
――普通、自己紹介からでしょ!
オレンジ髪の溌剌っ娘、晴彩祭明が勢いよくツッコむ。その通り、自己紹介が先にあってしかるべきだ。だが、自己紹介は二話だ。一話はこのまま喧嘩をして物語は閉じる。
「ま、そんな感じの物語ってことで……」
――よろしく。
虚嘘∞はその灰かぶりの髪をわしゃわしゃとしながら囁いた。
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