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声を取り戻した金糸雀は空の青を知る  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
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4 リュエンシーナ様3


国王陛下には王太子殿下と第2王子殿下。二人の王子殿下がいらっしゃいます。


王太子殿下と第2王子殿下はひとつ年が違うだけ。

机を並べ、一緒に授業を受けられることもありました。


本日もそうでした。


長引いた授業の終わり。

リュエンシーナ様と私が二人の王子殿下のお茶の用意をしておりました時。


「王太子殿下。もっと励んで下さい。

今のままでは偉大なる国王陛下――お父様のようになれませんよ」


教育係がそんなことを言って部屋を退出していきました。


沈黙が流れます。


王太子殿下は叱咤された(しかも弟君の前で)情けなさからでしょうか。

弟君の第2王子殿下は、兄君の王太子殿下の気持ちを慮ってでしょうか。


二人の王子殿下はただ俯いておられました。


と。



「国王陛下はお酒に弱いんですよ」



思わず耳を疑いました。

言ったのはもちろんリュエンシーナ様です。


―――殿下方に近付いたと思ったら何バラして――言ってるんですか、貴女は。


焦りました。が、時すでに遅し。どうしようもありません。

王子殿下はお二人とも、呆けた顔でリュエンシーナ様を見ていました。



リュエンシーナ様は口に手を添えて、二人の王子殿下にこっそり耳打ちするように続けます。



「私の父もお酒には弱いのですが。

国王陛下はその父の半分もお飲みになれません。

おまけにすぐに顔に出ます」



―――良くご存知で。


ああ、もう。


……事実です。が、それは極秘なのです。王宮でも限られた者しか知りません。

王子殿下方にも告げられてはいませんでした。今、この瞬間までは。


この国では《男子であればお酒は当然、嗜む物》と思われています。


そんな中、国王陛下とリュエンシーナ様のお父様は殆どお酒が飲めません。

お酒に弱い同士です。

それが縁で、お二人は大親友になられたのだとお聞きしております。



リュエンシーナ様の話は続きます。


「――ですので、ここだけの話。

王宮で開かれている宴の席で、国王陛下がお飲みになっているのは《お水》だと思います」


「……水……?」


王太子殿下が問うとはなしに言われました。

リュエンシーナ様が頷きます。


「はい。国王陛下の酒瓶だけ、中身はお水ですよ、きっと。

たぶん近衛隊長あたりがこっそり手配しているとふんでいるんです、私」



―――はい。正解です。実際に用意し、国王陛下に届けているのは侍女長です。



「絶対に確かめたいと思っているんですけど。どうでしょう。

いつか一緒に確かめませんか?」


「………確かめる……?」


興味を持たれたのでしょう。第2王子殿下が身を乗り出しました。

リュエンシーナ様は悪いお顔になっています。


「はい。偉大で、強面な、国王陛下の酒瓶の中身を、です。

すましたお顔で宴の間中、ずっとお水を飲まれているのかもしれないんですよ?

ふふ。考えただけで笑いが……ぷぷっ」



―――やめてください。なんて事を考えているんですか貴女は。



リュエンシーナ様は両手で口を押さえ笑いを堪えています。

王太子殿下と第二王子殿下は、そんな彼女をぽかんと見ておられましたが………

やがて吹き出し、三人は声を上げて笑い出しました。



少し離れたところでは警備の騎士が驚いたようにこちらを見ています。

そうですね。殿下方と侍女が大声で笑うなど……あり得ないことですもの。


存分に笑ってから。

リュエンシーナ様は二人の王子殿下に悪戯っぽく微笑みました。


「誰にも内緒ですよ。知られても私から聞いたとは言わないでくださいね。

叱られますから。もし万一、誰かに知られた時は――」


「「知られた時は?」」


「近衛隊長に聞いたことにしましょう」



―――おい。



ああ。いけない。私としたことが。


二人の王子殿下は再び大笑いされました。


リュエンシーナ様はそんなお二人にぺこりと頭を下げると侍女の定位置に戻り、

何事もなかったかのようにすっと澄ました侍女の顔になりました。

……器用な方です。尊敬します。


私はリュエンシーナ様と肩を並べて立ちながら

口を開けて笑うなどはしたないことですよ、と注意するつもりでしたが。


まあ………良いでしょう。

お茶を召し上がる殿下方の、晴れ晴れとしたお顔を見ながらそう思いました。



その日のうちに、私は国王陛下に呼ばれました。


部屋にいて、やりとりを見ていた警護の騎士から報告を受けたのでしょう。

さすが近衛騎士隊を率いる近衛隊長。素早いことです。


案の定、国王陛下の広い執務室は、きっちり人払いがされておりました。

部屋には国王陛下と、そして後ろに控える近衛隊長の姿のみです。


国王陛下のお顔には珍しく笑みが浮かんでいました。


「あの子は王子達と打ち解けたそうだな」


「はい」


余計なことは言わず、私は短くお答えします。


「報告を受けた。三人で、とても楽しそうに笑っていたと」


「はい」


「そうか。それは良かった」


「……はい」


「これからは定期的に報告に来てくれるか」


「――仰せのままに」


私は侍女の礼をし、国王陛下の執務室を後にしました。


読んでいただきありがとうございます。

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