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おかえり、魔法少女  作者: メンダコ
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旧知の中

展開に無理があったのでテコ入れしました。

「報告は以上になります。」

「OK!アンヴァライト君、よくやってくれた。君の今後の活躍に期待しているよ?」

「ありがとうございます。」

「さぁ、あまり時間を取らせては悪い…。帰ってもらって大丈夫だ。」

「失礼致しました。」


と、緊張でカチコチになっていた彼女の報告を聞きながら、私は今後のことに想いを馳せていた。

まず私の隣でのんびりと寛いでいるコイツを遊ばせておくわけにはいかない。

どうにかして力を貸してもらいたい。

こんな(なり)でも優秀なのだ、癪だけど。

その証拠に、今だって油断しきっているように見えて実際は警戒を解いていない。

仮に私が急に殴りかかったとして、床に沈むのは私だろう。


アンヴァライト君が書いてくれた報告書を読みながらため息をついた。


「疲れてるなら休んだら?」

「それができたら苦労しないよねぇ…。」


そもそもお前のせいで仕事が増えたんだ、という言葉は呑み込んでおく。

こうなったのは彼女のせいではないし、何より彼女のおかげで色々と選択肢を増やすことができた。

上手くいけば、今私が追っている事件の解決へと繋がるかもしれない。

ある程度の信頼がおける上に戦闘力や対応力も申し分ない。

総じて都合のいい戦力だ、と。

彼女のことをどこか駒のように観ている自分に気付き、ため息が口をついた。

子供を都合のいいように動かそうとするのは、私が悪い大人になってしまったということだろう。


「ねぇ、陽奈。君はこれからどうしたい?」


意を決してその問いを投げかけた。

そうだ、確かに遊ばせておくには惜しい貴重な戦力だ。

都合のいい駒になりうる存在だ。

だからどうしたというのだ。

大人の都合で子供を振り回すよりももっと大事なことがあるだろう。


いくら政治という汚い世界で汚れたとはいえ、昔の仲間を都合よく使い捨てる様な下衆に堕ちた覚えはない。

彼女を騙くらかして、望まないことを強制する気は毛頭無い。

陽奈がこれ以上魔法少女を続けたくないと言ったのならその通りにしよう。

陽奈がしたいと言ったことは出来る限り叶えてあげよう。

そう強く思って発した問いに、予想外の形で答えが返ってきた。


「どうしたい、とは?」


驚くほど無機質な目が私を見つめてくる、

いつもは明るいオフィスが、この時ばかりはうす暗くなったような気がした。

白状しよう、私は怖くなったのだ。

私にとっては既に過ぎ去った大災害が彼女を通してありありと息づいているようで。

だからかもしれない。

私は最悪の問いを返してしまった。


「っ!?…ほら、あるだろう?したい事とか、なりたいものとか!」

「ないよ。」


どこか悲鳴じみた絶叫。

しかし陽奈はそれを気にする素振りすら見せない。


「ねぇ、笠原?」


やめろ、それ以上言葉を続けないでくれ。


「私は闘うことしかできない。」


自分が救えなかった者たちが思い起こされる。

彼女たちもこんな目をしていなかったか?


「もう私には魔法少女(コレ)しか残ってない。」


──知ってるでしょ?


陽奈の呟きが、心臓を鷲掴みにした。

冷え切った空気が肺を圧迫してくる。


「また難しいこと考えてる顔してる。ほら、笑って?」


…抜け殻。

そんな言葉が当てはまる姿に只々茫然としてしまう。

昔はこんな子じゃなかった。

もっと周りも暖かくするような、太陽みたいに笑う子だった。

こんな、こんな悍ましい笑い方をする子じゃなかったのに。


彼女と最後に会った時から11年が経っていた。

その身に何があったのかも、何を経験したのかもデータとしては知っていた。

でも本当の意味で理解はしていなかったのだ。


「……今なら、魔法少女を辞めることだって出来るんだぞ?」

「辞めない。」

「………そうか。」


俯いた私は、一体どんな表情をしているのだろうか。



私は体育館のような広い施設まで連れて来られた。


「ここは?」

「魔法少女用の運動施設さ。ある程度の耐久力はあるから、色々試すならここが一番丁度いい。」


そう言って振り返った笠原の表情はいつも通りに戻っていた。

調子が悪かったのかと心配していたところだったので、これで一安心だ。


「今から陽奈には魔法少女に変身してもらう。」

「わかった。」

「ただし、これを使ってだ。」


マナ粒子を練り上げ、心象風景を展開しようとしたところで、笠原に手で制止された。


「一旦落ち着け…仕事は逃げないから。」


差し出された笠原の右手には、ゴツいスマホの様な物が握られている。

受け取って眺めてみるが、やはりそうとしか見えない。

違和感があるとすれば見た目より軽く感じることくらいかな?


「これなに?」

「変身用の端末だよ。新人の子たちはこれがないと変身できないんだ。」

「なるほど。」

「ちなみに、見た目通りスマホとしても使える。」

「なるほど。」


普段使いするには少し安っぽい見た目だと思うけども。

ゴツい割に原色が多用されているせいで、おもちゃの様な安っぽさを感じてしまう。


「これどうやって使うの?」

「藍色の枠のアイコンがあるね?それを押せばアプリが起動する。」


確かに、魔法陣の様なデザインのアプリがある。

特徴的なので、他のアプリと見間違えることもなさそう。


「行くよ?」


笠原の方を見ると軽く頷いてくれた。

躊躇(ためら)いつつもアイコンをタップ、アプリを起動する。


《Are you ready?》


そんな音声と共に、スマホの画面にはデフォルメされた花の様なシンボルが画面上に浮かび上がる。


「それを押すんだ!」


言われるがままにそのシンボルに触れた。

体内のマナ粒子が吸われるような感覚。


《Yes my ready!》

《Make up!》


「うわっ」


画面が一瞬だけ光を放ち、私の服装が変化していく。

マナ粒子が空中で編み込まれ、布のような何かを形成していく。

それが徐々に身体を覆っていくにつれ、明確な変化が訪れ始めた。

鋭敏になる感覚。

次第に時間の流れすらも遅く感じられるようになる。

この段階で溶けるようにスマホが消えた。


ただの部屋着は、袴のような白黒の衣装へ。

腰には打刀、腕と脚には鎧の甲。

所々に装飾が施され、品の良さはあれど無骨さは感じられない。

最後に、余剰のマナ粒子が一陣の風を吹き起こす。

定着した衣装がはためき、落ち着いて、これで変身完了ってことかな?


「おぉ〜!」


この端末が自動的にマナ粒子の制御をやってくれるみたいだ。

新人の子がこれに頼っちゃうのも分かる気がする。

普段は変身する=戦闘開始なので、落ち着いて衣装の変化を見ていられたのは初めてかもしれない。

新鮮な体験にムクムクと湧き上がる好奇心。


他には何が出来るんだろう?


「ちょっと体動かしてもいい?」

「もちろん」


一応、笠原に確認を取る。


設備壊したらごめんね?


「よし、行くよっ!」



踏み込んだ右足に左足を揃え、その場で大きく腕を振り上げる。

上昇した身体能力は重力を打ち消すほどの強烈な推進力を生み出し、結果として私の身体は垂直に跳び上がった。

床が鳴る音がどこか遠くに聞こえる。

そのまま天井に触ってやろうと手を伸ばして…


…あれ?


全然届かない。

本気じゃなかったにしても、魔法少女の脚力だ。

届いてもおかしくないはず。

身体の感覚と現実の結果がかけ離れていて、どこか違和感を覚えてしまう。

結局、8m程度跳び上がったところで私の身体は落ち始めた。

1秒後、着地。


「ねぇ笠原、これ出力弱くない?」

「そうなんだよねぇ…。純粋な魔法少女と比べちゃうとどうしてもそうなっちゃうんだけど…理由は薄々察しが付いてるよね?」

「うん」


・端末のマナ粒子制御力が弱い

・マナ粒子の操作に端末を挟むから、ワンテンポ遅れる


原因はこんなところだろうか?

弱い魔獣と闘う分には影響は少なさそうだけど。


「本来、端末はマナ粒子の操作に慣れるための補助具だったんだけど…今じゃ大半の魔法少女がこれに頼りきりになってる。魔獣も全体的に弱体化してるからなんとかなってるって感じかな。」

「なるほど。」


幸いなことに、私には端末の出力を上回る制御力がある。

多少全力は出しにくくなるけど、逆に言えばそれくらいしか問題はない。


「魔法は使える?」

「もちろん。スマホを見てくれ。」


念じると手元にスマホが出現した。

何この素敵機能。

すっごい便利じゃん。

画面を見ると、今度は剣をデフォルメした様なシンボルが表示されていた。

それをタップする。


─Full charge!


腰の刀にマナ粒子が集まっていく感覚。

慌ててスマホを放り投げて刀を抜く。

引き抜いた刀身は強い光を発していた。

柄の振動から、刀自体がこの紅い光の圧力に耐えかねているような雰囲気が伝わってくる。

早くどうにかしないと暴発してしまいそうな予感。


「えいっ」


とりあえず刀を振り抜くと、斬撃が()()()

尾を引いた紅い光が壁の方まで飛んでいき…


チュドォン!!


と、着弾。

離れていても伝わってくる衝撃波に、飛ぶ斬撃の威力の強さが感じられる。


「えーと、これはその…悪気はなくて、」

「分かっている。壁をよく見てみろ。」


私の魔法が当たった壁は、焦げ跡こそ大きく広がっているもののそれ以上の被害はない。


「言っただろう?ここは魔法少女用の運動施設だって。このくらいじゃ傷も付かないさ。」

「むぅ、それはそれでムカつく。」


どこか煽るような笠原の言葉。

思うところはあったけど、ひとりで試せることは大体試したので変身を解除した。

砂が風に吹かれて散るように、ゆっくりと空気に溶けて消えゆく衣装と装備。

併せて手元に出現したスマホを掴む。


いつの間にか歩き出していた笠原に置いて行かれないように、私も少し駆け足でその背を追いかけた。

〜魔法局公式wikiより抜粋〜


・なぜ魔法少女は“変身”するのか?

魔法少女は変身する事で、身体能力を大幅に上昇させます。

そこにはマナ粒子の作用が大きく関わっています。

ご存知の通り、マナ粒子には”意思を反映して現実を書き換える“という性質があります。

つまり、魔法少女は変身によって”最初から超人的な身体能力を有していた“と、肉体の情報を書き換えているのです。

変身時の衣装が心象風景を模しているのは、現実を自身の心の延長線上にあると認識させ、現実改変を行いやすくするためです。

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